スペイン語で「箱」を意味するカホン。その名のとおり四角い箱の形をした打楽器で、奏者が上に座り手で叩いて音を鳴らすとてもシンプルな楽器だ。もともとはペルー発祥の民族楽器だが、1970年頃、スペインでフラメンコに使われだすと瞬く間に世界中に広まり、独自に進化しながら現在では多くの人に親しまれている。今回は、カホン講師の宮田さんに魅力や簡単な叩き方などを聞いてみた。
カホン講師
宮田大輔さん(ミッチー先生)
日本ではまだ数少ないカホン専門の講師として活動。自身が運営するミュージックスクール「音と樹」でレッスンする他、SNSやYouTubeでカホンのレッスン動画配信も行う。さまざまなメディアに出演するほか、アーティストの演奏やレコーディングに参加するなど精力的に活動している。大のうさぎ好き。
「カホンはもともとペルー発祥の楽器です。諸説あるのですが、19世紀頃、スペインの植民地だったペルーで太鼓を叩くことを禁止されたアフリカ系(奴隷)の人達が、木箱やひょうたんなどを叩いたのが起源だとされています。世界に広まったのは、スペインのギタリスト、パコ・デ・ルシアがペルーを訪れた際にカホンの音色に惹かれ、母国に持ち帰ったのがきっかけ。以後、スペインの民族音楽舞踊であるフラメンコでカホンを使うスタイルが確立され、その後急速に世界に広まっていきました」
「構造はとてもシンプル。四角い箱の形で、中は空洞。多くは木目やアクリルなどで作られる打面の反対側の面に音がでるサウンドホールがあり、叩くとここから音が出ます。打面の裏にはギターなどに使われるガット弦や、ドラムセットに使われるスナッピーと呼ばれる弦が張られており、弦が振動することで高音のアタックやバズ音が出るようになっているのが特徴です。ペルーやキューバのカホンには弦が張られていないものもありますが、日本の楽器店で一般的に売られているカホンは弦が張られているものがほとんどだと思います」
ワークショップでの練習風景。老若男女、幅広い層が参加している。誰でも簡単に音が出せて、音楽を楽しめるのもカホンの魅力という。
「カホンは音を出すこと自体とても簡単で、とりあえず叩けば誰でも音が出せます。基礎となるベース、タップ、スラップという3つの動きがあり、その動きと基本的なリズムパターンさえ覚えれば、曲に合わせて叩くなんてことも短時間でいけちゃいます。実際、私が開いている教室の生徒さんも、教えるとすぐにある程度叩けるようになる人がほとんど。もちろん、突き詰めていくと難しいことも出てくるのですが、敷居とはとても低い。楽器は最初の段階で音を出すのが難しくてやめてしまう人が多いので、初心者でもすぐに『音を出す楽しさ』を実感できるのはカホンの大きなアドバンテージではないでしょうか」
「カホンは比較的大きな楽器なので持ち運びが大変だと思われるかもしれませんが、専用のリュックに入れることで誰でも簡単に持ち運ぶことができ、家以外のさまざまなシチュエーションで演奏できます。また、とても丈夫なので持ち運び中もそこまで神経質になる必要もなく、メンテナンスもほとんど必要ありません。僕は家で使わない時は椅子代わりにしているほど(笑)。難しいセッティングも必要なく、すぐに外出先で叩ける気軽さも魅力ですね。最近では折り畳み式のカホンや、ウクレレカホンといわれる丸型の小さなカホンもあったりして、女性や子供でも簡単に持ち運べるものも登場しています」
「カホンはどんなジャンルにも対応できる万能楽器です。他の民族楽器はもちろんのこと、バンド編成、アコースティック編成、ロック、ポップス、ジャズ、ファンクなどほぼ全ジャンルの音楽に対応でき、さまざまな楽器とセッションできるのも大きな魅力です。自分で練習して上達していくのも楽しいですが、他の楽器と合わせるともっと楽しくなるはず。カホンが叩けるようになれば、他楽器の人とすぐさまセッションして打ち解けられるので、ひとつのコミュニケーションツールとしても優秀だと思っています」
宮田さんのセッションの様子。どんなジャンル、楽器とも相性が良いが特にカホンと似た構造のギターとの相性は抜群だそう。ドラムの代わりにカホンを使ったバンド編成も多く、さまざまなシチュエーションで演奏されている。
カホンを始めてみたくなったら、まずは腰を痛めないための基本姿勢と、
すべての基礎となる3つの動きをマスターしよう!
「この3つの音が出せるようになれば、エイトビートのパターンを叩くことができ、曲に合わせて演奏だってできちゃいます。また、叩く場所や順番を変えるだけでさまざまなパターンができるので、まずはこの3つの音を確実に出せるようになりましょう。ベース、タップ、スラップを使ったエイトビートの動きは動画で紹介しているので、こちらも併せて見てください」
一口にカホンといっても、サイズ、響き線の有無や種類、素材などさまざまなものが存在する。
宮田さんの沢山の愛用品のなかから、それぞれタイプの異なるオススメのカホンを教えてもらった。
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ウッドの打面で、打面と反対側にサウンドホールがあり、響き線も備えたスタンダードなカホン。こちらはスペインのカホンメーカー「Mario Cortes」によってデザインされた、スペイン産のカホン。全体的に柔らかいサウンドになっているのが特徴。
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長野県岡谷市のカホンメーカー「CHAANY(チーニー)」社のカホン。打面に透明のアクリルを使っているため中が見えて見た目にも◎。響き線は8本の弦が入っており、タイトで繊細なタッチの音色を実現。写真は宮田さんのシグネチャーモデル。
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「A TEMPO PERCUSION(アテンポパーカッション)」のペルー産カホン。組み木の単板ボディで、打面を正方形に近づけることでベースを強化したモデル。響き線はギター弦を天面から側面にかけ左右各3本斜めに配置し、ベース音とスネア音の分離も抜群に良い。
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コンパクトに持ち運べる折り畳み式のカホン。胴体の天板・底板・側板を内部に収納でき、左右4つずつ計8箇所を留め金で組み立てる仕組み。ワンタッチで留められるため、慣れれば1分ほどで組み立て可能。組み立て式ながら、強度も音色も犠牲にされていないのもポイント。
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宮城県のカホン工房「ARCO PERCUSSION(アルコパーカッション)」がつくる丸く小さなカホン。その名のとおりウクレレと一緒に演奏することを想定しており、非常にコンパクトかつ軽量なので持ち運びも苦にならない。小型ながらしっかりとした音を出せて、ピックアップも内蔵する。
初心者が始めやすく、やり込んでいくととても奥が深いカホン。一見するとただの箱だが、じつに多彩なサウンドを奏でることができる“魔法の箱”なのだ。全身で音を感じとれる楽器なので、ぜひ今夏始めてみてはいかがだろう。