ここからは、インディーズ打楽器にハマった3人の達人たちに、それぞれが極めた楽器の魅力を語ってもらおう。まずは、民族打楽器のなかでも現在進行形で独自の進化を遂げている西アフリカ生まれの打楽器「アサラト」だ。1本の紐に2つの球を結びつけただけのとてもシンプルな構造で、2つの球をぶつけて音を出す。ここ日本で「楽器」として進化したが、今アジアの国々をはじめ世界中にその魅力が広がり始めている。今回、世界屈指のアサラト奏者であるwatariさんに、その魅力や演奏の基礎などを聞いてきた。
アサラト奏者 watariさん
大学時代、タイ旅行中にアサラトと出合いその魅力に気づく。以降、毎日アサラトを振り続けてスキルを磨き、いつしか世界トップレベルのアサラト奏者に。フリースタイルバトル三連覇チャンピオン。同じくアサラトフリースタイルバトルで三連覇したPANMANと「ASALATO TOKYO」を結成し、アサラトの音楽性を追求しながら、世界に普及する活動も精力的に行っている。YouTubeチャンネル【アサラトTV】も人気。
「アサラトは西アフリカ生まれの民族楽器で、もともとはアフリカの母親が子供をあやすためにつくったおもちゃが起源のようです。日本でいうところのデンデン太鼓のような感じですね。それが約30年前に日本に伝わり、日本人がさまざまなリズムやトリックなどを生み出していき「楽器」として発展させてきました。おそらく手元で細かな動きをするのが得意で、マニアックに追求していく日本人の国民性にぴたっとハマったんだと思います。西アフリカ生まれ、日本育ちというとても珍しいパターンの楽器で、日本は一流の奏者も多い世界トップのアサラト大国なんです」
「構造は至ってシンプル。直径5cm程度の穴が空いた球に、20〜25cm程度の紐を結びつけてあるだけです。球は木の実がスタンダードですが、最近ではプラスチックや強化プラスチック、ゴムやコルクなどさまざまな素材を使ったものが開発されています。球の中には小さな木の実が入っており、振るとシャカシャカと音がします。アフリカだとワイルルという植物の種が入っていますが、僕はシェイク音を細かくしたいのでビーズが入ったものを使っています。これを右手と左手にひとつずつ持ち、縦に振って「シャカシャカ」という音を出しながら球同士をぶつけ「カチカチ」という音と合わせ、リズムをつくっていくのが基本になります」
watariさんのアサラト。西アフリカでは木の実でできたのもがほとんどだが、日本で楽器として発展していくなかで、今ではプラスチックやコルクなどさまざまな素材のものがつくられている。プラスチックでつくられたものは「パチカ」という名前でも呼ばれている。
奏法は現在進行形で生み出されているが、アサラトを振って出す「シャカシャカ」という音と、球同士をぶつけて出す「カチカチ」という音を合わせてリズムをつくっていくのが基本。
「僕が感じるアサラトの魅力のひとつに『演奏することの気持ちよさ』があります。練習していくうちに自分の動きとリズムがピタッとハマる瞬間があって、その瞬間脳内物質がどばっと放出される感覚がある(笑)。他の楽器も色々やったことがありますが、『気持ちいい』という感覚を味わえたのはアサラトだけ。聞いただけじゃピンとこないかもしれませんが、初心者の方でも味わえるはずなので、ぜひ体験してほしいですね」
「集中してアサラトを振っていると、雑念が消えてその世界に没頭できるのも凄いなと思うところ。頭で考えると上手くいかないことが多く、とにかく無心になって振り続けていると今自分がどこにいるのかを忘れてしまうこともあって。『無の境地』に達すると言っても過言ではないくらい。マインドフルネスという意味では、瞑想やヨガなどに通じる部分もあるのかもしれません」
「アサラトはとてもコンパクトで、持ち運びに苦労せず、いつでもどこでも好きな場所で練習できるというのも大きな魅力だと思います。音が気になるなら、コルク素材のものなど大きな音がしないものを使えばいい。僕は普段からカラビナでベルトループに繋げて持ち運んでいます」
「ふらっと山や川など自然があるところに出かけて、すぐに演奏できる。僕は近所の公園が一番好きな場所で、アサラトをカチャカチャやりながら散歩するのが最高の時間。太陽の光を浴び、木々を見ながら歩いているとすべてから開放される気がします。子供達が寄ってきたりして、本当に楽しいですよ」
「一人でスキルを高めリズムを生み出していくのも楽しいですが、人とセッションすることでアサラトならではの『気持ち良さ』は倍増します。アコースティックギターやジェンベ、カホンなど生音系の楽器ととても相性が良いですが、個人的にはアサラト同士でセッションするのが一番好き。本当に多彩なリズムを生み出せますし、シンクロする感覚もあり、一人でやるのとはまた違う面白さがあります。セッションする相手がいなければ、音楽をかけてそこに合わせるとかでもいいと思います」
アサラトをちょっと始めてみたいなと思ったら、まずは基本となる動きをマスターするところから。
これができるようになるだけでかなり世界は広がる!
「シェイク、フリップフロップ、ハングはアサラトにおいてとっても大事な基礎。マストで習得するべき基本動作になります。最初はうまくいかないと思いますが、何度も練習すれば必ずできるようになります。いつでもどこでも練習できるのがアサラトの強みなので、例えばテレビを見ながらでも大丈夫。徐々にできるようになるのではなく、いきなりできる瞬間が訪れるので是非諦めずにチャレンジしてください。」
楽しむ人が増え、世界中にその魅力が伝わるなかでアサラトもさまざまな種類が登場している。
もちろん、それぞれ音色も異なる。watariさんの愛用品から一部ご紹介。
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西アフリカに伝わる、木の実でできた最もスタンダードなアサラト。オンコバスピノサという稀少な木の実でつくられており、アサラト特有の自然で優しい音を出す。天然の木の実を使用しているため個体差がある。写真のアサラトの紐はザイルを使用。
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3Dプリンターで形成することで、アサラトの弱点である“強度”を見事に克服した「割れないアサラト」。非常に耐久性が高く、ちょっとやそっとじゃ壊れない代物。watariさんいわく、アサラトに革命を起こしたアイテム。初心者にもオススメ。
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台湾のアサラトチーム「ASALATO TAIWAN」のリーダー、FUSOが製作しているマナーモードアサラト。球同士が当たった時のアタック音がほとんどしないので、周りに人がいる状況で練習したい時にぴったり。しっかりとした振り心地で演奏しやすいのも◎。
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プラスチック製アサラトの元祖。扱いやすさと手頃な価格(1000〜2000円前後)で、初心者がまずは試しで始めてみたいという際にもオススメ。つくりや素材はシンプルながらしっかりと音が出るので、オモチャ感覚で持っておいて間違いないアイテム。
シンプルな楽器だが、とても奥が深いアサラト。基本の動作だけでも初心者には難しいが、苦手意識を持たずにやってみてほしいとwatariさんはいう。アサラトならではの「気持ちいい」感覚を掴めばしめたもの。そこから、新しいアサラトの世界が広がっていくはずだ。