欲しいものを買ったり、高級グルメを食べたり、そんなご褒美はもちろんテンションがあがる。一方で疲れた心と身体を癒すため、メンテナンスにお金をかけるのも贅沢なご褒美だろう。そこで、編集部では身体を労わるリトリートステイをおすすめしたい。観光地を忙しく巡るのではなく、ホテルに滞在し、自分と向き合う時間をつくる。スマホの電源をオフにして、デジタルデトックス。そんな過ごし方をする日があってもいいだろう。
Photos:TATSUYA YAMANAKA(stanford)
Styling:YONOSUKE KIKUCHI
Model:HAYATE OGASAWARA
Text:SHINSUKE UMENAKA(verb)
2024.11.15
瀬戸内海に浮かび、本州と四国を結ぶ淡路島。温暖な気候で古くから酪農や農業が盛んな土地だが、近年は開発が進み、ホテルや観光施設が続々と開業している。そんな淡路島に目指すリトリート施設がある。「禅坊 靖寧(ぜんぼう せいねい)」である。淡路島の玄関口に位置しているため、神戸から明石海峡大橋を渡ると、もう目の前だ。高速道路を降り、山間に向かって車を走らせると看板が見えてくる。「禅坊 靖寧」は、禅体験ができるリトリート施設で、森の中に突き出すように伸びる禅テラスが訪問者を驚かせる。
建築を担当したのは、2014年には建築分野の国際的な賞であるプリツカー賞を受賞した坂 茂氏だ。全長およそ100mのウッドデッキは、山の稜線を超えないように設計されていて、森に入り込んだように感じられる空間となっている。
ヨガテラス、そして禅デッキとエリア分けされたウッドデッキでは、さまざまな禅のプログラムが体験できる。ZEN Wellnessと名付けられた日帰りプランでは、禅体験や茶道(ZEN茶)の体験が組まれていて、1日ゆっくりと自分と向き合う時間を作ることができるのだ。木製のテラスで座禅を組み、鳥のさえずりや風の音に耳をすます。暇さえあればスマホを触っていた日常とはまるで異なる時間が流れている。誰かに邪魔されることもなく、静かに息を整える。それだけでも貴重な体験で、自ずと、意識が自分自身へと向かっていることに気づくだろう。
また宿泊プランでは、ZEN Wellnessのほか、朝のおつとめや掃除といった時間がこれに加わる。個人旅行で宿泊する人もいれば、企業の研修で利用されることも多いようだ。
日帰りプランでは、受付を済ませると、三年番茶がウェルカムドリンクとして振る舞われる。農薬や化学肥料を使っていない茶畑で3年以上かけて栽培・熟成させたものだけを厳選して摘み取り、茶葉にしたものだという。また、梅醤(うめひしお)という梅干しと醤油を混ぜ合わせて醗酵させたお茶請けも付いてくる。こちらは約2400以上の酵素が含まれており、デトックス効果が高いのだという。
さらにテラスで立てた抹茶をいただける茶道体験のプログラムもある。太陽の光を浴びながら、静かにいただく抹茶もまた格別だ。オリジナルのかぼちゃパウダーの香りが敏感になった鼻をくすぐる。
また「禅坊 靖寧」では、オリジナルの「禅坊料理」を楽しむこともできる。食材には淡路島産の野菜や旬の季節野菜、さらに山で採ってきた山菜を使用。1年から3年の時間をかけてつくられた醸造調味料を使うことで、化学調味料ナシで凝縮された旨みを感じることができる。さらに、砂糖などの調味料も使わず、じっくりと時間をかけて調理することで素材が持つ味を感じられる料理になっている。化学調味料に慣れてしまった身体に、凝縮された自然の旨みが染み渡る。
テラスの下には全18部屋の宿坊が用意されている。一人部屋と二人部屋の2タイプがあり、それぞれの部屋には「一期一会」など禅に通じる言葉が割り振られている。書(ZEN書)をして過ごせるよう、デスクが備わっているのだ。建物のおよそ80%が木材でできている。そのため、館内はもちろん、部屋にいるだけで、木の香りに優しく包まれ、リラックスできる。またガラス張りの窓からは光が存分に差し込み、日の出とともに身体が目覚めるはずだ。スマホの電源をオフにして、デジタルデトックス。外部からの情報をシャットアウトしながら、今年の自分を振り返り、翌年の飛躍を誓うアイディアを考える。そんな過ごし方をする一夜があってもいいだろう。