バンドにおけるベースのように、映画やドラマにも作品に深みを与えるバイプレイヤーの存在が欠かせない。駿河太郎さんもその一人だ。確かな演技力と、男気を感じさせる容姿が映像にリアリティを与える。そんな彼がもともとミュージシャンとして活動していたことを知らない人もいるだろう。
「学生時代にUKロックと出合って、ミュージシャンを志すことになったのですが、とにかく歌いたかったんです。だったら曲をつくれと、いろんな人に言われて始めたのが、ギターでした。浮かんできたメロディを、四苦八苦しながらコード進行に落とし込んで、作曲していましたね。ライブはエレキギターが中心でしたが、小さな会場ではジャンベやカホンを加えた、アコースティックな編成で演奏することもありました。カホンは上手い人が叩くと音の響きが全く違うので驚いた記憶があります。
やっていた音楽は、ギターポップ。ステージ衣装も音楽性に合わせ、ボーダーやシャツにネクタイといったユニセックスなコーデで統一していました。ただ本来の僕は男っぽい性格なので、どこか無理をしていたように思います(笑)」
そして、30歳になったのを機にスパッとバンド活動から足を洗い、役者の道へと進んだという。いまは楽器を手にする機会はほとんどないが、生活に音楽は欠かせないと話す。
「車を運転する機会が多いのですが、車内には常に音楽が流れています。最近は子どもたちからおすすめのアーティストを教えてもらって、それを流すことも増えてきました。一方でスノーボードに子どもたちを連れて行った時などは、僕のほうから『昭和歌謡の時間だ!』と、松田優作さんや加山雄三さんの音楽を聞かせることもあります。将来のスナックソングとして覚えておいたほうがいいぞ!って英才教育しています(笑)」
ミュージシャンを志す、その前の話。はじめて夢見た職業はスタイリストだったという。
「高校生の時にハマった音楽が、ヒップホップでした。あわせてNAUTICAやティンバーランドといったB-BOY御用達のブランドを着るようになって、ファッションにも目覚めていきました。卒業後の進路を決める頃には文化服装学院に進んで、スタイリストになるって本気で考えていたのですが、両親に説得されて……」
そしてスタイリストを諦め、ミュージシャンから、俳優へ。当時、思い描いた人生とは異なる道を歩んできたが、ファッションへの情熱は変わっていなかった。現在、スタイリストの丸山晃氏とファッションデザイナーの清水護氏とともに、ファッションブランド「NEWORDER」を手掛けている。音楽好きという共通点から生まれた、念願の洋服づくりは、まるでバンド活動だと表現する。
「普通のファッションブランドだと、デザイナーのトップダウンで洋服をつくっていきます。でも、僕らは話し合いをしつつ、それぞれがデザインしていきます。自分たちがやりたいものを表現しつつ、ラインナップに足りないものがあれば補って、統一感のあるコレクションにしていく。そんな作業は曲作りに似ていて、関係性はバンドです。天才肌の丸さんがボーカルで、僕も護も外に出ればボーカルを張れるけど、NEWORDERでは、さしずめ低音域を支えるベースとリズムをキープするドラムといったところです。展示会で地方を訪れることもあるのですが、レンタカーに衣装ラックを積み込んで移動することもあります。そんな一幕もライブツアーで全国を回るバンドマンみたいですよね」
なお、『NEWORDER』というブランド名は、イギリスのポストパンクバンド「ジョイ・ディヴィジョン」のボーカルを務めたイアン・カーティスが死去したあと、残されたメンバーで結成したバンド「New Order」に由来する。また、「This is formal , This is in formal」=「フォーマルであってフォーマルではない服。」をコンセプトに、それぞれのフィールドで感じてきたことを、音楽ではなく洋服で表現するブランドと表現している。
「NEWORDERで僕は調整役。ひょっとしたら、バンドを組んでいた経験が生きているのかもしれません。自分は、こんなわがままなボーカルだったのかなって反省することもあれば、むしろ唯我独尊感が足りなかったから、バンドが上手くいかなかったのかなと思うこともあります(笑)」
ちなみに今回の撮影では、NEWORDERの最新のコレクションから一着、着てもらった。
ファッションブランドの運営でも大忙しの駿河太郎さんだが、今後も出演作が立て続けに公開される予定だ。まずは8月2日(水)にテレビ東京ほかで放映されるドラマ「週末旅の極意~夫婦ってそんな簡単じゃないもの~」の第5話にゲスト出演する。同作は訳あり夫婦が旅を通じて関係を修復していく新感覚の旅ドラマで、主役の矢吹夫婦を演じるのは観月ありさと吉沢悠。二人とは旧知の間柄だが、仕事で一緒になるのは、はじめてなのだという。
「ありちゃん(観月ありさ)とは、20年近い付き合いで、いまは飲み友達。悠とは同じ年で一緒にサーフィンに行っていた時もあります。でも、仕事をするのは、はじめて。気心が知れているので、とても演技しやすかったですね。三人での芝居がほとんどなので、プライベートで関係性があったから、キャスティングされたのかもしれません。気恥ずかしさですか? ないですよ。お互いにキャリアもありますし、そういう壁はとっくに超えていますし、役者はそれが仕事ですから」
そう言って笑う。また、北条氏政を演じた大河ドラマ「どうする家康」の放送も控えている。
「大河ドラマへの出演は今回で5作目になりますが、演出家の方々がみんな年下だったことに驚きました。特に今回は途中からの参加になるので、打合せから他の演者さんがつくってきた空気を崩さないことが大切でした」
徳川家康を演じる、主演の松本潤さんとは対峙した時の距離など、細かい打ち合わせを重ね、セリフでは表現できない関係性や心情にも心を配ったという。また、11月3日(金)からは映画「おしょりん」が全国公開される。明治時代の福井県で、眼鏡の製造に命をかけた兄弟、そしてその妻の物語で、駿河さんは眼鏡職人のひとりを演じている。
「僕は職人の役だったので、眼鏡の製造に関する細かい所作を覚える必要があったのですが、地元の方々が撮影にとても協力的で、いろいろと助けてもらいました。そんな福井の方々との一体感が作品にも出ていたら、うれしいな」
キャリアを重ね、鍵を握る役を演じることも増えてきた駿河太郎さん。その活躍からまだまだ目が離せない。