松坂桃李

乗る人の生き方が見えてくる 無限に広がる“カーライフ” 俳優・松坂桃李さんの場合。

Special Interview 松坂桃李

車を単なる移動手段として考えれば
燃費よく、コスパよく、と考える。
いっぽうで、趣味としての車と考えると
走行性能やデザイン、車内の空間など
車種によって異なるし、中古車を含めれば選択肢は無限に広がる。
どれを買うかで個性が出るし
理想を追うなら、カスタマイズだってできる。
大げさに言うと、どんなクルマに乗るかで
その人の生き方や人生が見えてくるのだ。
だから“カーライフ”なんて言葉があるのだろう。
そんな無限にひろがるカーライフについて
俳優・松坂桃李さんに聞いた。

Photos : TATSUYA YAMANAKA(stanford)
Styling : KEITA IZUKA
Hair&Make : AZUMA(M-rep by MONDO artist-group)
Text : SHINSUKE UMENAKA(verb)

2025.5.19

BGMは、クラシックからディズニーに 「クルマでの過ごし方が劇的に変化しました」

数々の映画やドラマに出演し、いまや日本を代表する俳優のひとりである、松坂桃李さん。出演のオファーもひっきりなしに届く。したがって撮影が毎日のように続くことも珍しくないが、かつては、クルマでの移動を役と向き合うためのプライベート空間として活用していたという。

「30代前半あたりまでは、ありがたいことに常に何らかの作品に携わっていました。そのため撮影している作品に関連した音楽を車内で流しながら、覚えなければいけないセリフを頭に叩き込んでいました。舞台に出演している期間には、セリフをボイスレコーダーに録音して、それを聴きながら移動することもよくありました。緊張の糸を切らさないためにも、僕にとっては必要な時間だったんです」

松坂さんにとっては、クルマは移動手段であると同時に、仕事に備える、もうひとつの楽屋のような存在だったわけだ。ただ、それも結婚を経て、変化したと語る。

「家族ができると、ひとりだけクルマに籠るとか、そんなことは言ってはいられないですよね。何事も家族が優先なので、自然とそういう時間をつくらなくなりました。むしろプライベートでクルマに乗るときは仕事のことを忘れて、家族と一緒に過ごすための時間になりました。人目を気にせず移動できますし、運転できそうな距離のお出かけだったら、ほぼクルマです。疲れたら家族も車内で寝てくれますし。ドライブのBGMも独身時代はクラシックやジャズなど歌詞のない音楽を流していましたけど、いまは子どもと歌えるディズニーソングです」

演じるために必要だったルーティーンがなくなったものの、この変化をすぐに受け入れることができたという。自分の時間がなくなってしまったと嘆くこともない。むしろクルマで過ごす家族との心地よい時間に癒されていると語る。

松坂桃李

いつか乗ってみたいのは 手がかかるけど愛おしいクラシックカー

そんな松坂さんの生活に欠かせないアイテムになっているクルマだが、どんな車種に乗りたいのだろうか? ちなみに公開を控えている『父と僕の終わらない歌』には、60年代のクラシックなアメ車が劇中として登場している。味わい深い経年変化をまとった、スカイブルーの車体が横須賀の海沿いを疾走する姿は、それだけで絵になる。

「一度は、僕もクラシックなアメ車に乗ってみたいですね。燃費もいまのクルマと比べたら、ひどく悪いし、エンジン音も大きい。しかも空調がほとんど効かないこともあるだろうから、快適さでいえば選択肢には入りません。でも、手がかかるからこそ、愛着が湧くのだと思います。けっこうマメなタイプなので、日々のメンテナンスも苦ではありません。手入れしながら、長く乗る。一度は、そんなクルマに乗ってみたいという思いはあります」

燃費が良く、財布に優しいエコカーも悪くないが、クラシックなアメ車への憧れは全男子が同意するところだろう。

「クラシックカーの窓を開けっぱなしにして、海沿いを走ったら、気持ちいいだろうな。国道135号線を経由して熱海のほうに向かって、最後は温泉に。そんなドライブがいつかできたら、最高ですね。ただ、周りにいる家庭のある友人を見ると、最終形態はミニバン。結局それが最適なのかもしません(笑)」

松坂桃李

イギリスでの実話をベースにした アルツハイマーを巡る、家族の絆を描いた感動作

来たる5月23日に公開される映画『父と僕の終わらない歌』で松坂さんが演じるのは、寺尾聰さん演じる間宮哲太の息子・雄太だ。寺尾聰さんは本作への出演を決めた理由のひとつに、松坂さんとの共演を挙げていた。

「寺尾さんとは同じ作品に出演したことがあったものの、現場をともに過ごすことがほとんどありませんでした。今回は親子の間柄。僕のほうこそご一緒できて、とてもうれしかったです。さらに歌手でもある寺尾さんの歌声を間近で聴ける、本当に貴重な役でした。光栄で、ラッキーとしか言いようがありません」

劇中、寺尾聰さん演じる間宮哲太はアルツハイマー型認知症を発症し、記憶を失っていく。そのせいで家族の絆に亀裂が入り、家庭崩壊する寸前までに追い込まれる場面も。しかし、その危機から一同を救ったのは、愛する音楽だった。カーステレオから流れる懐メロにあわせて歌うときだけは、いつもの姿に戻る父親。

実は、本作は2016年にイギリスで実際にあった出来ごとをモデルにしている。そして感動的な逸話にスポットを当てるだけではなく、病と戦い続ける家族の苦悩もしっかり描いているのが特徴だ。

「きれいごとだけでは終わらせず、家族の衝突も、そのまま描いています。病というのは、患った本人はもちろんですが、家族やその周りにいる人たちにも影響を及ぼします。それにどう立ち向かい、病と付き合っていくのか。今回はクルマや音楽が記憶を呼び戻す鍵として出てきますが、幸せを感じる瞬間は人それぞれです。ぜひ、本作を見ながら、自分にとって大事なものは何か、そして家族と過ごす時間について思いを馳せてもらえたら、うれしいです」

本作が現実離れしたお伽話で終わっていないのは、実話をベースにしているからであり、松坂さんをはじめとした役者陣の確かな演技力があってこそ。誰の胸にも迫るであろう良作になっている。

Information
映画『父と僕の終わらない歌』
アルツハイマーの父親と
その息子が奏でた奇跡の実話

映画『父と僕の終わらない歌』

2025年5月23日(金)全国公開

かつてレコードデビューを夢見たものの、息子(松坂桃李)のために夢を諦めた父親(寺尾聰)。横須賀で楽器店を営みながら、時折地元のステージで歌声を披露しては喝采を浴びてきた。そんなある日、父親はアルツハイマー型認知症と診断される。すべてを忘れゆく父親をつなぎ止めたのは強く優しい母親(松坂慶子)、強い絆で結ばれた仲間、そして父親が愛した音楽だった。大好きな歌を歌うときだけは、いつもの父親に戻るのだった。そんな父親の夢が家族やみんなの夢となって再び動き出す。2016年にイギリスで実際にあった感動のストーリーをもとに映画化。

出演:寺尾聰、松坂桃李、佐藤栞里、副島 淳、大島美幸(森三中)、齋藤飛鳥、ディーン・フジオカ、三宅裕司、石倉三郎、佐藤浩市(友情出演)、松坂慶子 原案:『父と僕の終わらない歌』(サイモン・マクダーモット著・浅倉卓弥訳/ハーパーコリンズ・ジャパン) 監督:小泉徳宏 脚本:三嶋龍朗、小泉徳宏
https://chichiboku.jp/

松坂桃李
プロフィール
松坂桃李(まつざか とおり)
1988年10月17日生まれ。神奈川県出身。2009年に俳優デビュー。その後、数々のテレビドラマ、映画に出演。2019年には映画『孤狼の血』で第42回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を、また翌年は、映画『新聞記者』で第43回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞している。近年の主な出演作に、映画『スオミの話をしよう』『雪の花-ともに在りて-』、ドラマ『御上先生』(TBS)などがある。映画『パディントン 消えた黄金郷の秘密』(声の出演)が公開中。5月23日に映画『父と僕の終わらない歌』、そして6月13日には映画『フロントライン』の公開を控えている。https://topcoat.co.jp/tori_matsuzaka