以前、とある番組で畑を借りることになった経緯を語っていた森田剛さん。もともと植物を育てることにハマっていた森田さんは、畑を借りて農作業をすることに関心を持つようになる。しかし、いくつか貸し農園を回ったが、借りたいと思う場所が見つからなかったという。
「物件を借りるときもあるじゃないですか? 悪くはないけど、なんだかしっくりこないことが。それでたまたま見つけた気になる農園を車で見に行ったんです。でも、ナビを見ながら走っているのに、目指す畑が見つからないんです。そのうち迷って、他人の敷地にどんどん入っていってしまって……。行き止まりになり、立ち往生していたら、近くの家から家主の方が出てきたんです。慌てて事情を説明していたら、知り合いに畑を持っている人がいるから見に行く?と提案していただいて、それで借りることになりました。家からは少し遠かったのですが、広くて、気持ち良いところだったんです」
その後、畑のオーナーとは親交を深めていくことになる。
「外食するときも、食べたいものがあるからそのお店を選ぶというより、会いたい店主がいるからそこを訪ねるタイプです。畑も同じでおじさんに惚れたんです。お正月に一緒に餅つきをしたり、ゴルフに行ったり、畑以外でも交流が続きました。僕も適当な性格なので、頻繁に通うより、気が向いたときに集中して畑に行っていました。農作業が終わって収穫したものがあれば、おじさんのお宅にお邪魔して、採ったばかりのじゃがいもでポテトチップスやじゃがバターを作ってもらったり。汗を流し、食べるまでがひとつのルーティーンになっていました」
そして、どうして農作業をするようになったのかと尋ねると、ひとしきり考えたあと、こう答えた森田さん。
「将来、自分で作った野菜や、釣った魚だけで生活できたらいいなって、なんとなく考えるようになったんです。自分たちで食べる分だけを採って、生活する。そのための練習という感じです。それに人生で無駄だと感じるものを省いていきたい。余計なことを考えたくないのかもしれません。農作業をしていると無心になれるし、土に触るのは気持ちがいいですから」
農作業に加え、いま関心があるのが、釣りだという。急に思い立って、捌くための包丁を手に入れ、船舶免許まで取得した。
「釣りをほとんどやったことないのに、今度は船だと思い、船舶免許を取りに行きました。でも、まだ釣りはしていません。準備は万端なんですけど、まだ船を操縦していないので、ペーパー状態です。どこでハマるかわからないので、とりあえず、そのときのために免許を持ってていいかなって」
興味があることに対して、素直に行動し、そのための労を厭わない。そしてハマったら、とことん追求したくなるのかもしれない。
「テレビ番組の収録などで、これまでも、いろいろなところに行かせてもらいましたが、残念ながら、仕事としてやったことはほとんど記憶に残らないんです。みなさんが準備してくださるので、どこに行ったのか覚えていないこともあります。ありがたいことですが、それでは意味がないと感じるんです。自分で行きたい場所を決めて、きちんと自分の足で行く。ひとりの人間として、できればそういう体験を積み重ねていきたいと考えています」
そんな森田さんは『劇場版 アナウンサーたちの戦争」で主演を務めた。日本放送協会に所属し、太平洋戦争における開戦ニュースと玉音放送の両方に携わった和田信賢アナを好演。本作はNHKで放送されたドラマが劇場版となり、全国の映画館で公開となる。スクリーンで公開される喜びをこう語る。
「劇場版ではいくつかシーンが追加され、映画サイズの作品になっています。演出の一木正恵さんが撮影時からずっと映画にしたいとおっしゃっていたんです。だから、演者のひとりとして、その夢が実現することを喜んでいます。一木監督はNHKの方ですが、本作は図らずも戦争のプロパガンダに加担してしまったアナウンサーを描いています。彼らが先の大戦でそんな体験をしていたことを、恥ずかしながら、僕は知りませんでした。自分たちが犯した失敗を描いている点は勇気がいることだと思いますし、実際に起こった出来事をきちんと伝えることは意味があります」
本作では実在のアナウンサーたちを演じた役者陣の熱演も光る。米良忠麿役を演じた共演の安田顕さんは、森田さん演じる和田が学徒出陣の実況を拒否し、雨中で言葉を紡ぐシーンを挙げ「森田さんの魂の芝居に、心打たれた」と激賞する。
「これは戦時中のすでに終わった話ではなく、いまを生きる自分たちの話でもあると思っています。言葉の重さや、命の重さを受け取ってもらえるとうれしいです。劇場で公開されるということは、多くの人に真剣に見てもらえるチャンスです。制作するみんなの思いが詰まったこの作品に、ぜひ触れてほしいですね」
SNSを使って、誰もが情報発信を簡単にできる時代だ。真実か嘘か判断の付かない情報を無自覚に拡散してしまう可能性もある。そんな僕らへの戒めとしても、心に響くものがあるはずだ。