大河ドラマ『光る君へ』では和歌や漢詩、管弦に秀で、馬も乗りこなす平安貴族の藤原公任を演じた。そして、Netflixシリーズ『グラスハート』では、カリスマギタリストとしてステージに立ち、ギターの演奏を行なった。当然、撮影の遥か前から、所作や技術の習得が要求される。近年、そんな才能溢れる人物役が続く町田啓太さん。だが、本作のオファーは「無謀だと思った」という。それが12月18日(木)から世界配信されるNetflix映画『10DANCE』での杉木信也役だ。
『10DANCE』は、井上佐藤が手掛ける競技ダンスの世界を描いた同名漫画が原作。スタンダードダンスとラテンダンスは通常、別部門で、出場するダンサーも別だが、“10ダンス”はスタンダードとラテンをそれぞれ5種踊るというハードな競技会で、“競技ダンスのトライアスロン”の異名を持つ。この“10ダンス”への出場を目指し、ラテンダンサーの鈴木信也(竹内涼真)と、スタンダードダンサーの杉木信也がお互いのダンスを教え合いながら、頂点を目指すというストーリーだ。短期間でスタンダードダンスとラテンダンスをマスターしなければならず、しかも、町田さん演じる杉木信也はスタンダードダンスの日本チャンピオンで、世界2位の実力者という設定だ。ステップを覚えて踊るだけでは不十分で、トッププロ並みの表現力・ダンスが求められる。思わず「無謀」と口にしたのも頷けるだろう。
さらに、他作品の撮影もあり、本格的な練習に入れたのはクランクインのおよそ3か月前からだったという。それでも挑戦することにした理由を町田さんはこう語る。
「たとえば『Shall we ダンス?』のように、初心者がダンス大会への出場を目指すような成長物語とは違って、トップダンサーが世界の頂点を目指すのが、本作です。その設定が無理難題ですし、ハリウッドでも映像化は難しいのではないでしょうか?ただ、社交ダンスとジャンルは違いますが、僕も長年、ダンスを踊ってきて、踊ることに特別な思い入れがあります。この作品のオファーがあった時の年齢が34歳。ダンスを本格的に踊るような作品に出られるのも、これで最後になるかもしれない。台本を読み、監督の大友啓史さんとお話させていただいて、すごく熱量の高い作品になると確信したこともあり、生半可ではない覚悟が必要でしたが、いましかできない挑戦だと、オファーを受けることにしました」
ただ意気込んで練習を開始するも、すぐに絶望することになったという。
「最初の練習で“これは無理だ”と感じるくらい難しいと感じました。僕が踊ってきたヒップホップダンスとは型も、足の運びもすべてが違いました。しかも、一人で踊る瞬間はなく、スタンダードもラテンも、パートナーとふたりで一対のダンスです。相手がいないと練習もままならず、家に帰ってからの自主練もビデオを見たり、ステップの確認などに限られました。もちろん、家に帰るころには練習で身体はボロボロ……。それに社交ダンスでは、フロアを広く使って踊ります。だから、家ではスペース的に無理で、練習場所探しも絶望的でした」
それでも、すべての時間を注いで練習に打ち込んだ。そして、プロのダンスを間近に見たり、競技会を見学する機会を得るうちに社交ダンス自体に魅了されていく。
「社交ダンスには長い歴史があり、競技会や社交場のようなところに行かせてもらうと、タイムスリップしたような感覚に陥ります。高貴な雰囲気や匂い、重厚な空気感が漂い、まるで時代劇に迷い込んだような気になります。それに、びっくりするくらい官能的なんです。ダンサーのみなさんが動きや表情でそれを体現していて、会場にいるお客さんにも伝染していきます。スタンダードダンスも、ラテンダンスにもいろんな種類がありますが、求愛や情熱的な愛などさまざまな“愛”を表現しています。どれも官能的という言葉がしっくりきます。そのダンスに魅せられて興奮しましたが、すぐに冷静になって、これを僕が演じるのかと思うと、また絶望を感じました。“冷静と情熱の間”じゃないですが、そんな“興奮と絶望の間”を常に味わっていました(笑)」
完成した本作を見ると、もっと時間があったらと悔やみ、反省も多いと町田さんは語るが、指導にあたったプロダンサーが絶賛する渾身の出来になっている。
「すでに社交ダンスをやっている方や、競技会を観覧したことがある方もいらっしゃると思います。でも、僕は本作に出会うまで、社交ダンスのすごさを知りませんでした。本作を見てもらえれば、僕が味わった衝撃に出会えるはずです。そんな作品になったと自負しています。また、本作では競技ダンスを舞台に、鈴木と杉木の関係をはじめ、さまざまな“愛”を描いていますが、人と人の触れ合いをとても繊細に表現しています。他人との距離感には慎重になる時代ですが、社交ダンスでは常にパートナーと触れ合って踊ります。その触れ合いによって生まれる特別な感情が垣間見えるのも本作の魅力です。また“本気の人は美しい”と感じてもらえたら、うれしいですね」
そんなNetflix映画『10DANCE』は、演出や演技はもちろん、衣装や美術など、関係者の本気が詰まった作品になっている。
続いては、本誌の特集テーマである「ギフト」ついて話を聞いた。職業柄、贈り物は圧倒的にいただく機会が多いと語る町田さん。
「プレゼントをいただくというのは、モノだけではなく、気持ちもいただくということですから、中身が何だったとしても、嬉しいですよね。個人的には、甥っ子と姪っ子が僕の誕生日に、毎年、似顔絵を描いてきてくれるんですが、それはめちゃくちゃ思い出深く、大切にしています。何年ももらっているので、年を重ねるごとに絵が上達しているのがよくわかるのもいいですね。カラフルになり、立体的になっていくし、感動しています。テレビ電話や動画でメッセージを手軽に送れる時代ですから、なおさら絵は嬉しいと感じます。それは大人からの贈り物でも同じで、手紙が入っていたりすると、わざわざしたためてくれたんだって、その手間に感謝します」
一方で贈る側になると、盛大に祝ってしまいたくなるという。
「僕が出演した作品を見て、メッセージを贈ってくださる方もいらっしゃるし、圧倒的にいただくことが多いですが、その反動か、贈り物をするときには盛大にする傾向がありました。だから、最近はやりすぎないことを心がけています。たとえば、甥っ子や姪っ子へのプレゼントも、必ず両親に確認してから贈るようにしています。“あげないで!”とは言われませんが、いろいろな教育方針がありますから。こっちは無責任にほしいものをあげるよって言ってしまいがちなので、気をつけています」
と、もらう側の事情を冷静に考えている町田さん。
「サプライズで贈り物をするよりも、その人が欲しいと言っていたものをあげた時が一番喜ばれますね。以前、甥っ子のために美味しいお肉を持って帰ったことがあるのですが、その時は“美味しい!”ってとても喜んでくれたんです。だから、てっきり肉が好きなんだと、次も買って帰ったら、“いまは野菜が好き!”って言われたりして(笑)。好みが変わることもあるし、ありがた迷惑な贈り物もありますよね。気を遣って、嬉しいフリをすることもあるし、周りの人にいまどんなものを欲しがっているのか、聞くことが大事だなって考えさせられました。大人だったら、欲しいものは自分で買っちゃうこともあるし、そういう意味では、何かをいただくなら、モノではなく、最近見たなかで一番面白かった映画や、オススメの情報をもらうのが、一番嬉しいかもしれない」