スーパーやコンビニに行けば、何でも買える時代。
食材を調達するのに、月日をかけて野菜を育てたり、
渓流でジッと獲物を狙うのは、タイパが悪いと言えるだろう。
一方で、キャンプや釣りなど、アウトドアアクティビティは根強い人気がある。
それは退屈な日常から解き放たれ、自然のなかでリアルな体験ができるから。
昨今、自給自足に注目が集まっているのも、同じ文脈だろう。
不便だが、インターネットや都会に慣れた
僕らにとっては初めて触れる体験ばかり。
日光を浴び、土の匂いや清流の冷たさに驚く。
そして、瑞々しい野菜や川魚を味わう。
そんな五感が覚醒し、好奇心が刺激されるから、
自給自足の注目度があがっているのだろう。
まずはその一端に触れてみよう。
人生の新しい扉が開くかもしれない。
Photos:TATSUYA YAMANAKA(stanford)
Styling:YONOSUKE KIKUCHI
Model:Shogo
Text:SHINSUKE UMENAKA
2024.7.16
モデルとして活動するShogoさんは、山梨県道志村に畑を借り、
都内から週に1〜2度のペースで通っているという。
どうして都会と畑を行き来する生活をはじめたのか?
農作業の魅力はどこにあるのか? 聞いてみた。
華やかに見えるファッションモデルだが、年齢を重ねても続けていける人は、ひと握りだ。俳優に転身して成功する人も稀である。資格も不要で、職業スキルがあったとしても、一般には伝わりにくいだろう。したがって、転職も容易ではない。実際、セカンドキャリアに苦戦する同僚をShogoさんは多くみてきたという。そんな折、実家が八百屋を営んでいるというモデルと出会った。
「彼は、将来、実家に戻ることを考えていたのですが、家業を継ぐ前に生産者の気持ちを少しでも理解していた方が良いのではと思い、モデル事務所で畑を借りて、モデル業の合間に、みんなで農作業をしながら、農業の経験を積んでみてはということになりました。彼ひとりだけではなく、他のモデルにとっても、真剣に農業と向き合うことで、何かのきっかけを掴むことにつながるかもしれないと思ったんです」
“モデルが畑仕事に参入!”というギャップのあるニュースは瞬く間に、業界に広まり、Shogoさんも先頭に立って、農作業に関わっていった。すると、農業をテーマにした仕事の依頼も舞込むようになったという。
「僕が農業体験をするという企画だったのですが、そこで道志村の方と知り合いになりました。ちょうどもっと広い畑を借りたいと思っていたところで、道志村の方にその話をすると、畑を貸していただけることになりました」
農村の後継者不足や高齢化は深刻で、休耕地になる畑は増えている。そのため、信頼関係を結べば、畑を貸すことに前向きな地権者も多いという。人手がまったく入らなくなった畑は荒れる一方で、農業を再開しようと思っても、手間がかかる。だから、誰かに畑を貸し、耕してもらうことは農家にとってもメリットがあるのだ。そこからさらに農作業に時間を割くようなっていったShogoさんだが、自身が畑仕事にハマった一番の理由は悔しさだったという。
「意気込んで農作業をはじめたのですが、最初は失敗ばかりでした。植えた作物が育たず、まったく収穫することができませんでした。もっと簡単にできるものだと農業を甘くみていたんでしょうね。このままでは終われないと、専門のスクールに通って、野菜の育て方を1から学ぶことにしました。そこで学んだことを実践するうちに徐々に成果が出るようになっていったんです」
野菜が育つという結果が出れば、当然、畑を耕したり、雑草を刈り取ったり、肥料をあげたり、そんな地道な作業にも身が入る。現在は、居を構えている都内から、週に1〜2回は必ず訪れて、畑の手入れを続けているという。
「やることは無限にあるんですよ。季節によって育てる野菜も違いますし、とくに収穫のときは一気に実がつくので、大忙しです。週に2回来ても、作業が間に合わないくらい。野菜は待ってくれませんから。でも、大変ですが、楽しいですね。いつかは米作りにも挑戦してみたいと思っています。米づくりは日本人の食の土台ですから」
収穫した野菜は地域のレストランに卸したり、子ども食堂に寄付しているという。それでも残ることがあり、近所に配ることになると語る。
また、Shogoさんはファッションモデルとしての知識やセンス、そして人脈を活かして、「カイメン」というブランドを立ち上げた。農作業を通して感じた実体験を反映したアイテムが中心で、実用的で、なおかつセンスの良いファッションアイテムが揃う。
「農作業のためのウェアとなると、汚しても良い服で、見た目は二の次になりがちです。でも、畑仕事をしたあとに、打ち合わせにいったり、街に繰り出せたらいいのにって思ったんです。そんなタウンユースとしても着られるアイテムをテーマに、ウェアやギアをデザインしています」
後輩のキャリア形成の一助になればと、はじめた農作業。挫折を経て、本格的にのめり込むようになり、そして、ファッションブランドまで作ってしまった。農作業に培われた一番の成果は、Shogoさんのこのバイタリティなのかもしれない。
「自給自足という大それたことは言えませんが、全国の農家さんに話を聞く中で、少しでも自分で食べるものを育てることができたり、魚を獲ったり自給的なスキルは磨き続けたいなと思っています」
最後に力強く、そう語ってくれた。