ココロもカラダも開放的な気分になる、夏の到来。
子供の頃、遠くから夏祭りの太鼓の音が聞こえてきて、
何だかワクワクしてしまった記憶がある人も多いのではないだろうか。
夏になると無性に楽器を鳴らしたくなるのは、
そんな日本人のお祭り好きの虫が騒ぐせいなのかもしれない。
ということで、今号ではまだそんなにメジャーではないが、じつはとっても
奥が深くて楽しいインディーズ打楽器を大特集。
楽器と聞いてすぐに「難しそうだから」「どうせ上手く鳴らせないから」と
拒否反応を示すのはちょっと待ってほしい。インディーズ打楽器なら、
例えすぐに上手に音が鳴らせなくとも
無心で叩いたり鳴らしたりするだけでとても楽しいし、誰かとセッションすれば
それだけで世界が広がる。
インディーズ打楽器がひとつあれば、言葉はいらない。
ハイでフィーリングな世界が待っているのだ。
ぜひ、今年の夏は自分に合う打楽器を見つけて
思いっきり、「音」で遊んでみよう!
Photos:YUTO KUROYANAGI
Text:KAZUYUKI NOMURA
2023.7.28
世界の打楽器マニア
サカン竜一郎さん
2010年にインドの楽器「タブラ」に出合ったことをきっかけに、世界中の伝統楽器と創作楽器が大好きに。以降、自身で情報を集めながら、インドやペルシャ、アラブの打楽器を中心に収集。会社員として働く傍ら、テレビ番組などでの楽器解説や演奏、インド映画のパンフレットに寄稿、バンド活動などを楽しんでいる。
楽器と聞いてすぐに思い浮かべるのが、ギターやピアノなどメジャーな(演奏人口の多い)楽器だろう。だが、世界には一般的には知られていなくとも、今まで聞いたことのないような、不思議で魅力的な音色を奏でる楽器が多数存在する。今回ご紹介するのは、そんな民族楽器を中心にした「インディーズ打楽器」たち。あまり馴染みがないこともあり、実際に演奏するとなると敷居が高いように感じるかもしれないが、世界中の伝統楽器や創作楽器を多数所有し、趣味として演奏を楽しんでいるサカンさんは「上手く演奏できなくたっていいんです。もっとカジュアルに、気軽に楽器と触れ合うことが何よりも大切」と言う。果たして、インディーズ楽器にはどんな魅力があるのか。サカンさんに聞いてみた。
普段、普通に生活しているとなかなか出合うことがない世界の民族楽器や創作楽器。だが、一度そのディープな世界に足を踏み入れると、どこまでも広がる楽しさが待っているとサカンさんは言う。
「僕が初めて民族楽器に出合ったのは、今から10年以上前。当時、ワールドミュージックが好きな先輩に勧められて、インドのクラブミュージックを聞いたのですが、とても不思議な音が聞こえてきて、何か気になって。調べてみると、どうやらインドの伝統楽器『タブラ』という楽器で、こんな不思議な音を出す楽器が世界にはあるのだと興味を持ちました。それでネット通販でタブラを購入し、叩き方を知っている人を探し、教わりながら叩き始めたのが最初ですね。そうすると他の楽器にもどんどん興味が湧き、集めるようになったんです」
「世界中の打楽器たちは、一見すると形が似たようなものも沢山あり、同じような音が鳴るんだと思われるかもしれません。でも、実際に叩いてみると、当たり前ですがすべて違います。高音や伸びる音、うねる低音など楽器ごとに特徴があって、叩き方によっても出る音が全く違ってくる。時には、今までどこでも聞いたことがない不思議な音に出合うこともあります。そういう“音に対する新鮮な驚き”が常にあるのも、民族楽器をはじめとした世界の打楽器の魅力のひとつだと思います」
「世界に存在する民族楽器のなかでも圧倒的に種類が多い打楽器は、現地での使われ方を知ることで、さらに興味が湧き、世界が広がり楽しくなります。例えば、宗教的な儀式に使われていたり、伝統的なお祭りに使われていたり。音を聞くことで、現地の光景がぱっと浮んできたりして、それぞれの文化を感じられるのも魅力だと思います。ただ、民族楽器だからといってそこに縛られる必要はまったくなく、まずはシンプルに音を出して楽しんでほしいと思います」
「これはどんな楽器にもいえることですが、実際に自分で触って音を出すことで、音楽に対する解像度がグンとあがるんです。そして、聴くことが楽しくなると、今度は演奏することがもっと楽しくなる。お互いが作用しあってどんどん盛り上がっていくことも、楽器をやることの楽しさのひとつだと思います」
「自分で練習して上達していくのも楽しいですが、他の楽器と一緒に演奏することで世界はもっと広がります。民族楽器など演奏する人がまだ少ない楽器にもコミュニティはあり、最近ではオンラインで講座なども行われているので、以前に比べて練習環境も良くなっています。楽器をやっていないと絶対に会えない人たちと会えるのも醍醐味ですね」
「僕も以前はそうだったんですが、特に日本人は音楽をやることを何か特別なことに感じているような気がします。それが僕は何かもったいないなと思って。インドとか、中東のほうでは普通におばちゃんとかが家の前とかで太鼓叩いて、皆で踊ったりしています。本来、音楽とか楽器ってそれくらい気軽なものであって、それで良いと思うんです。
また、音楽=曲をひくと思っている人も多いと思いますが、全然そんなことはなくて。例えばカリンバを適当にポロポロ弾いてみたらなんか面白いメロディーができたとか、カホンを叩いてみたら何度かに一度良い音が出たとか。そんなことでも全然良いのです。楽器をひくことを特別だと思わずに、音を出す、原始的な喜びがあることを感じて欲しいなと思います」
「アフリカ生まれの楽器で、国や部族によって『イリンバ』とか、『ムビラ』とかさまざまな呼ばれ方をしています。手のひらほどの大きさのものがほとんどで、平たい金属製のバーを親指や人差し指で弾くようにして演奏します。とてもシンプルな構造でピアノのように統一したフォーマットを持ちませんが、音階がチューニングされたものは曲も弾きやすく、初心者にもオススメです。オルゴールのようなとても綺麗な癒しの音色が特徴で、コロナ禍で売り上げが倍増したというのも頷ける楽器です」
「ユーラシア大陸を中心に広がっている『口琴(コウキン)』という楽器で、これはインドに伝わる口琴の中で『モールシン』と呼ばれているもの。そのままだと音は鳴らないのですが、これを歯に押し当てて、中央の弁を弾いてその振動を口の中で共鳴させることで音を出します。なんとも不思議な音で、アニメとかバラエティとかの効果音でびよよ〜んみたいな音を聞いたことがあると思いますが、あれはほとんどこれです。価格が安いものも多数あり、コツさえ掴めば誰でもさまざまな音が出せるのでオススメです」
「一見すると歴史が古そうな楽器ですが、実はこの楽器ができたのは2000年頃。トリニダード・トバゴ共和国の『スチールドラム』が原型で、『ガタム』と『スチールパン』を組み合わせたような、音階がある楽器ということで試行錯誤を重ねつくられたもの。以降、インターネットの影響もあり急激に世界に広まっていきました。上面に音の出る窪みがあり、裏側中央に穴が開いています。手で叩くと鉄の共鳴により鳴り響き、とても芳醇で美しい音色を奏でます。メロディーもビートもつくれますし、演奏していてとても楽しい楽器です」