暮らしにニッポンを!

日本モノ語り。

Photos:TATSUYA YAMANAKA(stanford)
Styling:YONOSUKE KIKUCHI
Model:KENSEI MIKAMI
Text:SHINSUKE UMENAKA
撮影協力:野外博物館 合掌造り民家園

2024.5.15

生活が豊かになる和のある暮らし

世界から日本を訪れる外国人が急増している。
ひと昔前なら、日本が世界に誇るモノといえば、
家電などのプロダクツが主だった。
それがいまやグルメや美しい自然も
興味の対象になっている。
僕らにとっては当たり前に感じるものばかりだが、
彼らには斬新に映るらしい。
そう、日本には素晴らしいモノが溢れているのだ。
そんな“ニッポン”を僕らが深掘りしなくてどうする。
日本らしさにこだわったドメスティックブランドや
ジャパンメイドのアイテムを生活に取り入れることで、
上品で彩りのある暮らしをしようではないか。

生活が豊かになる和のある暮らし
生活が豊かになる和のある暮らし

モノづくりの精神が息づく ニッポンの椅子

ニッポンの椅子の歴史は、古くはない。畳が中心の和室文化だったのだから、当然だろう。しかし、江戸の末期から徐々に椅子やテーブルが西洋から入ってくると、日本人の職人気質や豊富に手に入る良質な木材を背景に、日本製の椅子もデザインや品質が高まっていった。そして、いまや日本製の椅子は海外のモノに引けを取らない。個性があり、加工の技術が高く、そして日本のインテリアに調和するのだ。そんな良質な日本の椅子を求めて、国内屈指の家具産地である岐阜県・飛騨高山に向かった。

全国有数のブナの生息地飛騨高山で磨かれた椅子

全国有数のブナの生息地飛騨高山で磨かれた椅子

日本は国土の60%以上が森林で覆われ、木材が豊富に入る。一時期、安価な海外産の木材に押され、国内の家具産業は低迷期を経験したものの、ヒノキなど良質な木材を高い技術で加工した高級家具を中心に業績を伸ばしている。現在、大川市(福岡県)、静岡市(静岡県)、高山市(岐阜県)、府中市(広島県)、そして、旭川市(北海道)などが、家具の産地として有名だ。いずれも豊かな森林を抱える地域だが、高山市も例外ではない。全国有数のブナの生息地で、飛騨高山地域の森林面積は90%を超える。そんな豊かな森林資源を背景に古くから木工の職人が育ち、その伝統は現在も、飛騨の地に継承されている。1920年に設立された家具メーカー「飛騨産業」(以下、HIDA)も、そのひとつだ。

柔らかさと軽やかさが同居 高い加工技術が可能にした 隈研吾のアームチェア

2020年に100周年を迎えたHIDAが、世界的な建築家・隈研吾氏と開発したのが、この「クマヒダ アームチェア」。チェアの背から肘、前脚を構成する部材の断面が、両端に尖った膨らみをもつ紡錘形(ぼうすいけい)になっており、柔らかさと軽やかさを表現するのにひと役買っている。また座面にも柔らかな曲線が入っており、快適な座り心地を実現しているのだ。こうした柔らかさと軽やかさの両立は、高度な加工技術があってこそ。また材種は、ウォルナットかホワイトオークを選べるが、天然木を使用しているため、使い込むほど味が出る経年変化も楽しめる。優しい存在感のある佇まいが、リビングに彩りを与えてくれるはずだ。
柔らかさと軽やかさが同居 高い加工技術が可能にした 隈研吾のアームチェア
クマヒダ アームチェア363,000円/飛騨産業(株)TEL:0577-32-1001

ニット30,800円/ヤシキ(アルファ PR TEL:03-5413-3546)、パンツ49,500円/ネズヨウヒンテン(にしのや TEL:03-6434-0983)

木材を曲げることで フォルムの美しさと強度を得る 匠の技術「曲木」

全国有数のブナの生息地飛騨高山で磨かれた椅子
シャツ33,000円/ウル、ブルゾン48,400円、パンツ37,400円/ともにヨーク(以上すべて、エンケル TEL:03-6812-9897)、靴48,400円/フット・ザ・コーチャー(オーセンティック・シュー&コー TEL:03-5808-7515)

HIDAが世界に誇る匠の技に「曲木(まげき)」というものがある。木材を蒸煮することで軟化させたあと、曲型にはめて固定。そして乾燥させることで、木材を曲げるのだ。厚みがあり、長い木材になればなるほど、難易度があがる匠の技術だという。美しい木目を生かした曲線を作ることができ、また、削り出して加工した木材の場合、繊維を分断してしまうのに対して、曲木ではすべての繊維がつながっているため、強度面でも優れている。丈夫で美しいデザインを可能にする技術であり、椅子に活用するにふさわしい技法といえよう。

高難度の一本曲木を使用 柳宗理デザインの 復刻アームチェア
YANAGI COLLECTION アームチェア302,500円/飛騨産業(株)TEL:0577-32-1001

高難度の一本曲木を使用 柳宗理デザインの 復刻アームチェア

そんな曲木を使ったHIDAのアームチェアがある。工業デザイナーとして名高い柳宗理(やなぎそうり)のデザインチェアを復刻したYANAGI COLLECTION アームチェアだ。この復刻プロジェクトは、日本の美を後世に引き継ぎながら、柳宗理の作品づくりを通して世界に通用する「飛騨の名工」を育成していくことを目的にしているという。背板から肘木には、曲木でも特に難易度が高いという一本曲木を使用し、座板は手ろくろで職人が一枚一枚、丁寧に挽いて、仕上げている。そのため背中は背板にピッタリとフィットし、座り心地も快適そのもの。まるで椅子に包み込まれているような気分になる。

飛騨高山地方に古くからある ブナ材に着想を得たBUNAシリーズ

全国有数のブナの生息地飛騨高山で磨かれた椅子
シャツ32,000円/レインメーカー(レインメーカー TEL:075-708-2280)、ニット39,600円/ウル(エンケル TEL:03-6812-9897)、パンツ132,000円/ヘリル(にしのや TEL:03-6434-0983)、靴48,400円/フット・ザ・コーチャー(オーセンティック・シュー&コー TEL:03-5808-7515)

大量生産ではなく、受注した分だけ、職人の手で丁寧に仕上げていく、真摯なものづくり。その土地土地の特産品を活用して、生産を行う地産地消的な取り組み。そんなSDGs時代を先取りしたような日本のプロダクトも徐々に増えている。あえて日本製を生活に取り入れるなら、品質の高さやデザインの優秀さに加え、そうした精神性も含めて評価したいところ。HIDAでいえば、飛騨高山地方に古くから群生する、ブナ材を使用した製品だ。ブナ材は独特の質感があり、また程よい重厚感も魅力。また、経年変化によって、使ううちに味わいが出てくるのも特徴。とりわけBUNAシリーズには欧州のブナ(ビーチ)材が使用されている。

塊から削り出されたような 彫刻的なフォルムが特徴的な KEN OKUYAMAのBUNA チェア

こちらはイタリア人以外で初めてフェラーリのデザインを担当した男として知られる、カーデザイナーのKEN OKUYAMA氏によるBUNA チェア。その名の通り、ブナ(ビーチ)材が使用されている。塊から削り出されたような彫刻的な造形で、背板には一本曲木を採用。また、張り布を好みのものに選択できる座面はフィット感がよく、長く座っても疲れない。
塊から削り出されたような 彫刻的なフォルムが特徴的な KEN OKUYAMAのBUNA チェア
BUNA チェア119,900円/飛騨産業(株)TEL:0577-32-1001

ニッポン×ファッション

ドメスティックブランドや、日本の伝統を取り入れたファッションがいまの気分。
こだわりや主張があるニッポン×ファッションをテーマにコーデを組んでみた。
京都を拠点に活動する ファッションブランド レインメーカー

京都を拠点に活動する ファッションブランド レインメーカー

シャツは京都を拠点に活動するファッションブランド、レインメーカーのもの。デザイナーの渡部宏一と、クリエイティブ・ディレクターの岸隆太朗の二人によって立ち上げられたブランドで、京都にのみ旗艦店がある。さりげなく取り入れられる和のテイストが魅力的だ。また、上に羽織るのは、ウルのニット。ウルは、立体感のあるパターンや、穏やかな色使いに定評があり、デザイナーの漆山政春が手がける。
シャツ32,000円/レインメーカー(レインメーカー TEL:075-708-2280)、ニット39,600円/ウル(エンケル TEL:03-6812-9897)、パンツ132,000円/ヘリル(にしのや TEL:03-6434-0983)、靴48,400円/フット・ザ・コーチャー(オーセンティック・シュー&コー TEL:03-5808-7515)

両毛地区で作られる ニットアイテムを展開する 国内ブランドのヤシキ

黒いニットは、日本のニットウェアブランド「ヤシキ」のもの。デザイナーの矢鋪彩義が、2014年に立ち上げたブランドで、繊維産業が盛んな群馬県と栃木県をまたぐ、両毛地区で作られるニットアイテムを主に展開している。和のテイストを感じさせる柄や素材のアイテムも多く見られるが、シルエットやディテールは現代的。
ニット30,800円/ヤシキ(アルファ PR TEL:03-5413-3546)パンツ49,500円/ネズヨウヒンテン(にしのや TEL:03-6434-0983)、靴48,400円/フット・ザ・コーチャー(オーセンティック・シュー&コー TEL:03-5808-7515)
両毛地区で作られる ニットアイテムを展開する 国内ブランドのヤシキ
両毛地区で作られる ニットアイテムを展開する 国内ブランドのヤシキ
両毛地区で作られる ニットアイテムを展開する 国内ブランドのヤシキ
シャツ33,000円/ウル、ブルゾン48,400円、パンツ37,400円/ともに、ヨーク(以上すべて、エンケルTEL:03-6812-9897)、靴48,400円/フット・ザ・コーチャー(オーセンティック・シュー&コー TEL:03-5808-7515)
ブルゾンとパンツはともに、ヨーク。ヨークは日本のファッションブランドで、デザイナーの寺田典夫が2018年に立ち上げた。ユニセックスで着用できるアイテムを多く扱う。素材やパターンにこだわりつつ、スタンダードなアイテムに現代的な要素をプラスしている。また、ブランド名の「ヨーク」とは「繋ぐ」「絆」「洋服の切り替え布」といった意味をもち、原料から糸・生地、裁断、縫製、仕上げなど、一連の工程に多くの人が関わっている。