残された日々を命の限り輝かせようとする余命1週間の17歳の少女と、その告白に戸惑いながらも幸せな日々をつくることに奔走する恋人の少年。そんなふたりの姿を描いた、嶽本野ばら氏原作のラブストーリー「ハピネス」が映画化。余命を告げられた少女、由茉の父親・山岸英生役を演じる山崎まさよしさんは、ミュージシャンと並行して俳優として数多くの作品に出演してきたが、今回ほど役に感情移入したことはないと言う。
「今まで僕が演じてきたのは特殊な役が多かったので、温厚な普通の父親役というのはめずらしくて(笑)。実際、僕も娘を持つ父親というのもあるのですが、演じながら本当に悲しくて泣いたのは初めての経験でした。妻役の吉田羊さんの演技が素晴らしくて、横で演じられたら自然と泣けてきたというのもあります。現場での俳優さんはセリフや自分がどうすべきかも完璧に頭に入っていて、自立していてすごいなといつも思いますね。僕だけかもしれませんが、ミュージシャンはどちらかといえば甘えん坊(笑)。僕は撮影現場はとても好きなんですが、スタッフに頼りっきりです」
そんな謙遜をするものの、山崎さんの俳優歴は30年近く。「ハピネス」の監督は、山崎さんの記念すべき初の主演映画「月とキャベツ」(1996年12月公開)でメガホンを取った篠原哲雄さん。今回も篠原さんの「山ちゃんに頼みたい」のひと言で出演が決まったと言う。
「篠さんに頼まれたら、まず断ることはないですね。篠さんはいつも『さぁ、どうぞ』といった感じで、役柄についての説明は全然してくれないんですよ。英生に関しても、『なんの仕事をしている人? なんかの職人なのかな? 家具職人かな……』など、何者なのか自分で想像しながら演じていました。でもこういうラフな作品への参加の仕方が僕にとってもラクなんですけどね(笑)」
余命わずかとなった娘・由茉は“自分らしく生きる”ために、ロリータファッションに挑戦する。劇中には由茉の恋人・雪夫の姉・月子がロリータファッションを両親にとがめられるシーンもある。山崎さんに「もしご自身の娘がロリータファッションを好むようになったら?」と聞いてみると……。
「劇中の役者さんたちはとてもよく似合っていましたし、似合っていればいいと思います。僕の子どももキラキラしているものが好きだし、こういうファッションが好きになるかもしれないけど、もし似合ってなかったらアドバイスはするかも(笑)。でも人生何が起こるかわからないし、好きなことをやったほうがいいですよね」
高校生同士の恋人の最後の7日間を描いたラブストーリーではあるが、親子、夫婦、きょうだい、とさまざまな関係を考えさせられる物語だと山崎さんは言う。
「若い恋人たちのラブストーリーではあるんですが、余命わずかとなった娘を前向きに支える両親との親子愛、夫婦の愛、姉弟の愛が若い恋人たちを支えていることも描かれていると思うんです。いろんな人が前向きになれるものを内に秘めている、希望に満ちた作品だと思うので、たくさんの人に観ていただきたいですね」
劇中のロリータファッションについて語ってもらったが、山崎さん自身のファッションへのこだわりは、あまりないのだそう。スタッフが「似合いそう」とすすめたものが、なんとなくの好みになっているのだとか。
「自分で選ぶ服は、ほぼ『MA-1』ですね。着心地が良くてあたたかいし。洋服、バッグ、財布などはいただいたものが多く、それらを基本的に擦り切れるまで使い続けています(笑)。車も同じものをずっと乗り続けています。使えるものは長く使いたいというのがあります」
そんな山崎さんが、こだわっている“モノ”はやはり、ミュージシャンとしての活動に使うもの。自身のYouTubeやテレビ番組出演ですっかり有名になった、趣味の「DIY」も音楽に関するモノづくりからスタートしたのだそう。
「まず最初につくったのは、ギタースタンド。2011年の東日本大震災のときに、自分の持っているギターが倒れたことでスタンドをつくろうと思ったのが、DIYを始めたきっかけです。その後も家族が『ここにこれがあったら便利じゃないか』と言うものを作ったり、自分が欲しいものからよく考えたら『普通なら作らないだろう』というものまで、必要に応じて作ってきました(笑)」
ときには、DIYに使う工具までを作ってきたという、山崎さん。DIY初心者の方々へのアドバイスをお願いしてみると……。
「なんとなく作ってみたくて、バンドソー(その名の通り、帯(バンド)になったノコ刃(ソー)を回転させ、金属や木材などを切断する工具。)やテーブルソー(テーブルの真ん中に丸のこの刃が飛び出した状態で取り付けられている木工機械)を作ったこともありました。でも大概の工具は購入できますし、作った後で『なんでこんなの作ったんだろう?』と思いましたね(笑)。
DIYを始めた頃、YouTubeで検索すると、DIYをしている外国人の動画がたくさん出てきたんです。外国人はDIYが好きで、日本人なら業者を呼ぶような修理も、だいたい自分でやっちゃう。僕は気持ちの上ではそのスタンスが正しいと思っていて、『よーし、やるぞ!』と気合いを入れて大々的に始めるものでもなく、『壊れたら直す』と言う気持ちで部屋の中を必要に応じてメンテナンスすることが、DIYだと思うんです。道具を購入するのもいいんですが、家に置くには危険なものも多いですし、ホームセンターで借りられたり、切断をやってくれるところもある。まずは身の回りを見渡してみて、需要を見極めてから始めるのがいいんじゃないかなと思います」