特集「日本モノ語り。」にあわせて、ドメスティックブランドで統一した衣装がズラリと並んだ、都内某スタジオ。今をときめく若手俳優のひとりで、ファッションフリークとしても知られる板垣李光人さんが、スタイリストの提案に耳を傾けながら、自ら時間をかけてコーディネイトを選んでいく。
「カジュアルなTシャツコーデからジャケットスタイルまで。いろいろな表情を見せられたらと思って、今回はこの3ポーズを選びました。ドメスティックブランドと聞くと、アンダーカバーが真っ先に思い浮かびます。ただ、ファッションについてはドメスティックか、海外ブランドか、あまり意識せずに、フラットな視点で選んでいることが多いですね」と語る。
一方で、友禅や西陣織といった日本の伝統工芸、とくに焼き物や器に関心があるという。
「先日、岸田首相がバイデン大統領に輪島塗のコーヒーセットをプレゼントしたというニュースがありましたが、日本の工芸品は世界で高く評価されています。西陣織がディオールで採用されたという話題もありましたね。その土地の素材を生かした製品や伝統的なものに興味があります。時間があれば、僕も着物を体験したり、工房をめぐったり、日本の生産地を訪ねてみたいと思っています。また日本の伝統工芸といえば、後継者不足の問題とか、ネガティブな視点で語られることも多いですが、将来、発信力や影響力がもてるようになったら、若い人へのプロモーションなど、自分にお手伝いできることがあれば、ぜひやってみたいと考えています」
こうしたファッションやカルチャーへの感度の高さが評価され、報道番組の仕事も舞い込んでいる。
そのひとつが、日本テレビ系報道番組「news zero」への出演だ。
「“news zero”には、2022年12月に3週ほど出演させていただく機会がありました。それが今回の水曜パートナーとしての出演につながったのだと思うのですが、22歳の等身大の自分が感じたことを伝えていきたいと思っています。若者の間でテレビ離れやニュース離れが進んでいると言われることもありますが、僕はテレビが好きなんです」
今年1月に22歳になったばかりだが、俳優歴も10年になる。制作現場で奮闘しているスタッフの熱意を目の当たりにしてきたのだ。
「ドラマであれ、報道であれ、ひとつの作品をみんな全力でつくっています。もっと面白いものを、もっと良いものを、という情熱は尊いです。報道番組なら、何かが起こるとスタッフが現場に飛び、その日のうちに現場とスタジオをつないでライブで報じます。それはテレビならではのもの。せっかくオファーをいただいたので、そこに関わり、自分でも何かを発信できればと考えています」
オフにはイラストも描き、アートへの関心も高い。そこでnews zeroの初回ロケでは、伊勢丹で開催された、ブラジル人アーティストのロメロ・ブリットの個展を取材するという企画を担当した。
そんな板垣さんが出演する映画が、8月9日(金)から全国公開される『ブルーピリオド』だ。美術をテーマにし、「マンガ大賞2020」を受賞したこの作品で、主人公のライバル役である天才高校生・高橋世田介(よたすけ)を演じるのは、もはや偶然ではないだろう。高橋世田介とは、こんな共通点があると語る。
「彼は絵に対して、自分の世界観を持っています。だから美大専門の予備校が肌にあわず、辞めてしまいました。それが自分の高校時代と重なりました。僕は美術の授業を受けていたとき、高校の科目なので評価が付いたり、課題が出るのは仕方がないのですが、“絵を他人に評価されたくない”というマインドでした(笑)。そういう感性や、世田介の内向的な性格にはとても共感します」
本作では、キャスト陣が撮影の半年以上前から絵画練習に取り組み、絵を描く所作や動きを体得してからクランクイン。そして劇中に登場する絵画の一部は実際にキャストが描いたものが採用されている点も、見どころとなっている。
「絵は幼い頃から描いていましたが、デッサンから勉強したことはありませんでした。本作では美大の受験がテーマで、デッサンは、最も重要なシーンのひとつ。プロの方々に指導していただいて、自分が描く絵も表現のスキルが磨かれて、描きたいものの幅が広がった気がします」
自分の“好き”なものに対して貪欲で、真摯に向き合っているからこそ、運を手繰り寄せ、さまざまなチャンスが巡ってくるのかもしれない。