大人の好きなモノ語り
湘南乃風

“湘南乃風”というジャンルをまっすぐにいく20年を経て見えてきたもの

Interview 湘南乃風
Photos:TATSUYA YAMANAKA(Stanford)
Text:HIROMI YAMANISHI(HISTOREAL)2023.7.28
J-POPシーンに“レゲエ”というジャンルを広めた第一人者である、湘南乃風。デビュー20周年を迎える2023年8月には、10周年のときと同じ「横浜スタジアム」でのライブを開催。また、配信で音楽を聴く時代にリリースするからこそ、こだわり抜いたパッケージでのベストアルバムを制作するなど、精力的に活動している。そんな彼らにとっては「これからも続いていく中の“普通”の1年」、しかし「ファンに感謝し自分たちの活動を振り返る時間」でもあると言う“周年”について、そしてメンバーそれぞれのライフスタイルにおける、大人のこだわりについても教えてもらった。

続けられたのは「この4人だったから」としか言えない

1960年代のジャマイカを発祥とする、「裏拍」で刻んだリズムが印象的な音楽ジャンル「レゲエ」。軽快なリズムとバイブスは聴く人を開放的な気分にさせてくれ、今や世界中で、特に夏に愛される音楽となっている。そのレゲエというジャンルをJ-POPに浸透させたのが、2003年にデビューした湘南乃風だ。それから20年、今の日本のレゲエは、彼らの目にどう映っているのか。

HAN-KUN 今から15年ぐらい前、ジャマイカ由来のレゲエと日本語がうまく混ざり合って、いろんな人が聴きやすくなった“ジャパニーズレゲエ(ジャパレゲ)”というワードが広まりました。僕らもその渦中にいたわけですが、それから時代を経てジャンルとしては良くも悪くもあまり定着しなかったように思います。僕らのバックホーンには必ずジャマイカのレゲエがあるんですが、湘南乃風のサウンドはどちらかといえば“ジャパ”の部分が強い。だからこそ振り切ってレゲエをやっているときよりも受け入れてくれる人が増えたと思っています。そして、レゲエというジャンルのグループよりも、“湘南乃風”として受け入れてもらって、今がある。レゲエとは、サウンドというよりもジャマイカの人々が持つ反骨精神や仲間を大切にする意識。そういうものを日本語に置き換えて伝える道をまっ直ぐに歩いてきたのが、僕たちですね。

日本におけるレゲエというジャンルを語る上で、またJ-POPシーンにおいて欠かせない存在となった湘南乃風だが、「まさか20年も活動できるとは思っていなかった」と言う。

RED RICE 20年やっている中で何度か「もうダメかな」と思ったことはありました。コロナ禍でツアーができなくなって、次にお客さんが声を出せないライブをやって、「2度と満席の会場で歌えないのか」と思って、グループとしてまとまる術を見失いかけたというか。でもコロナ禍だからこそ自然と出てきたメッセージを1曲1曲に入魂してつくりながら20周年に向かったからこそ、今まとまれている部分もあります。

若旦那 自分は曲づくりの時間もできたし、割とコロナを前向きに捉えていたほうです。湘南乃風を続けることは自分にとって人生の勉強の場だから、これを辞めてしまうのは人生を辞めてしまうのと同じ。逃げ出すのは簡単だし、カッコよく辞めたくもなかった。辞めるときは、ボロボロになって辞めたいんですよ。でも、ファンの方々がなかなかボロボロにさせてくれなかったから、人生の成長の場に向き合ってこれたんだと思います。

湘南乃風 湘南乃風

“周年”を迎えるグループにはよく「これまで続けてこれた秘訣」を聞くが、どのグループも「確たるものはない」とその回答には首をひねる。それを承知でまたこの質問をぶつけてみた。

SHOCK EYE ただシンプルに、「このメンバーだったから」だと思います。「もうダメかも」と思ったときに続けるための力を発揮したメンバーはその都度違ったし、ひとりが「やめよう」と思った気持ちが回りまわって続ける力になったこともある。いろんな場面が思い出される今、続けられたのは「この4人だったから」としか言えないですね。

彼らの盟友とも言える日本を代表するレゲエグループである、Mighty Crownが活動30周年を経て、この夏で活動休止する。

若旦那 それぞれ事情もあるし、次の展開もあるんだろうけど、仲間が活動休止や解散という話を聞くとやはり淋しいですね。湘南乃風は2023年でデビュー20周年を迎えるけど、たまたま20年で、19年も21年も22年も変わらない。“周年”を目標にするのも違うと思うし、“今”を切り取ったものを1回1回表現していくことが一番大事だと思う。だから、横浜スタジアムにて20周年記念ライブ(湘南乃風 二十周年記念公演「風祭り at 横浜スタジアム〜困ったことがあったらな、風に向かって俺らの名前を呼べ! あんちゃん達がどっからでも飛んできてやるから〜」)は、その前の週にやったライブと気持ちは変わらないと思います。周年ライブの「そこにやる気を出す」って言ったら、1本1本のライブに失礼だし。

SHOCK EYE 周年は“振り返る時間”という感じだね。

HAN-KUN 「ファンの人たちが俺たちの“周年”を祝ってくれている、と勘違いしがちだけど、逆だからね。「俺たちに付き合ってくれてありがとう」という気持ちですね。

「勝ち負けではない世界の美しさ」を歌い続けたい

湘南乃風 湘南乃風

メジャーデビュー20周年を記念した3枚組ベストアルバム「湘南乃⾵〜20th Anniversary BEST〜」は、それぞれ異なる3つのテーマで構成。ジャケットは、バスケットボールのユニフォーム姿や、新橋の飲⾷店で「仕事終わりに⼀杯」のイメージ、夜の街の匂いを漂わせる装いで歌舞伎町⼀番街⼊⼝を闊歩する姿など、ビジュアルにもこだわっている。

SHOCK EYE 僕らはCDやDVDを買ってきた世代なので、今この時代にCDとしてリリースするからには盛りだくさんにしたいというのもあるし、そもそも入れたい楽曲がたくさんあるんですよ。だから自分たちが入れたいもの、スタッフが選んだもの、ファンの人気が高いもの、「全部入れ」にしようかと。それを旦那(若旦那)が、3つのディスクにしてそれぞれ名前つけるのはどうかと提案してくれて、それぞれに合う楽曲を入れました。

若旦那 俺たちの曲って、エリートサラリーマンの歌じゃなくて、どこか思うようにいかない悔しさとか増していく孤独感とかを抱えていて、それを引きずりたくなくてガード下で酔っ払うみたいなイメージで、そのイメージの「新橋」。あとは湘南乃風の曲はギラギラしてて長いものに巻かれない強さを歌っているし、お世話になった「龍が如く」シリーズ(セガのアクションアドベンチャーゲーム)のテーマソングが多くあったので、それをイメージする「新宿」。さらに“夏は湘南”というイメージで「湘南」の3枚にした感じですね。

HAN-KUN やっぱりベスト盤ってみんながいいと思うものを入れたかったんですよね。自分たちだけだと偏っちゃうから。テーマに合った楽曲たちがうまく入っていると思っています。

RED RICE 湘南乃風が歌ってきたものは「勝ち負けではない世界の美しさ」。それがこのアルバムの中には詰まっていると思うし、これからもそれをちゃんと歌っていきたいという思い、それだけですね。

ハマっているモノ

  • ウイスキー
    RED RICE
    RED RICE
    コロナ禍でウイスキーにハマって、最初はスコットランドの「スコッチ」が好きだったんですが、最近は台湾の「カバラン」をよく飲んでいます。スコットランドみたいな比較的寒い地域ではなく、暑いところでつくられているからか、トロピカルフルーツみたいな味のものが多くて。やっぱりお酒を飲むときはグラスも大事だと気づいて、それからは「バカラ」の400mlグラスでハイボールにして飲んでいます。あとはスコットランド南西部のグラスメーカー「グレンケアン」のテイスティンググラスもよく使います。グラスとウィスキーの色合いを眺めながら飲むと、格別においしくなりますよ。
  • ギター
    若旦那
    若旦那
    湘南乃風が10周年のときで、僕が37歳のとき。初めてギターを買ったんです。ミュージシャンをやっているので、楽器は弾けたほうがいいかなと。日本人には前奏やギターソロを飛ばして聴く人もいるみたいだけど、楽器を始めたことで、曲を聴くと指の動きが見えてくるようになったんですよ。1音1音に込められた熱い思いを感じて、音に対する敬意が深くなったというか。始めた頃は5分の練習でも疲れるし、上手く弾けないと辛いけど、逃げなかった。いきなり上手くはならないし、楽器がある程度弾けるようになるには「各駅停車」に乗るしかない。でも、やった分だけ成長できる。YouTubeで自分の先生を見つけて、毎日触って楽器の音色を楽しんでみてください。
  • 寺社巡り
    SHOCK EYE
    SHOCK EYE
    寺社巡りが好きで、年間にして100以上は訪れていると思います。最初はスマートフォンで撮っていたんですが、その魅力を伝えきれないことがもどかしくなって、1年半くらい前からは一眼レフで撮るようになりました。由緒正しくて美しいのに、なぜか淋しい状況になっている寺社って全国にたくさんあるんですよ。SNSに投稿するとその土地の方が喜んでくれるし、日本の良い場所を伝えていけることが嬉しいんです。最初は設定がうまくいかないこともあって、ツールで音楽をつくることにも似ているなと思います。寺社の写真を撮ることは、自分が日本人であることを実感できる時間にもなって、一生の趣味になると思っています。
  • 日本酒
    HAN-KUN
    HAN-KUN
    まだ覚えたてなんですが、最近日本酒に興味が出てきました。実は以前は苦手だったんです。でも海外に行ったとき「日本人なら酒だろう?」と言われて「飲めない」とはちょっと言いづらくて。そんな中で、知り合いにおすすめされた日本酒がすごくおいしくて、それからはコロナ禍の全国ライブツアーの際に、部屋で各地域のイベンターさんにおすすめしてもらった日本酒を試すようになりました。若旦那が日本酒メーカーさんとコラボしたことをきっかけに、湘南乃風20周年を記念したオリジナル仕込みの日本酒「湘南乃風」もつくりました。機会があれば、味わっていただきたいです。
湘南乃風
CD Review

『湘南乃⾵〜20th Anniversary BEST〜』

『湘南乃⾵〜20th Anniversary BEST〜』

8800円(税込)(初回生産限定盤3CD+2DVD)
4400円(税込)(通常盤 3CD)
6600円(税込)(3CD+グッズ)

発売中
ユニバーサル ミュージック Polydor Records

「湘南 〜134号線〜編」には、彼らの名を世に知らしめた大ヒット曲「純恋歌」など14曲、「新橋 〜ガード下〜編」には、初のオリコンシングルチャート入りをした「カラス」、など14曲、「新宿 〜歌舞伎町〜 編」には、PS4®専用ソフト「龍が如く7 光と闇の行方」主題歌「一番歌」などなど17曲。各ディスクには1曲ずつ新曲も収録。NHK「みんなのうた」でオンエア中の書き下ろし曲「君に」は、新曲として「新橋 〜ガード下〜 編」に収録される。初回生産限定盤には、2021年10⽉26⽇に東京ガーデンシアターで開催した「湘南乃⾵ ⾵伝説 TOUR2020四⽅戦⾵ 〜ぶっ⾶べ クソアツい 粋な祭り頂け⼀番〜」を収録したDVDがつく。

Profile

しょうなんのかぜ●メンバーは左から、RED RICE、若旦那、HAN-KUN、SHOCK EYE。2003年、アルバム「湘南乃⾵ 〜Real Riders〜」でデビュー。2006年にシングル「純恋歌」が大ヒットし、日本のレゲエシーンを牽引する存在になる。
8月12日、横浜スタジアムにて20周年記念ライブ「湘南乃風 二十周年記念公演『風祭り at 横浜スタジアム〜困ったことがあったらな、風に向かって俺らの名前を呼べ! あんちゃん達がどっからでも飛んできてやるから〜』を開催。