Photos:TATSUYA YAMANAKA(stanford)
Styling:YONOSUKE KIKUCHI
Model:KENSEI MIKAMI
Text:SHINSUKE UMENAKA
2023.5.15
本州最北端に位置する青森県。りんごやねぶた祭りのイメージが強いが、アート好きには知られた現代アートの先進地だ。県内にある青森県立美術館や青森公立大学 国際芸術センター青森、十和田市現代美術館、弘前れんが倉庫美術館、八戸市美術館の5つの美術館が連携し、青森のアートの魅力を発信するなど、“アートな県”として年々、注目度が高まっている。今回のアート旅の目的地は、そんな青森県に決めた。そして、春の到来とともに、俳優・水上剣星と一路、青森を目指す。
青森空港から車で20分、JR新青森駅からは車で10分ほどと、アクセスに優れた青森県立美術館。陸上自衛隊の青森駐屯地の側を通ると、芝生に囲まれた白くモダンな建物が見えてくる。2006年7月に開館した青森県立美術館だ。車を停め、舗装されたアプローチを進んでいくと、壁面に並ぶ「木」と「a」をモチーフにしたロゴが視界に入ってきた。日暮れになると青く光る、それは「青い木が集まって森になる」という成長を描いているとか。
入場し、エレベーターで地下2階まで降りる。お目当ての作品を先に見るため路を急いだ。青森が世界に誇る現代美術家・奈良美智の《あおもり犬》」である。屋外トレンチに設置された高さ約8.5メートルの作品で、存在感を放っている。週末になると、多くの来場者が集うフォトスポットだ。
美術館に隣接する三内丸山遺跡を意識して制作されたことから、下半身が地中に埋まっていて、いままさに発掘されたかのようでもある。悲しげに見える表情の背後には、家で飼うことが許されず山に置き去りにしてきた、一匹の野良犬にまつわる奈良の幼少期のエピソードがあるようだ。愛くるしいフォルムに似合わない巨大なサイズ感に、眺めていると現実感がなくなり、脳がバグってくる。
続いて向かったのは、縦21m×横21m×高さ19.5mの巨大な展示室「アレコホール」。ここには、ロシア出身のユダヤ系フランス人画家、マルク・シャガールが1942年に、亡命先のアメリカでバレエの舞台装飾を手がけた際に描いた背景画が展示されている。バレエ「アレコ」の舞台背景画は、全部で4点あり、そのうちの3点を青森県立美術館が収蔵しているのだ。残りの1点はアメリカのフィラデルフィア美術館から借用しているもの。
1点の大きさが、縦9メートル、横15メートルもあり、それが四方から迫ってくる。色彩の魔術師との異名を持つシャガールの大胆な色使いが冴え渡る大作で、ただただ圧倒される。あまりの迫力に、しばし時を忘れて、物思いに耽ってしまう。
美術館の南側にある「八角堂」は、奈良美智のデザインに基づいて造られた建物。細い通路を進んでいくと、屋根のない小さなスペースが突き当たる。そこに鎮座するのが、開館10周年を記念して、2016年に設置された同じく奈良美智作の《Miss Forest / 森の子》だ。
高さが6m以上あるブロンズ像で、空に向かって伸びる頭部を持つ。東日本大震災を目の当たりにし、さまざまな思いが去来するなか、作品を完成させたという。森の精のような不思議な佇まいに思わず手を合わせる。
青森県立美術館は、隣接する縄文時代の集落跡「三内丸山遺跡」の発掘現場から着想を得て、設計された点も見どころの一つだ。発掘現場のトレンチ(壕)のように、地面が幾何学的に切り込まれていて、土の床や壁が白い建物を浮かび上がらせている。設計を担当したのは、ルイ・ヴィトンの店舗外装などを手がけた建築家の青木淳。
その後、『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』といった初期ウルトラシリーズで、怪獣や宇宙人などのデザインを手がけた成田亨の作品や、同じく青森出身の作家、棟方志功や関野凖一郎らの作品をゆっくりと鑑賞していく。都心の美術館と比べれば、人も少なく、後続の来場者から急かされることもない。しかも旅だ。時間はたっぷりとある。
ひと通り、鑑賞したら、東ウイングの先端にあるミュージアムショップへ。独立したエントランスがあるため、館内を通らなくても、公園サイドから直接入ることができるのも嬉しい。作品を見た直後だけに財布の紐も緩くなる。「あおもり犬」をモチーフにした貯金箱や、ぬいぐるみ、ウルトラ怪獣のシルエットがプリントされたトートバッグもあった。アーティストの作品と関連するグッズが多く、感動や驚きを持ち帰るのに最適だ。
なお、現在、青森県立美術館では、石井康治のガラス工芸、工藤甲人の日本画、佐野ぬいの油彩画を特集展示した「コレクション展2023-1」を7月17日まで開催しているほか、「庵野秀明展」も同日まで開催されている。余韻に浸りながら、青森県立美術館を後にした。
TEL:017-783-3000
定休日:第2・第4月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始
開館時間:9:30〜17:00(入場は16:30まで)
https://www.aomori-museum.jp/
青森県立美術館から東に進路を取り、国道103号で八甲田山方面に向かう。次なる目的地は、青森公立大学 国際芸術センター青森(以下、ACAC)だ。ACACは八甲田山の麓にある施設で、アーティストの滞在制作や展覧会、そして教育普及などを柱に、現代芸術のプログラムを発信している。世界的な建築家・安藤忠雄が周囲の地形を壊さないよう配慮し、建物を森に埋没させる「見えない建築」を考案して、設計した。屋外に点在する彫刻作品も、自然環境に溶け込むように置かれているのが特徴だ。
建物に向かうアプローチのすぐ側にある《四季のアーケード》にまず立ち寄った。四季のアーケードは木を格子状に組んだ屋根で覆われたトンネル型の作品で、季節や時間帯によって頭上から降り注ぐ光が変化する。写真を撮りながら、ゆっくりと散歩したくなった。
森に隠れるように建つACACの施設は、主に3つで構成されている。ひとつは企画展などを開催するためのギャラリー、300名収容できる野外ステージ、そして芸術に関する資料を閲覧できるラウンジなどがある、展示棟だ。野外ステージの向かいには、美しい水のテラスもある。
この展示棟の奥にあるのが、創作棟。パネルソーやプレス、自動カンナなどがある木工スタジオや、銅版画プレス機が設置されている銅版画スタジオ、そして、写真スタジオなどが内部にあり、創作に没頭することができる。
また、創作棟に隣接するのが、宿泊棟だ。滞在しながら創作できるよう部屋や共同キッチンなども完備されている。いずれの施設も、創造性に溢れた設計で、こうした建築を愛でるのも、ACACの楽しみ方と言えるだろう。よくある美術館とは異なり、人の出入りも多くはない。静寂が辺りを包み、時折、鳥のさえずりも聞こえてくる。アートに浸るには最高の環境だ。
ACACの敷地内には、20以上の野外作品が点在している。森のなかにひっそりと佇む彫刻やオブジェもあり、散策しながら、探すのも楽しみのひとつだ。ミズバショウやヤマザクラ、ツツジといった植物のほか、野鳥や虫、アナグマのような小動物に出くわすこともある。
展示棟を抜けると、韓国人の作家、イ・ソンテクによる作品《作られた自然》が見えてきた。青森市近郊で採石された石片を成形せず、砲弾型に積み上げた造形物で、上部に銅管が突き刺さっている。銅管は筒状で、中に森の枯れ木が差し込まれていたという。
イ・ソンテクの《作られた自然》の目の前には、自然豊かな森に似つかわしくない、ステンレスの壁が立っている。神奈川県横須賀市出身の現代美術家・若江漢字の作品だ。《森にある壁》と名付けられた作品で、壁には赤い文字で「Non Ultra(=超えるべからず)」、青い文字で「Plus Ultra(超えていけ)」という、対照的な言葉がネオンサインで掲げられている。
どういう意味なのか? なぜステンレスにネオンサインなのか? 説明する言葉なく、解釈は鑑賞者に委ねられる。現代アートは、そんな作品を通じたアーティストとのやり取りが楽しい。
鈍く光る人工物が森で存在感を放っていた「森にある壁」とは異なり、辻 けいの《青森――円2005》は見過ごしかねない作品だ。遊歩道から一歩入った、木々が生い茂る林にあり、円筒状の建造物は経年変化で周囲の景色に溶け込んでいる。
ただ、近づき、その内部に立ち入ると、印象が一変する。色鮮やかな糸の群れが壁に塗り込まれ、視界が色で染まる。そして空を見上げると、円形の空が見えるという構造だ。時間によって空は移り変わり、風や草木が放つ匂いも変化する。
TEL:017-764-5200
定休日:年末年始、大学入学試験に関わる日程
開館時間:9:00〜19:00(展覧会は10:00〜18:00)
https://acac-aomori.jp/
フライトや電車、そしてレンタカーと移動の多い、旅のファッションは動きやすさを重視したくなる。ただ、行き先が美術館なら、ラフすぎる格好は考えものだ。アート作品に囲まれた空間で普段着では、場違い感が出てしまう。せっかくなら、お洒落をして行きたいところだろう。そこでアート旅にふさわしい着こなしを提案する。
派手な色やポップすぎる柄など、鑑賞の邪魔になるようなコーディネイトは避けたいところ。ニュアンスカラーをベースに組み立てるのが、ベストだ。今回は、コノロジカのシャツとパンツをチョイス。同ブランドは生地やパターン、縫製、加工に至るまで、職人の技術を重んじ、All Made in JAPANにこだわっている。そんなドメスティックブランドを選ぶことで、芸術家への敬意を込めた。
ブルゾン71,500円/ヨーク(エンケルTEL:03-6812-9897)、シャツ27,500円、/キクス ドキュメント.、パンツ34,100円/コノロジカ(ともに、HEMT PR TEL:03-6721-0882)、インナー白Tシャツ/スタイリスト私物
青森県立美術館は建築や空間演出にもこだわり、アート鑑賞にふさわしい場になっている。こうしたハイセンスな美術館は増えているため、我々もお洒落して望みたい。ただ、堅苦しすぎるのは身の丈に合わないだろう。そこで重宝するのが、ラクチンなのにシルエットがキレイに見える腰紐パンツだ。風が心地よい季節だけに、太めのパンツなら、抜け感に加え、軽やかな印象もプラスすることができる。
ジャケット74,800円/ヨーク(エンケルTEL:03-6812-9897)、シャツ39,600円、パンツ37,400円/ともに、レインメーカー(レインメーカーTEL:075-708-2280)、シューズ/スタイリスト私物
作品を保護するためにも、湿度や温度管理が行き届いている美術館がほとんど。ただ、屋外展示があるアートスポットなら話は別。日によっては肌寒いこともあり、ニットを1枚もっていると重宝するはず。落ち着いたグラデーションの柄ニットなら、ミニマルな現代アートとの相性も良く、申し分ない。
ニット39,600円/ウル、パンツ37,400円/ヨーク(ともにエンケルTEL:03-6812-9897)、ハイネックカットソー16,500円/キクス ドキュメント.(HEMT PR TEL:03-6721-0882)、シューズ/スタイリスト私物
ダブルポケットのユーティリティシャツは、チケットや半券をしばしば手にする旅には最適のアイテムだ。一方で欠点もある。カジュアル、あるいはミリタリーライクなものが多く、アートとの相性が悪いのだ。そこは素材選びでカバーする。上品見えする素材なら、バッグに一枚忍ばせておきたくなるはず。
シャツ74,800円、パンツ74,800円/ともに、プロダクトトゥエルブ(プロダクトトゥエルブ info@producttwelve.jp)、Tシャツ、シューズ/ともにスタイリスト私物
スタイルに左右されるハイテクスニーカーと異なり、ローテクスニーカーはどんなコーデにも合わせやすいという特長がある。一方で衝撃を吸収する機構に乏しいので、歩き回るアート旅では疲れるのがデメリットに。そこで、機能性インソールを敷くことで疲れを軽減。こうした備えをしっかりしておくと、移動が不快になることはない。
右から、17,600円/ニューバランス(ニューバランスジャパンお客様相談室TEL:0120-85-7120)、8,800円/VANS(ABC‐MART TEL:0120‐936‐610)、22,000円/コンバース(コンバースインフォメーションセンターTEL:0120-819-217)