旅から帰宅し、ホッとすると同時に、刺激に満ちていた美術館とのギャップに落胆する人もいるのでは? もっとハイセンスな暮らしをしたいと、アートな欲求が疼き出す。しかも、最近のミュージアムショップでは、センスの良いグッズがたくさん売っている。アーティストの作品をモチーフにしたお土産を持ち帰り、部屋に飾りたくなるのだ。ただし、自分のセンスだけではインテリアコーディネイトは心もとない。そこで、インテリアスタイリストの遠藤慎也さんに、アートで部屋をスタイリングする際に使える、プロの技を教えてもらった。
Photos:KEI KATAGIRI Text:SHINSUKE UMENAKA 2023.5.15
「僕も職業柄、旅行先や出張先で、インテリアショップを見て回ることも多いのですが、衝動買いがほとんどです。店頭で見つけたアート作品が自宅のインテリアと合うのか、購入する前に考える人もいますが、僕は“これほしい”を優先しています。家に帰り、いろんな場所に置いてみる。何か落ち着かないと思ったら、窓際に移動させたり、照明と組み合わせたり、そんな実験がまた楽しいんです。
そうはいっても、家が和室中心だと掛け軸とか、和のアートしか雰囲気にマッチせず、選択肢が狭いと思う人もいるかもしれません。でも、数年前にジャパンディ(Japandi)というインテリアスタイルがトレンドに上がったように、北欧テイストと日本的な要素をミックスしてみるのも手です。“手作りでミニマルなデザイン”“あたたかみを感じる木製”など、共通点を意識して置いてみると合わせやすいと思います」
「壁に何も飾っていない部屋は、壁面に余白(=スペース)があり、殺風景になりがちです。ウォールアートにはそれを埋める効果があります。ただ、その余白を全部使うのではなく、ある程度、残したサイズのものを飾ったほうが、作品がキレイに見えますね。また、縦長の余白なら、縦長の作品を、横に広がる余白なら横長の作品を飾ると収まりが良くなります。
あとは部屋の雰囲気にあわせて、フレーム(=額縁)の色や素材を取り替えること。例えば、コンクリート打ちっぱなしの部屋など、シックな壁ならダーク系のフレームに変え、白い壁紙や木材の壁なら、同系色や木のフレームに取り替えると部屋に馴染みやすくなります。
絵やポスターは壁に掛けるのではなく、棚などに置いて飾る方法もあります。僕はコードやケーブルを隠したり、外から部屋の中が見えないよう視線を遮る目的でも飾っています。そんな時は周りの色や素材、あるいは作品と年代が近いオブジェなどと一緒に並べると違和感もなくなりますよ」
「壁に釘を打ち込んだり、地震対策が必要になるウォールアートと比べて、インテリアに取り入れやすいのが、オブジェです。簡単に移動できるので、いろいろな置き場所を試すこともできます。棚はもちろん、階段や窓際など、オブジェはアイディア次第でどこでも置けます。もし窓際に飾りたいなら、ガラスやクリスタル製のオブジェを選ぶと、外光を透過・反射してきらびやかになるという効果もあります。
あとは、オブジェの周りに、おもちゃや雑貨を並べて、物語をつくってあげるというテクニックもあります。例えば、我が家には木を削ってつくった山をモチーフにしたオブジェがありますが、その前にミニカーを置いて、登山やアウトドアを連想させる演出をしています。アウトドアが自分の趣味というのもあるのですが、来客があった時に“え、なにこれ!?”って面白がってくれるという楽しさもあります」
「一人掛けでフォルムがキレイなアートピースなチェアなら、存在感があるので、ポツンと広い空間に置いてもカッコイイと思います。一方でデザインソファなど、実用性も兼ねているアイテムの場合には、サイドテーブルやリビングテーブルとの組み合わせで、コーディネイトすると統一感が出せます。読書用の照明を置いたり、さりげなく洋書を置いたりと、ひとつのコーナーを作り込んでいく感覚で配置してみてください。
ウォールアートが壁の余白を埋めるアイテムなら、こんなオットマンのような熊のオブジェは床の余白を埋めたい時に使えます。ラグを敷くのが定番のテクニックですが、フローリングの質感を残したい場合には、オットマン的オブジェが最適。フローリングで気持ちよさそうに熊が寝ているみたいですよね(笑)。
そのほか透明なアクリルチェアは、存在感が希薄で、部屋が広く見える効果があります。少し物が詰まっているコーナーに置いても、圧迫感がありません。クリアで冷たい印象もあるので、コンクリートの壁との相性も良いと思います。インテリアにギャラリーや美術館のような静謐な印象をプラスできます」
「照明は読書灯や作業灯など、手元を明るく照らすという実用性で配置するケースもあれば、天井の照明が届きにくい部屋のコーナーや足元に置くことで、暗くなっていた部分を浮き上がらせて、奥行きを生むという使い方もあります。デザイン性の高い照明なら、インテリアのアクセントにもなります。
本来なら高い天井から吊るすような照明を、あえて目線の高さに設置すると、フォルムの面白さが際立ちます。また、単に部屋を照らすだけではなく、壁に向けて光を当てて、光や影をアート的に楽しむのも面白い演出です」