俳優・永山瑛太。テレビドラマや映画で演技を披露する姿は、彼の魅力の一面にすぎない。雑誌に連載を持つフォトグラファーとしての顔、そしてインスタに投稿する抽象画など、多面的なクリエイティビティでファンを楽しませている。そんな表現者としての感性を磨くためにも、アートに触れる時間は欠かせないという。
「俳優という仕事をしていく上で、いろいろな作品を鑑賞したり、他者が造ったもの、他のアーティストの世界観を知ることは、表現者としての広がりにつながります。自分に内包されているものだけで表現していると、限界が見えてきます。だから、他のアーティストの作品から得るものは大切だと思っています」
東京には美術館やギャラリーがたくさんあり、世界中から名画や名品が集まってくる。しかし、自然豊かな地方で触れるアート作品には、そこでしか得られない刺激もある。
「地方では美術館に向かう道中も、都会とはまったく違います。風や匂いが感じられる自然の中にいることで視野が広角レンズにのように広がり、隙間や余白ができる気がします。その状態で、アーティストの作品に触れると、カメラのレンズをズームした時と同じような感覚に陥ります。作品の持つエネルギーや生き様がグッと全身に迫ってきて、打ちのめされるんです。自分なんて表現者としてまだまだだなという気持ちが芽生え、白紙の状態に戻れます」
直島の美術館には足を運んだことがあるものの、他にも行ってみたい場所が日本全国にあるという。時間を見つけて訪れるのが、今年の目標だと語ってくれた。
また、写真や絵画など、アーティストの作品に触れていると、基礎の大切さに気づかされるという。
「芸術って、型を知らない人がつくったものでも、みんなが面白いと思えば評価される面があるじゃないですか? 芝居もそうです。僕は20代の、まだそれほど作品に出演していない時に、事務所から芝居のレッスンを紹介されていましたが、だいたいサボっていました。でも、知らないからこそ、続けて来ることができた面もありますが、やっていくうちに基礎を学ばないと先に進めないんだってところにたどり着きます。勢いだけでは限界が来ます。時代劇の芝居なら、立ち居振る舞いや殺陣の稽古。フォトグラファーも露出計が付いていないカメラでどうやって撮ればいいのか? 基礎の大切さを学び、そして、学んだ上で、どうやってそこから逸脱して挑戦できるかを考えています」
アーティストの作品に触れるたびに、尊敬の念を感じ、そして同時に、同じ表現者として基礎を学ぶ必要性を感じるという。また、今後どんなアーティストの作品を見たいかと尋ねてみた。すると、身近にいる先輩アーティストの名前を挙げてくれた。
「まずは、リリー・フランキーさんですね。絵も文章も芝居も、そして写真も素晴らしいし、人間としてパーフェクト。リリーさんを丸裸にした展覧会を見たいですね。あとは、浅野忠信さん。作品展に伺ったこともありますし、インスタもほぼ毎日投稿されています。いつもどんな思考をすれば、あんな絵が描けるんだろう……と。私は絵を描こうとすると、だいたい何かの模倣になります。でも、浅野さんは、浅野忠信にしか書けないものを生み出しています。創造性に加えて、物語性もある。だから、常にビックリマンシールのレアカードを出しているような、大当たり状態。それを毎日、観せてくれる浅野さんの背中をずっと見ていたいです」
そんな永山瑛太さんが出演するテレビドラマ「あなたがしてくれなくても」が絶賛放送中だ。夫婦のセックスレスをテーマにした意欲的な作品で、セックスに消極的な夫・吉野陽一を演じている。原作者であるハルノ晴さん曰く、女性から最も嫌われるキャラクターだ。
「本当にダメな旦那で、女性の気持ちを全くわかっていません。でも、人間なんだから、裏側もあります。それに、妻のみちのことが本当に好きで彼は生きています。ただ、妻のことを思って行動しても、それが全く伝わっていない。実際の夫婦でも、そんなものじゃないかなと思っています。言語化してもわかりあえないこともあるし、動きや態度で伝わる時もある。心の機微をあえてセリフで説明しないドラマなのですが、陽一という異物を視聴者にどう感じてもらえるのか、挑戦しがいがあると思っています」
また、6月2日(金)から映画「怪物」の公開も控えている。是枝裕和監督と、脚本家の坂元裕二さんがタッグを組んだ、異色の話題作だ。オファーをもらった時の心境を語ってくれた。
「坂元裕二さんが脚本を書いた作品は、6、7本出演させていただいていて、語弊を恐れずに言うと、坂元さんが私の中にいる感覚があります。一方で、是枝さんの映画には出演したことがなく、『ワンダフルライフ』の頃からファンだったので、正直、期待と不安が入り混じっていました。撮影が終わった今でも、もし他の人が僕の役を演じていたら、絶望的だったと思えるくらい、自分が選ばれてよかったと、感じています。まだ完成した作品を見ていないのですが、出演者の僕も早く見たいという気持ちでいっぱいです」
次から次へと出演作が控える永山瑛太さん。是枝監督の最新作でも、新たな一面を見せてくれるに違いない。