暮らし・住まい
サラリーマン“アングラー”釣り五郎がゆく!#19
釣り人を魅了する大物に挑む【真鯛編】
2023.04.05
見えない魚を針に掛け、ファイトを楽しむ。仕掛けや誘い方を工夫するゲーム性と、釣った魚を美味しく食べることができるグルメ的要素。アウトドアアクティビティの人気が高まるなかで、釣りも関心が高まっている。自然が相手だけに奥が深く、ビジネスにも通じる学びを得ることもできるのだ。そんな“釣り”の楽しさを伝える連載企画。
Illustration : MIKI TANAKA
Text : SHINSUKE UMENAKA(verb)
登場人物たち
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魚釣五郎(30才)
うおつり ごろう。あだ名は“釣り五郎”。職場は海川商事。好きな寿司ネタはエンガワ。
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鰒田一平(52才)
ふぐた いっぺい。魚釣五郎の上司。休日は釣り三昧。好きな寿司ネタはヒカリモノ。
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舟山杜氏(68才)
ふなやま とうじ。五郎が勝手に“師匠”と命名。神出鬼没のアングラー。好きな寿司ネタは赤貝。
今回のターゲットは【真鯛】
真鯛:1年中、狙えるターゲットだが、味覚の旬は秋から春にかけて。北は北海道、南は沖縄県まで日本全国に生息している。30〜50cm程度のサイズのものが味も良く、市場価格が高い。また真鯛は小ぶりでも、かかったときの引きが強く、釣り人を魅了して止まない。そのため強烈な引きを夢見て、大鯛を狙う愛好者も多い。市場価格は1kgで約1,200円。
底を取る、真鯛との駆け引き
すべてはそこから始まる
前回のマダコ釣りで思うような釣果を残せなかった五郎は、リベンジの機会を狙っていた。
出勤すると、まずは釣宿のHPで釣果を確認するのが、ここ最近の日課だ。マグロやカツオといった大物にチャレンジしてみるのも悪くない。アジのような数が狙える釣りもやってみたい。そんなことを考えながら、五郎がパソコンを眺めていると、視線の先に、歩いてくる課長の姿が見えた。遠くからでも上機嫌なのが分かる。いつにも増して声がでかい。
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魚釣
「課長! 上機嫌ですね。何か良いことあったんですか?」
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鰒田
「おー、これはこれは、魚釣くんじゃないか。相変わらず、さえない顔してるなぁ。またどうせボウズだったんだろう」
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魚釣
「失礼なこと言わないでくださいよ。釣れましたよ、……1匹」
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鰒田
「魚釣にしては上出来じゃないか、釣れただけでも。まあ、俺は先日、デッカい真鯛をあげたけどな!」
新鮮な生き餌で狙う
一つテンヤ真鯛
そう言うと、課長は腕を大きく広げた。とても信じられなかった。課長が釣ったことよりも、そんなサイズの真鯛がいることに五郎は驚いていた。同時に自分も釣ってみたい!と武者震いのような興奮を覚える五郎であった。聞けば、千葉の外房に、一つテンヤでの大物・真鯛釣りにこだわる釣船があるという。課長から船宿を教わり、HPをのぞいてみると、数日前に7キロを超える大鯛が釣れたと記録されていた。いてもたってもいられず、五郎は船宿に予約を入れた。
集合は朝の4時。都内から千葉の飯岡港までは2時間近くかかる計算だ。1時半に目を覚まし、支度を整える。不思議と眠くない。きっと興奮しているのだろう。慌ただしく車で家を発つ。船宿に着くと、常連と思しき釣り人が集まっていた。玄関先には座席表があり、どこに座るか、船の席を早い者勝ちで選べるようになっていた。支払いを済ませると、餌に関する説明を受ける。梅花丸では活きたエビを使用しているという。これが大鯛の釣れる秘訣なのかもしれない。期待に胸を膨らませながら、五郎は船が停泊する港へと向かった。
あえて重めのテンヤを使い
底を取る練習をすることに
五郎が一つテンヤに挑戦するのは、今回で二度目になる。前回はまったく釣り方が分からず、1匹も釣ることができなかった。あたりを感じるチャンスもなく、釣れる予感すらなかった。そこで事前に課長からアドバイスをもらっていた。大鯛が釣れて上機嫌だったせいなのか、課長は素直に応じてくれた。
最も大事なことは、しっかり底を取ることだという。仕掛けを投入したら、底まで落とす。そこから竿を立てるなどして、鯛を誘っていくのだが、底が取れなければ、鯛が潜んでいるタナにアピールができないとか。
船宿が推奨しているテンヤの重さは8号だった。五郎はあえて、それよりも少し重い10号のテンヤを準備した。重いほうが仕掛けが着底したことを感じやすいからだ。とくに潮が速い日には軽い仕掛けでは流され、着底がわからなくなる。ただ、重い仕掛けの場合、繊細なあたりを感じにくい、生き餌をナチュラルに動かして誘うのが難しくなる、といったデメリットはある。つまり、底を取ることを優先し、問題がなければ、テンヤを徐々に軽くしていくという作戦なのだ。まずは自分ができることに集中し、トライ&エラーを繰り返すこと。ビジネスにも通じる、心構えだろう。船上で準備を整えながら、出港を待った。ほどなく、五郎を乗せた船は、漆黒の海へと進み出した。
着底後、一度、餌を跳ね上げたら
ゆっくりと落とす
1時間程度、走っただろうか。朝日が昇る前に、船はスピードを緩め、ポイントが近いことを想像させた。船長が船を停め、生き餌をひとりずつ配っていく。エビの尻尾の先端をハサミで切ったら、テンヤの孫バリをエビの腹にかける。続いて親バリを尻尾から刺していく。エビが丸まってしまわないよう、できるだけ餌がまっすぐになるよう、針を刺すことが重要だ。
生き餌と格闘している間に、ポイントに着いたようだ。船は旋回しながら、停まった。船長から「はじめてください」という号令がかかり、船が活気付く。
五郎も用意していた仕掛けを投入した。糸を送り出しながら、テンヤの着底を待つ。しばらくすると、糸がフワッと緩み、リールから送り出される糸が止まった。着底したようだ。たるんだ糸(糸フケ)を巻いたら、ゆっくりと竿を立てて、エビを海底から跳ね上げる。そして、ゆっくりと沈め、真鯛に餌の存在をアピールするのだ。本当のエビの動きを想像しながら、竿を操作する。違和感なく、落とせれば、鯛が食いついてくるはずだ。
鯛がヒットしたら、手を止めず
一定の速度で慎重に巻いていく
しばらくすると、あちこちで鯛があがりはじめた。まだあたりのない五郎は焦りを感じる。テンヤの重さを変えてみようかと思ったが、もうしばらく続けることにした。なんの反応もなければ、少し糸を巻き、上から餌を落とし直す。そんな工夫も交えながら、小さなあたりを感じようと集中する。その時だった。コツコツと何かが仕掛けにあたる振動が手元に伝わってきた。慌てて、あわせるように五郎は竿を立てながら、リールを巻く。しかし、鯛がかかったような手応えはない。一度、餌を確認するため、引き上げると、エビが半分になっていた。釣れなかったが、がっかりするどころか、五郎は歓喜していた。
鯛がいる! しかも、あたりが分かった!! 前回は一度もあたりを感じることができなかったため、うれしさもひとしおだった。急いで新しいエビに付け替えて、仕掛けを落とす。さっきの動作を再現するように、着底したらすぐに糸フケを取り、竿を立てる。その後、ゆっくりと仕掛けを落とし、鯛を誘う。今度は大きな違和感が伝わり、急いで五郎は糸を巻く。すると、ぐんぐん引っ張る強い力を感じた。
かかった! 五郎は思わず声を出していた。手を止めず、一定の速度で慎重に巻いていく。外れないでくれ! 心のなかで願いながら、リールを操作する。ほどなく、赤い魚影が見えてきた。小さいけれど、立派な真鯛だ。無事、船に取り込むと、五郎はへたりと座り込んだ。やっと釣れた。安堵感が全身を包む。その後もたびたび鯛がヒットし、合計で6匹を釣り上げることに成功した。ただ、大鯛と呼べるような大物が、この日かかることはなかった。次回にお預けだ。まだまだ奥が深い。そんな感想を抱きながら、五郎は帰路に着くのであった。
【今日の格言】
「自分ができることに集中し、トライ&エラーを繰り返す」
~釣ったら食べよう!
レシピ紹介【鯛めし】
材料/真鯛、米400ml、昆布1枚、【A】しょうゆ大さじ1、酒大さじ1、みりん大さじ1
①固く絞ったぬれ布巾で昆布を拭き、30分ほど水(カップ2杯)につけておく
②鯛のウロコと内臓を取り、表面に塩をふる
③米は研ぎ、ざるに上げて、15分ほどおく
④魚焼きグリルで、鯛の表面に焼き色がつくまで焼く
⑤【A】と①の昆布だしを合わせる
⑥土鍋に③を入れたら、その上に①の昆布と④の鯛を乗せる
⑦土鍋に⑤を注ぎ、フタをして強火にかける
⑧沸騰したら、弱火にして10分ほど炊く
⑨最後の1分は強火にして、焦げ目をつける
⑩火を止めて10分ほど蒸らしたら、完成
(インフォメーション)
梅花丸
千葉県旭市飯岡2220
TEL:090-2155-0500
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