小刻みにシャクってリアルな動きで誘う。 テンヤで狙うドラゴンサイズの1本 タチウオ釣り
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    サラリーマン“アングラー”釣り五郎がゆく!#15
    テンヤで狙うドラゴンサイズの1本【タチウオ編】

    2021.12.30

    寒さがこたえる季節になってきたが、まだまだ海釣りがアツい。冬になると脂がのり、食べておいしい魚も増えてくる。個体が大きく、引きの強い魚種をターゲットに選べば、釣りの醍醐味も体験できる。だから冬の釣りは満足度も高いのだ。今夜はどんな料理にしようと、献立を考えながら、帰路につく時間は格別だ。海のコンディションや海域によって、仕掛けや釣り方を変えながら、その日のアタリを探って釣ってみよう。ビジネスにも通じる気づきが得られる“釣り”の楽しさを伝える連載企画。

    Illustration : MIKI TANAKA
    Text : SHINSUKE UMENAKA(verb)

    ~登場人物たち~

    • 魚釣五郎(30才)

      魚釣五郎(30才)

      うおつり ごろう。あだ名は“釣り五郎”。職場は海川商事。好きな寿司ネタはエンガワ。

    • 鰒田一平(52才)

      鰒田一平(52才)

      ふぐた いっぺい。魚釣五郎の上司。休日は釣り三昧。好きな寿司ネタはヒカリモノ。

    • 舟山杜氏(68才)

      舟山杜氏(68才)

      ふなやま とうじ。五郎が勝手に“師匠”と命名。神出鬼没のアングラー。好きな寿司ネタは赤貝。

    今回のターゲットは【タチウオ】

    タチウオ:キラキラと銀色に輝く姿が「太刀」に似ていることから、あるいは海中で立ち泳ぎをする様子から「タチウオ(太刀魚)」と名付けられたといわれる。歯が非常に鋭く、一度噛みついた獲物は逃さない。ほぼ一年中釣れるが、最盛期は夏から秋にかけて。1mを超え、胴体が太い個体は「ドラゴン」と呼ばれ、アングラーに親しまれている。市場価格は1kgで約2,000円。

    タチウオ釣り 仕掛け図

    海川商事に日常が戻ってきた。営業を主とする会社なため、新型コロナに関するさまざまな制限が解除されるのも早かった。経営陣は心待ちにしていたのだろう。社内の会議や打ち合わせが、リモートからリアル主体に変更され、五郎も毎日出勤するようになった。社外との打ち合わせは、引き続きリモート推奨だったが、スタッフのほとんどは出勤している。正直、リモートワークのほうがラクだったが、仕方がない。

    一方、課長は不満顔だった。会社がリモートワークを認めるようになったことを良いことに、平日の早朝から釣りに行く生活を実践していたからだ。釣りは朝が早い。リモート会議を午後にまとめてしまえば、まずバレない。課長の顔をうかがいながら、そんなことをボーッと考えていると、目が合ってしまった。

    • 鰒田

      鰒田

      「なんだ魚釣、俺に言いたいことでもあるのか? さっきからずっとこっちを見ているけど」

    • 魚釣

      魚釣

      「違いますよ。(ヤバい、ばれた)。いや、最近は釣りに行ってるのかなと思って。ほら、タチウオもアツいみたいじゃないですか?」

    • 鰒田

      鰒田

      「おお、そうなんだよ、テンヤで5本指クラスのドラゴン釣りたいよなー」

    秋に大物を狙うなら、食べてもうまいタチウオテンヤがおすすめ

    よかった。とっさに出たタチウオの話をエサに、うまく誤魔化すことができた。釣り雑誌でタチウオの情報を仕入れておいて助かった。五郎は安堵した。でも、やはりタチウオの季節なのか。課長のリアクションから人気が高いことがわかる。五郎も挑戦してみたくなってきた。タチウオはさまざまな釣り方がある魚だ。エサ釣りはもちろん、金属製のルアー(メタルジグ)や、テンヤと呼ばれる大きなフックとオモリが一体となった仕掛けにイワシなどの魚を付けて誘う「テンヤタチウオ」という手法もある。ルアーとエサ釣りが混ざったようなハイブリッドな釣りだと言えるだろう。

    そんなテンヤタチウオは、もともと関西を中心に盛んだった釣り方だが、近年は関東にも波及し、東京湾でも専門の船を出している船宿も増えているという。テンヤは仕掛けのサイズが大きいため、ドラゴンと呼ばれる1mを超える大物を狙うのに適している。胴体の太さが5本指サイズの大物をヒットさせれば、乗り合わせたアングラーから羨望の眼差しを集めることになるだろう。メートル超えのタチウオは当然、引きも強い。したがって、ゲーム性が高く、リピーターも多いのだ。アングラー魂を刺激された五郎は、さっそく神奈川県・八景島にある弁天屋に予約を入れた。

    持参したロッドを見た船長からの気になるひと言。嫌な予感は的中した

    夏から秋にかけて最盛期を迎え、人気が高まるタチウオ釣りだが、ほとんどの場合、船宿によってどんな方法で釣るか、事前に決められている。とくに乗合船の場合には、思い思いの方法で釣ってしまうと、仕掛けがからんでしまう。そのため、テンヤタチウオで釣りたいなら、専用船を出している船宿を選択する必要がある。挑戦してみたい人は注意しておきたいところだ。

    船は7時すぎに出港することになっていた。集合は6時半だ。受付を済ませ、指定された船に乗り込む。今回はテンヤを事前に釣具店で調達しておいた。潮の早さや、アタリの取りやすさで選択できるよう、40号と50号の2種類を準備したのだ。ポイントに着いたら、すぐにはじめられるよう、仕掛けを準備しながら、出港の時を待つ。しばらくして、船長がやってきて、テンヤに付けるイワシを配ってくれた。すると、五郎の竿を見た船長はこう呟いたのである。

    「今日、持ってきたロッドってそれだけ?」

    少し不安そうな眼差しで五郎が持ってきた竿をチェックする。え!? この竿じゃ、だめなの? 確かに弁天屋のHPでは、テンヤタチウオ専用のロッドを使うことを推奨していた。でも、安月給の初心者アングラーは、ターゲットを変えるたびに、毎回、専用の竿を購入するわけにもいかない。以前、購入した汎用性の高い竿を持ってきたのだが……。船長は出港の準備もあり、そのまますぐに別の釣り人のところにエサを配りに行ってしまった。以前にも船長から竿のダメ出しをされたことがあった。そのときは見事に釣れなかったのだ。今回もイヤな予感がする。もし、時間があれば、急遽船宿からレンタル用のロッドを借りるのだが、出港の時間も迫っていた。

    まあ、なんとかなるでしょう。五郎は開き直ることにした。考えても仕方がない。この竿で釣ってやろう。船が港を出ると、20分ほどで最初のポイントに到着した。

    五郎が持ってきたテンヤはオモリの部分が、魚の頭を模した形状になっている。その後ろにタチウオを引っ掛ける大きなフックと、エサとして使用するイワシを引っ掛けるフック、さらにイワシが落ちないよう固定するためのワイヤーがある。船長が配ってくれたイワシは、頭をあらかじめカットしてあるため、テンヤに装着すると、頭がオモリで胴体が本物の魚という、ちょっと変わった仕掛けが完成する。これを海に投入して、アクションを付けてタチウオを誘うのが、テンヤ釣りというわけだ。

    五郎がエサを付けている間に、他の釣り人たちはすでに投入を終え、誘いをやっていた。見れば、竿を小刻みに激しく揺らしている。なるほど、これがテンヤのシャクリなのか。五郎も真似をして、竿を振ってみる。タチウオは群れでいることも多い。そのため、ひとりにアタリがあると、続けざまに他に人にも反応が出ることもあるという。しかし、五郎の竿には何の反応もなかった。

    あたりを感じたら竿を立てて合わせる

    テンヤを投入し、船長が指示する棚(深さ)に仕掛けが着いたら、糸を止める。そして、小刻みに竿を揺らし、シャクる。ときどき竿を止め、アタリがないか、待つのだ。数回これを繰り返したら、また一度、仕掛けを底まで落として、棚を調整する。愚直に繰り返すが、なかなかタチウオがいる気配を感じることができなかった。ふと視線を感じ、振り返ると、船長が五郎の様子をうかがっていた。船長は五郎がタチウオ初心者だと見抜き、気になっていたのだ。

    「その竿だと柔らかすぎて、うまくテンヤが海のなかで動かないんだよ。ちょっと貸してみな」

    そういうと、船長はこちらまでやってきた。五郎から竿を受け取ると、仕掛けを水面まで回収した。そして、竿を小刻みに揺らしながら、水中でのテンヤの動きを再現してくれた。

    「柔らかい竿の場合、シャクっても、テンヤがあまり動かないんだよ。見てて。ぜんぜん、本当の魚っぽくないでしょ? できるだけ本物っぽく見せないと、タチウオも食いついてくれないんだ。だから、朝、竿を見たときに心配になったんだよ」

    船長の説明はわかりやすかった。そして、なぜ自分にだけ、アタリが来ないのか、理解できた。それでも、いまはこの竿で頑張ってみるしかない。港に戻ることはできない。できるだけ大きく、素早く竿をシャクることで、本物っぽい動きを再現するしか、方法はないのだ。五郎は海の中を想像しながら、竿をふり続ける。ときどきエサがなくなっていないか、確認するため、仕掛けを回収し、また海に投入する。少しでもエサにかじられているような跡があったら、タチウオが誘いにひっかかった証拠だ。釣れることを信じて、何度も繰り返す。その愚直な様子を釣りの神様は見ていたのかもしれない。

    何度かシャクったあとに、竿が大きくしなった。よし! ついに来た! 五郎の異変に気づいた船長も固唾を飲んで見守っている。慎重かつ素早くリールを巻いていく。途中で抵抗するように、竿が一段としなった。釣れてくれ〜。祈るような気持ちで五郎は手を止めず、リールを巻く。しばらくして、水中にキラリと光るタチウオの魚影が見えた。針が外れないよう、慎重に糸を手繰り寄せる。そして、勢いよく引っ張ると、大きなタチウオが船まで上がってきた。やった。釣れた達成感と、安堵感でそのまま五郎は座り込んだ。船長の様子が気になり、振り返ると、こちらを向いて、親指を立てて祝福してくれていた。

    やっぱりターゲットにあわせた道具で挑まないといけないのか。あらためて準備の大切さを痛感する五郎であった。

    【今日の格言】「自分の腕を過信して、事前の情報収集と準備を怠るな」

    ~釣ったら食べよう! レシピ紹介【タチウオの煮付け】~

    材料/タチウオ、しょうゆ、みりん、日本酒、しょうが、水

    ①鍋にしょうゆ大さじ3、みりん大さじ3、日本酒90ml、水90mlを入れ、そこへ切り身にしたタチウオを入れる
    ②火にかけて、落とし蓋をし、4分ほど煮る
    ③薄切りにした、しょうがを加え、さらに2分ほど煮る
    ④タチウオを取り出し、煮汁に軽くとろみが出るくらいにまで煮詰める
    ⑤お皿に盛ったタチウオに煮汁をかけたら完成

    (インフォメーション)
    金沢八景 弁天屋
    神奈川県横浜市金沢区瀬戸2-22
    TEL:045-701-9061

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