サラリーマン“アングラー”釣り五郎がゆく!#16
高級魚を多点がけ!【キンメダイ編】
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    暮らし・住まい

    サラリーマン“アングラー”釣り五郎がゆく!#16
    高級魚を多点がけ!【キンメダイ編】

    2022.04.08

    飲みに行くのは、はばかられるし、旅行も難しい。だから、せめて休日は美味しいものを食べて過ごしたい。そんな人も多いのではないだろうか? スーパーで高級食材を買うのも良いが、鮮度の良い食材に勝る美味はない。そこで釣りだ。今回は美味な魚で知られる黒ムツ&キンメダイ船に乗船。果たして、高級魚を持ち帰ることはできたのだろうか? ビジネスにも通じる“釣り”の楽しさを伝える連載企画。

    Illustration : MIKI TANAKA
    Text : SHINSUKE UMENAKA(verb)

    登場人物たち

    • 魚釣五郎(30才)

      魚釣五郎(30才)

      うおつり ごろう。あだ名は“釣り五郎”。職場は海川商事。好きな寿司ネタはエンガワ。

    • 鰒田一平(52才)

      鰒田一平(52才)

      ふぐた いっぺい。魚釣五郎の上司。休日は釣り三昧。好きな寿司ネタはヒカリモノ。

    • 舟山杜氏(68才)

      舟山杜氏(68才)

      ふなやま とうじ。五郎が勝手に“師匠”と命名。神出鬼没のアングラー。好きな寿司ネタは赤貝。

    今回のターゲットは【キンメダイ】

    キンメダイ:光の届かない深海でも獲物を探せるよう、目の奥に反射層があり、目玉が金色に輝いているため、その名が付いたという。関東では伊豆諸島周辺や静岡県、千葉県などが漁場として有名だ。また、高級魚として知られており、とくに煮付けが美味。市場価格は1kgで約7,000円。

    リモートワークから、オフィスに出勤する勤務体系に戻った海川商事。営業担当の五郎にとっては、好都合だった。在宅が続く得意先も多く、アポイントが取れないことも珍しくないが、自宅で画面越しに営業するより、はるかに働きやすいと感じていたからだ。ただ、飲みに行くこともできず、旅行や実家に帰省するのも気が引ける。娯楽といえば、2か月に1度の釣りくらいだ。そのため週末は暇でしょうがない。本音をいえば、もっと頻繁に釣りに行きたいところだが、安月給のため、これ以上は乗船代が払えなかったのだ。

    そこで最近は、節約のために昼食をお弁当に代えた。自粛生活と釣りで、料理に目覚めたこともあり、苦ではない。この日もデスクでお弁当を広げていた。すると、耳慣れた声が背後から聞こえた。課長だ。

    • 鰒田

      鰒田

      「そんな質素な弁当を食ってるから、元気が出ないんだぞ、魚釣。もっと良いモノを食えよ!」

    • 魚釣

      魚釣

      「だったら、奢ってくださいよ〜。それか僕の給料、あげてくれないですか? 乗船代が払えないんですよ」

    • 鰒田

      鰒田

      「寝言をいうなよ。もっと営業成績を上げないと、無理な話だ。うまいメシを食べたかったら、自分で釣ってくるんだな」

    南房総で狙う、二つの高級魚
    黒ムツ&キンメダイ

    以前ならカチンときたであろう、課長のノンデリ発言。しかし、今日に限っては激励として受け取った。そうか、高級魚も自分で釣れば良いのか!? 確かにその発想はなかったな。高級魚がたくさん釣れたら、多少、乗船料が高くても、コスパは良いだろう。しかも、鮮度はバツグンだ。ただ、そんなに都合よく釣れるものなのだろうか?

    もし、釣れるなら、乗船代を捻り出して行ってみたい! しばらく自粛生活が続き、娯楽が限られたことで、美味しいものを家で食べたいという欲求が高まっていたのだ。

    どんな高級魚が釣れているのだろう。リサーチすると、千葉の南房総から黒ムツ&キンメダイという2種の高級魚を狙う釣船が出ていることを発見。東京近郊でキンメダイといえば、伊豆半島沖が有名だ。しかし、都内から遠いため、なかなかハードルが高いと思っていたのだ。南房総なら問題ない。さらに夜の釣りだという。早起きしないで済むというメリットもある。これは行くしかない。五郎は早速、乙浜港の尭丸に予約の電話を入れた。

    複数針で大漁も見込める!
    高級魚の黒ムツ&キンメダイを多点がけ

    夜釣りは東京湾でのアナゴ釣り以来だ。まったく釣れなかった、あの日の苦い記憶が蘇る。同じ轍を踏むまいと五郎は準備だけはしっかりしておくことにした。出港時間は16時。いつもより時間に余裕があるため、前日ではなく、道中、釣具屋に立ち寄り、オモリと仕掛けを買い込んだ。黒ムツ、キンメダイともに深場に生息するため、必然的に使用するオモリが重くなる。ただ、200m以上の深場を狙う伊豆半島沖と比べ、南房総沖では水深100m前後だという。それでも、オモリは150〜200号とけっこうな重量になる。また、仕掛けも針が5〜10本ついているものを使い、一度に何匹も釣る多点がけを狙うという。

    港に着くと、すぐに船が見えた。荷物を乗せ、仕掛けを準備する。船長いわく、キンメダイが釣れているので、少し黒ムツを狙ったら、あとはキンメダイが狙えるポイントを中心に回るという。すでに頭のなかはキンメダイをどう料理して食べようか、そのことでいっぱいだった。

    しばらくアタリがないなら、
    再度、海底まで仕掛けを落とし、やりなおす

    30分ほど走っただろうか。早くも黒ムツのポイントに着いたという。船長の号令で一斉に仕掛けを投入する。たくさん針が付いているため、慎重にオモリを落とさないと、すぐに糸が絡まってしまう。エサはサバの切り身だ。水深70mのポイントからスタートする。底から10mくらいまでの水深で魚の反応があると、魚群探知機を見ながら船長が皆に声をかけた。

    この深さでも、オモリが底に着くまでしばらく時間がかかる。すでに傾き出した夕日を浴びながら、着底を待つ。底に着いたのを確認すると、五郎は糸のたるみを巻き、底から10m付近をキープした。しかし、なかなか反応がない。焦れた五郎は、タチウオのときのように大きく餌を動かすようなシャクってみた。すると、船長の声が背後から聞こえた。

    「お客さん、あんまり餌は動かさないほうがいいよ! 黒ムツもキンメもそれだと食わないから」

    五郎が黒ムツ&キンメダイが初めてだと、船長は見抜いたのだろう。その後も、エサの付け方や、かかったときのリールの巻き方など、優しくアドバイスしてくれた。忠実にその教えを守って竿を出すが、なかなかアタリがない。気づけばすっかり周囲は暗くなっていた。夜釣りの呪いなのか?

    ふと隣を見ると、何やら竿を動かしている。魚がかかった様子はなく、こまめに底を取っているのだ。ひさしぶりの釣りで忘れていたが、海底の地形は一定ではない。したがって、しばらくアタリがないなら、狙った水深に仕掛けをキープするため、再度、オモリを海底まで落として、やり直す。それを繰り返す必要がある。それでも黒ムツの反応はなく、船は本命のキンメダイを目指して、ポイント移動をはじめた。

    アタリを感じても、グッと我慢
    キンメダイ釣りの醍醐味は多点がけにあり

    新しいポイントに着き、再び、船長の合図で仕掛けを投入する。キンメダイも釣り方は同じだという。まずは底まで落とし、指定の深さでキープする。五郎は自分にいい聞かせるように、ぶつぶつと口に出しながら、アタリを待った。

    すると、微かな引きが竿に伝わってきた。五郎は慌てて、糸を巻き始める。その動作を見ていたのか、船長がすかさず声をかけてきた。

    「ゆっくりで良いよ。早すぎるとバレちゃうから」

    慌てて、五郎はリールを巻くスピードを緩める。しかし、時すでに遅し。手応えがなくなっていた。バレてしまったのだ。気落ちしている暇はない。アタリがあるということはキンメダイがいるということだ。エサを付け直し、再び仕掛けを投入する。すると、すぐに反応があった。今度はゆっくりと……。視線を感じ、振り返ると船長もこちらを注視していた。

    「アタリがあっても、ちょっと待ってみてよ。もう何匹か、かかってくれるから」

    五郎はその言葉を信じて、巻きたい気持ちをグッと堪える。早く1匹、釣りたいと気持ちがはやるのだ。深呼吸して、心を落ち着かせる。そろそろ巻いて良いですか? そんな思いで船長のほうを振り返ると、五郎の心情を察したのか、船長がゆっくりとうなずく。

    そして巻きはじめると、明らかに先ほどよりも重くなっていた。絶対に1匹じゃない! 多くの深海の魚は、水深が浅くなってくると、浮き袋が膨み、抵抗しなくなる。しかし、キンメダイには浮き袋がなく、最後まで引く力が落ちない。そのため、慌てず、慎重に巻き続けることが重要なのだ。水深が深いだけに長い格闘となった。ようやく赤い魚影が見えてきた。ひとつ、ふたつ、みっつ! 五郎はキンメダイを無事に取り込むと、安堵して座り込んだ。

    「続けて、どんどん釣らないともったいないよ」

    船長にはっぱをかけられて、立ち上がる五郎だった。結局、キンメダイが12匹で、黒ムツは残念ながら釣れなかった。帰りがけに船長から「もっと頑張れば倍は釣れたよ。またリベンジしてね」と声をかけられた。確かに他の釣り人は五郎の倍以上、釣り上げていた。

    「絶対、来ます!」

    すっかり、キンメダイ釣りの魅力にハマる五郎であった。

    (今日の格言)
    「成果が出ても、満足しない。その気持ちが大きな差を生む」

    ~釣ったら食べよう! レシピ紹介【キンメダイの煮付け】~

    材料/キンメダイ、生姜、水、酒、みりん、醤油、砂糖

    ①キンメダイのウロコと内臓を取る
    ②臭みや残ったウロコを落とすため、「霜降り」をする。①のキンメダイを大きいボウルや鍋に入れ、90〜95℃くらいの熱湯をたっぷりかける。そのまま軽く混ぜ、キンメダイの表面が全体的に白くなったら差し水をして冷ます。手が入れられる程度に冷めたら、表面や腹に付着している、よごれ・血・うろこなどを手で軽くこすりながら、丁寧に取り除く
    ③キンメダイが入る大きさの鍋やフライパンを用意し、水300㏄、酒150㏄、みりん150㏄、醤油70㏄、砂糖大さじ4、生姜スライス2〜3枚を加え、火にかけ沸騰させる
    ④キンメダイを加え、再び沸騰したら火を弱める
    ⑤落し蓋をして15分ほど煮る

    (インフォメーション)
    尭丸(あきまる)
    千葉県南房総市白浜町滝口4961-2
    TEL:0470-38-5513

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