Photos:モデル/TATSUYA YAMANAKA(stanford)
Styling:MARIKO KAWADA
Text:SHINSUKE UMENAKA(verb)
暮らしにデザインを取り入れる。真っ先に思い浮かぶアイテムは家具だろう。なかでも椅子はデザイン性に優れた名品が豊富にあり、コレクターも多いジャンルだ。一方で選択肢が膨大にあるため、何を選べば良いのか分からない人もいるだろう。そこでインテリアスタイリストの遠藤慎也さんに、今注目すべき椅子アーティストとその作品をあげてもらった。
遠藤慎也
1984年、埼玉県生まれ。インテリアスタイリスト・窪川勝哉氏のアシスタントを6年勤めた後、独立。雑誌やカタログ、広告・CMにおける撮影現場のインテリアスタイリングに加え、住宅展示場や商業施設のウィンドウディスプレイ、レストランの内装などのインテリアコーディネートも手がけている。https://bootsyork.style/
ハンス J. ウェグナーは20世紀を代表する世界的な家具デザイナーの一人。生涯で手がけた椅子は500を超えるといわれ、椅子を愛し、そして椅子に愛されたデザイナーである。特に「Yチェア」の愛称で知られる「CH24」は、デンマークチェアの普遍の名作との呼び声が高い名品だ。北欧ビンテージ家具の人気が高まっているなか、チェックしておきたい最重要人物だろう。当時のビンテージモノを探すのも良いが、「カール・ハンセン&サン」や「PP モブラー」といった、彼の現行のモノを販売しているメーカーでお気に入りを探しても良い。天然素材の木がもつ美しさを最大限に引き出す機能美がウェグナーの持ち味なため、木肌の変化や生活から生まれる傷なども愛でながら、自分で椅子を育てていく楽しみもある。
現代のプロダクトデザイン界で、さまざまなメーカーやブランドから引っ張りだこなのが、ロナン&エルワン・ブルレックだ。兄ロナンと弟エルワンによる兄弟デザインデュオで、1990年代後半から共同でデザインを手がけている。椅子や家具のほか、オフィス用家具、花器、ジュエリー、インテリアアクセサリーに加え、建築プロジェクトまで、彼らが手がけるデザインは多岐にわたる。2000年以降にイッセイミヤケの店舗デザインなどで注目を集めた後、フロスやリーン・ロゼといった多くのブランドにデザインを提供している。それぞれデザイン性は異なるものの、常にどこかブルレック“らしさ”が落とし込まれたモダンデザインのなかには、柔らかさやデザインの背景を感じ取ることができる。
没後30年が経過しているが、1月28日(日)まで世田谷美術館で企画展が実施されている、倉俣史朗。今なおデザイン界に影響を与え続けている証左である。造花のバラを透明アクリルに閉じ込めた椅子「ミス・ブランチ」や、内外装や産業用建材に使われるエキスパンドメタルを家具に転用したアームチェアの「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」など、独創的な素材選びと、個性と機能を両立させたフォルムが特徴的だ。座るためだけではなく、物語を閉じ込める媒体として“椅子”が存在するといって良いだろう。既成概念にとらわれない自由な発想で生み出される椅子は、アートピースとして空間に影響力を与える。
建築家であり、デザイナーである芦沢啓治がモットーにするのは、現場や素材に根差した「クラフト」を重視した「正直なデザイン / Honest Design」だ。その思いが落とし込まれた椅子の数々は、JAPANを代表するデザインとして世界から注目されている。2011年には、東日本大震災を受け、石巻工房を設立。材料や工具、そして技術に制約があるなかでも、DIY感覚でつくれるオリジナルスツールやベンチをデザインした。家具デザインでは、カリモクケーススタディやアリアケ、モヘイムといった企業と協働している。昨今の流行りとなっている「JAPANDI」というカテゴリーを代表するデザイナーとして名前をあげる人も多い。
バウハウスを代表するデザイナーのひとり、マルセル・ブロイヤー。彼の代表作のひとつが「チェスカチェア」だ。スチールパイプを活用した椅子で、片側だけで支えるカンティレバー構造はモダニズムデザインの象徴として、多くのデザイナーに影響を与えた。また、ラタン素材を編み込んだ座面の快適な座り心地も人気となった。現代に続く椅子デザイナーの源流として、押さえておきたいところ。