タレント・玉袋筋太郎に聞く これが俺の My Best休日 〜昼飲み編〜

タレント・玉袋筋太郎に聞く これが俺の My Best休日 〜昼飲み編〜

最高の休日とは? その答えは千差万別。一人ひとり趣味も嗜好も違うため、正解はひとつではないだろう。けれど、他人にとっての“最高の休日”を覗き見してみたいという思いもある。そこで、自らスナックを経営し、『町中華で飲ろうぜ』では“中華屋飲み”の魅力を発信するタレントの玉袋筋太郎さんに、『昼飲み』の極意を聞いた。

Photos : KENGO SHIMIZU
Text : SHINSUKE UMENAKA(verb)

玉袋筋太郎

昼飲みは大人のゆとり教育だ

昼に飲めることに感謝しながら背徳感をつまみにする

取材場所は、中野の酒飲みなら知らぬ人はいない第二力酒蔵さんだ。14時からオープンしており、平日でも、あっという間におやじで満席になる。中野在住の玉袋筋太郎さん(以下、玉さん)も行きつけの店だという。まだ陽が高い2月の午後。店先で待っていると、玉さんが店主への手土産をぶらさげて、颯爽と登場した。入店するや、瓶ビールを注文。「気道、確保!」と言いながら喉元をさすり、なみなみと注いだビールを飲み干した。

「近所の八百屋のおじさんに車を出してもらって、埼玉方面へ。用水路でナマズをじゃぶじゃぶ捕まえて遊ぶんだよ。道路の端っこにはガスコンロ。それでくさやを焼いて、ビールを飲む。これが最高の休日だね。夏場ならそうめんをつくったりして、究極のアウトドアだよ。八百屋のおじさんは車を出してくれているから飲めないんだけど、俺と若い衆がいると、すごい喜んでくれてさ。あの笑顔は忘れられないね。片付けもババッとやって、帰る。おじさんは古くからの友だちだけど、名前は知らないんだよ(笑)。休日をひとりで過ごすなら“昼飲み”だな。平日に休みをもらったとしたら、周りの人はみんなまだ働いている時間帯でしょう。そんな時間から飲めることに感謝しながら、背徳感をつまみにグラスを傾ける。自分へのご褒美としては一番じゃないかな」

気がつくと、100席は優にある広い店内が、どんどん埋まっていく。居酒屋らしい騒々しい雰囲気は、まだ昼下がりとは思えない。

玉袋筋太郎

昼から飲むおやじたちは酔っ払いではなくラジオDJ

「俺は昼間から飲んでいる、こういうおじさんたちを見て、その姿を心にスケッチしているんだよ。いろんなことをしゃべっているから、彼らは酔っ払いというよりはDJだと思っている。ラジオを聴いているのと同じ感覚だな。トークのネタになるから、仕事に役立っているんだけど、何よりも面白いよね。会話の内容から生活感が想像できるし、思想もわかる。あるとき、バッサバッサと日本を切っている舌鋒鋭いおじさんがいて、帰りがけに『いよ、総理大臣!』って声をかけたこともあるくらい。ただ飲むだけじゃなくて、そんな付録がついてくるのも、昼飲みの良さかな。昼飲みができるのは勝ち組か、仕事にあぶれた負け組だけ。自分が勝ち組になって飲む日もあれば、負け組たちのなかに肩まで浸かって飲む日があってもいい。見聞が広まるし、仲間も増えるからね」

グラスを片手に、そう昼飲みの魅力を語る玉さんの眼差しは優しい。また、昼から飲むと見慣れた景色が趣きを変えるという。

「昼から飲んで、ご機嫌になって店を出てごらんなさいよ。陽が短い季節だったら、しっかり飲んでも、帰りはまだ辺りが暗くなりはじめる頃。街にネオンが着く前から、俺には赤くネオンが着いちゃっている状態だけど、風景がいつもと違って見えるんだよ。夕方5時からの試合開始もわかるけど、デーゲームの良さもある。札幌円山球場でのジャイアンツ戦のデーゲーム中継の味わいというか。それに、もし飲み会が好きじゃないなら、昼飲みで鍛えておくと、会社の夜飲みも対応できるはず。『お前、変わったな』ってなるかもしれない。昼はおおらかさで飲めるからね。相撲の枡席で、大の大人が焼き鳥をつまみに飲んでるくらいなんだから。難しいことを語りあってもバカらしくなっちゃうよ」

玉袋筋太郎
玉袋筋太郎

昼から飲む日があっても良いじゃない!いま足りないのは、おおらかさだ

いまの時代は、そんなおおらかさが足りないと語る玉さん。

「新幹線って、ただの移動手段じゃない。家族旅行とかで使うもので、席を対面にしたり、幕の内弁当を食べたり、車窓を眺めながら、ゆっくりその時間を楽しむもの。ビジネスマンが速いのぞみで移動したいのはわかるけど、俺はのぞみよりもひかり、ひかりよりもこだま派だな。リニアモーターカーなんてもってのほかだね。こだまは良いよ。駅で一時停車して、のぞみやひかりの通過を5、6分も待ったりするじゃん。あのゆとりが大事なのよ。これは昼飲みにも通じることだけど、急いでどうすんのよ? 心にゆとりを持つことが大事じゃん。それを身をもって知るには、昼飲みみたいな大人のゆとり教育が必要! 俺はゆとり世代じゃないけど、居酒屋での昼飲みを通じて、ゆとりを学んだよ」

子どもの頃から、大人を通り越して、はやくおじさんになりたかったという玉さん。年を重ね、ようやく名実共におじさんになった。だらしないけれど、過ちには寛容で、おおらかで懐が深い。そんな人間臭い人が集まり、1日を精一杯楽しむ。昼飲みはおじさんの憩いの場であり、溜まり場なのかもしれない。まだおじさんには早いみなさんも一度、体験してみると、その一端がわかるかもしれない。玉さん曰く、それは悪魔の囁きかもしれないのだけれど。

玉袋筋太郎
PROFILE
玉袋筋太郎
玉袋筋太郎(たまぶくろ すじたろう) 1967年6月22日生まれ。東京都出身。ビートたけしに弟子入りを志願し、「玉袋筋太郎」と命名してもらう。その後、1987年に水道橋博士と「浅草キッド」を結成。その後、お笑いコンビとして活動する傍ら、2014年に一般社団法人「全日本スナック連盟」を設立し、会長に就任した。自らも赤坂などに「スナック玉ちゃん」をオープン。現在はBS-TBS「町中華で飲ろうぜ」や、TOKYO MX「バラいろダンディ」、TBSラジオ「金曜ワイドラジオTOKYO えんがわ」などに出演中。
INFORMATION
第二力酒蔵 東京都中野区中野5-32-15 第二神谷ビル
03-3385-6471
営:14:00~23:00(L.O.22:00)
定休:日曜
第二力酒蔵