好きなように目的地を決め、自力で山を登る。そして、誰も足を踏み入れていないパウダースノーにシュプールを描く。そんなゲレンデにはない自由な滑走ができるのが、バックカントリーの魅力と言えるだろう。一方で安全管理されていない冬山に入るため、遭難や雪崩といったリスクが付きまとう。無謀な行動をすれば、最悪、命を落としてしまう危険だってある。
とはいえ、ルールをしっかり守れば、リスクを最小限に抑えることが可能だ。バックカントリーにはゲレンデでは体験できないスキー&スノーボードの魅力が詰まっている。まずはバックカントリーを楽しむ前に、最低限、知っておくべきルールをレクチャーしよう。
そもそもバックカントリーとは、どんなアクティビティだろう? それはゲレンデ以外の、人によって管理されていない場所でスキーやスノーボードを楽しむことを指す。ただ、近年はゲレンデのコース脇に専用のパウダーエリアを設けることで、バックカントリー体験ができるようにしているスキー場もある。また、一部の上級者だけが楽しむものかと思いきや、「専門のガイドに、レベルに合わせたコースや滑走エリアをアテンドしてくれるプログラムを依頼するなら、最低限のスキーやスノーボードの滑走スキルさえ持ち合わせていれば、誰でも楽しむことができます」と中島力さんは語る。では、具体的にどんな魅力があるというのだろう?
ゲレンデではコースが整備され、立ち入り禁止エリアも明確に定められている。だから安全に滑走できるわけだが、それは窮屈だという見方もできる。気持ちよさそうなルートを見つければ、自由に滑ってみたいと思うのはスキーヤー&スノーボーダーの純粋な欲求だろう。その点、バックカントリーでは、どこを目指し、どんなルートで歩き、そしてどこを滑走するかは、すべて自分で決める。自由な冒険なのだ。
誰でも安全に滑ることができるように、ゲレンデは足元を整地してある。コブがあるような上級者向けコースだったとしても、手付かずということはあり得ない。対するバックカントリーでは、誰も滑っていないパウダースノーを滑走することが可能だ。硬く整地された雪とは異なり、パウダースノーでの滑走は“泳ぐ”と表現されることもあるほど別物だ。粉のような雪を掻き分けて滑走する爽快感に魅せられるスキーヤー&スノーボーダーは多い。
リフトで山頂まで登ることができるゲレンデは、効率的だ。体力を消耗することもなく、1日に何本も滑走することができる。一方バックカントリーでは、滑走したいなら自らの力で山を登らなければならない。非効率で体力を消耗するが、それは大きな達成感でもある。豊かな自然を感じながら、魅力的な斜面を目指す。そしてそこからスキーやスノーボードで滑走する楽しさを噛み締める。スキー&スノーボードに、登山で感じる達成感をプラスしたアクティビティと言えるだろう。
冬山にひとりで入り、バックカントリーをするのはご法度だ。絶対に2人以上で入山すべき。悪天候でビバークを余儀なくされたり、万が一、怪我をして動けなくなっても、誰かが助けを呼びに行くことができる。また、そのパーティには専門のガイドも加えたい。彼らが安全なバックカントリーに誘ってくれるだろう。
バックカントリーでは、誰もまだ滑走していないパウダースノーを目指して山に入る。当然、天候や雪の状態によっては、雪崩のリスクがあることも知っておくべき。だから、バックカントリーではアバランチビーコン、プローブ、ショベルの3点を必ず携帯するルールになっているのだ。これらは万が一、パーティーが雪崩に遭遇した場合に、埋没者を掘り起こすためのもの。命を守るアイテムではないことも心に留めておきたい。
山岳保険は、万が一、山で遭難した場合に、捜索や救助にかかった費用に対して保険金を支払うというもの。公的機関である海上保安庁が捜索を主に担当するため、費用負担が軽いと言われる海難事故とは異なり、山での遭難は多額の捜索費用がかかると言われているのだ。なお、登山届を提出していないと保険も適用されないため、山岳保険と登山届はセットで!という認識でいよう。
立ち入り禁止エリアが設定されているゲレンデとは違い、山ではどこを滑っても基本的には問題ない。ただし、私有地を除いて。なかには、山全体が私有地というケースもある。また、山に至る登山口が私有地になっている場所もあり、知らずに車を停めてしまい、トラブルになることも多い。事前のリサーチが欠かせない。
山の天気は変わりやすい。冬晴れが急変し、強風や吹雪で足止めを余儀なくされることもあるかもしれない。あるいは誰かが怪我をしたり雪にハマり、救助しているうちに陽が落ちてしまうこともあるかもしれない。そんな万が一の事態に備えて、+1日分の行動食や水、そして一晩過ごすための簡易テントも持参しておきたい。
雪で覆われた冬山では、肉眼で地形を把握することは不可能だ。崖や谷も見分けがつかなくなってしまう。闇雲に進めば、目の前が崖で立ち往生してしまうかもしれない。したがって、地形図を持参し、どこを進めば安全なのかルートを読めるようにしておくことも大切だ。ガイドが案内してくれるとはいえ、地形図が読めれば、迷ったときに役立つだろう。
登山も同様だが、行きたい!やりたい!という気持ちが先行すると、悪天候でも挑戦しようとしてしまうもの。だが、それは無謀だ。命があれば、またチャレンジする機会はやってくる。天気予報を注視して、少しでも悪化する可能性があるのなら、行かないor戻るといった判断をするべきだ。
リフトで登り、滑ったらすぐ室内にも戻れるゲレンデと、自力で登り、帰るまでずっと屋外で過ごすバックカントリーでは、必要とされる服装がまったく異なる。移動で汗をかきやすいため、汗冷えへの対策が重要になる。着替えの準備や、レイヤリングで暑くなったら、インナーを減らすことが大切だ。もし低体温症を引き起こしてしまうと、命に関わるのだ。