バックカントリーこそが冒険だ!04

専門ガイドの案内で バックカントリーに挑戦してみた

年の瀬が迫った12月のある日。
僕は雪を求めて北へ向かった。
目的はゲレンデ外を滑走する
バックカントリーを体験するためだ。
冬山を登り、圧雪されていない
パウダースノーを一度でいいから滑ってみたい。
そんな夢を叶えたい一心だった。
ガイドの中島力さんと合流し、
バックカントリー初心者でも挑戦できる
山の入り口へと案内してもらった。
期待と不安が入り混じるなか、
一歩を踏み出す。

監修
監修 中島力
中島力 少年時代にスキーに目覚める。2000年に世界初のフリースタイルスキーコーチの資格を取得。その後、フリースタイルの大会に出場する傍ら、普及にも尽力し、さらにロシニョール、オークリーなどのライダーとしても活躍している。現在は代表を務めるRiki Japow Guideにて、星野リゾート トマムとアルツ磐梯のバックカントリープログラム運営に携わっている。https://rikijg.com/jp/

標高が上がるにつれて、増えていく積雪に期待が高まる

2022年12月某日。北海道では月初から降雪が本格化していたが、日本海側が中心だった。目指す道央エリアは、バックカントリーができるほど雪が積もっているのか、行ってみなければ判断できないとガイドの中島力さんに言われていた。せっかく北海道まで来たんだ。決行できることを祈りつつ、車を走らせる。車窓から見える市街地は一面の銀世界だったが、油断できない。周囲のゲレンデは雪不足で、部分的なオープンにとどまっているとの情報もあった。また、温暖化の影響なのか、北海道でも雪の便りが以前と比べて、遅れつつあると聞く。

ラジオから流れる天気予報に耳を傾けながら、先を急いでいると、遠くに旭岳を中心とした大雪山系が見えてきた。山道に差し掛かると、景色も一変。木々が雪を抱えて、重たそうにしなっている。山麓の駐車場に着き、エンジンを切った。入山の準備を整えるため、車外に出る。頬を刺す冷気に耐えきれず、顎にしていたマスクをずり上げた。顔をあげると、視線の先に真っ白い十勝岳が見えた。たっぷりと積もった雪で山のシルエットが丸みを帯びている。これなら行けそうだ。ガイドの中島力さんにも思いが伝わったようで、笑顔で静かに頷いてくれた。

入念な準備を終えて出発 それでも、思うようには進まず…

スノーシューを装着し、背負ってハイクアップできるようにスノーボードをバックパックに取り付ける。歩いているうちに板がズリ落ちてこないよう、しっかりと固定した。荷物は厳選したつもりだったが、着替えや水分補給の水筒、行動食などもあり、バックパックは思いのほか重量感がある。

さあ、いよいよバックカントリー体験だ!毎シーズン、初滑りをするときには胸が高まるが、それとは少し違う興奮が湧き上がってきた。登り始める前に、ガイドの中島さんにビーコンの使い方をレクチャーしてもらう。あわせてスノーボードキャリーやスノーシューのバインディングに緩みがないか、僕の装備を最終チェックしてもらった。すべての準備が終わる頃には雪も止み、青空が覗き始めている。ときより降り注ぐ、日差しが暖かい。

歩き出した中島さんの足跡をなぞるように、その背中を追う。雪山にはしばらく誰も入山していないようで、道がないのだ。中島さんは頻繁に振り返り、こちらが遅れないペースで先導してくれた。それでも慣れない新雪に足を取られ、思うように前に進めない。息もすぐにあがりはじめた。呼吸を整えながら、慌てず、一歩一歩、足を出す。スタート地点では寒さに震えていたのに、もう汗だくになっていた。たまらずアウターのジッパーを胸元まで開ける。さっそくバックカントリーでのレイヤーの重要性を噛み締めることとなった。

ハイクアップ中に出合った幻想的な風景。そして、恐怖

途中休憩していると、目の前がキラキラと光っていることに気がついた。空気中の水蒸気が結晶化する、いわゆるダイヤモンドダストだ。幻想的な光景に思わず息を呑む。中島さんに感動を伝えようと声をかけると、近くの丘を指差していた。少し先に見える斜面が初心者でも滑りやすいという。そこまでハイクアップし、初滑走しようというわけだ。

目標が見つかり、俄然、足取りが軽くなった。しかし、あいかわらず雪が深い。一度、中島さんの足跡がない、まっさらの雪を踏んだら、底が抜けるように足が沈み、腰まで埋まってしまった。背負った荷物の重さもあり、身動きが取れない。差し出してもらったスキーのストックに掴まり、なんとか脱出することができた。やはりリフトで楽々と頂上まで登れるゲレンデとは勝手が違う。ひとりで来ていたら、雪から抜け出せただろうか?ガイドの存在のありがたみを感じると同時に、ゾッとした。

いざ、バージンスノーへ!滑り降りた先に見えたもの

中島さんに続いて、ターゲットに定めた丘を登り切った。これまで歩いてきた道のりが一望できる。1時間近く歩き、山の奥に入った気でいたが、駐車した車が遠くに見える。まだまだ入口だったのだ。しかし、すでに登山で頂に立ったような達成感を感じていた。

気を取り直し、スノーボードを下ろして、滑走の準備をはじめる。代わりにスノーシューをバックパックに取り付け、ヘルメットやゴーグルを装着する。準備が整い、あらためて斜面を見ると、思いのほか標高が高く、心臓がバクバクしてきた。それに一面がパウダースノーで、どこを滑ったらいいのか、見当がつかない。戸惑い、立ち尽くしていると、中島さんが滑るべきルートや一帯の地形を教えてくれた。

会話しているうちに緊張が解け、覚悟が決まった。ひとつ深呼吸をし、そのままパウダースノーに飛び乗った。やわらかい足元にすぐにバランスを崩し、転倒してしまったが、起き上がり、また滑る。下半身が雪に潜り、うまく板をコントロールすることができない。圧雪されたゲレンデとの滑りの違いを感じた。転んでは起き上がり、なんとか傾斜のないところまで滑り下りることができた。手を上げて安全に滑ったことを伝える。気持ちが良く、そのまましばらく雪の上に寝転がった。バックカントリーって最高だ。まだ一本、滑っただけだが、魅力を実感するのだった。

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