
映画、テレビドラマ、CMなどへの出演が相次ぐ、滝藤賢一さん。芸能界屈指のファッション好きとしても知られ、撮影の合間を縫うように、ファッション誌にも登場している。また、近年は植物愛好家の一面が高じて、Eテレの「趣味の園芸」シリーズ「これ、かっこイイぜ!」にも出演するなど、まさに八面六臂の活躍が続いている。「冬の過ごし方」について話題を振ると、多忙さゆえ、子どもたちのゲレンデデビューを叶えられる日が来るのかと、夢想することになった。
「スキーやスノーボードには連れて行ってあげたいですよね。僕の小さい頃は、よく親がゲレンデに連れて行ってくれたけど、うちの子どもたちはリフトにも乗ったことがない。夏はキャンプ、冬はスキーをして過ごせたら理想ですね。スキーなんて、子どもたち大喜びするんじゃないかな? 雪が積もると、バルコニーで死ぬほど遊んでいますから。雪山なんかに行ったら大変なことになりますよ。永遠に遊んでると思う。いや、手がかじかんで痛いとか、言いそうな気もするな。もう寒いから嫌だって、ペンションから出てこなくなったら、イラっとするだろうな」
と笑う。そんな休日を夢見るが、現実的には難しいのだという。
「長男が中学生ですし、家族全員が揃って外出するのが難しい時期になってきました。だから我が家には、小学校に入る前にパパと二人でご飯を食べに行く。そして10歳になった記念にはパパと高尾山に登って、ママと映画を観に行くという儀式があります。そうでもしないと、子どもとの付き合いがなくなってしまうから。4人も子どもがいると、一人ひとりと向き合う時間がなかなか持てないのが寂しいんですよ。イベントを企画して、意図的に時間をつくらないと。しかも仕事で僕はほとんど不在だし、家にいたとしても彼らは日中、学校に行っているでしょう? だから、ゆっくり時間を共にするタイミングがないんです」
そう4人の父親ならではの悩みを語る滝藤さん。

冬山での思い出も、もっぱら撮影だ。昨冬も厳しい寒さを嫌というほど味わったと語る。
「昨年の冬は時代劇の撮影で、日光江戸村にいました。雪がしんしんと降るなかで、朝の5時からスタンバイ。暖の取れるところがなく、ガタガタ震えていましたね。床が氷のように冷たいのに、女性陣はみんな裸足。おにぎりも凍るほどの寒さで、地獄でしたよ。でも、他の撮影班が新型コロナで続々と倒れるなか、我々のチームは誰も欠けることなくクランクアップしました。温かい食事を食べ、お風呂に入り、ちゃんと睡眠が取れる環境さえあれば、意外と何とかなるものだと学びましたよ」
また、冬山と聞いて、真っ先に思い出すのは、映画「クリフハンガー」だという。
「冬の山は男の憧れですよ。だって僕らは、シルヴェスター・スタローンの『クリフハンガー』を見て育った世代だから(笑)。スタローンはランニング1枚だけで、雪山の岩を登って行くんです。あまりに衝撃的で映画館で1日に二度、観た記憶があります。だから僕にとって雪山といえばクリフハンガー! のちにメイキングビデオを観て、合成だったことを知るのですが……。でも、それを知っても、ショックは受けませんでした。寒さでガタガタと震えるシーンがあったのですが、芝居とは思えない迫力で、むしろ合成なのにあんな演技ができるのかと、スタローンの芝居に感動したことを覚えています。何だか話しているうちに、もう一度、観たくなってきたな」
さらにバックカントリーへの印象を尋ねると、ゲレンデ外を滑走することに自身を重ね合わせた。
「ルールが決められたところじゃないエリアを滑るんですよね? その姿勢には憧れますよ。ファッションでも芝居でも、誰もやってないことをやりたいと常に思っていますから。ファッションには勿論ルールがあるけれど、それを知った上で、あえて外れたことをするのが面白い。ただ流行りに乗って無謀なことをするのは恐いけど、ルールのなかで生きてきた人たちが、もう俺たちは十分に堪能したからと若い人たちに道を譲って、誰も踏んだことのない新雪に挑むのは、共感できるかもしれないな」

そんな滝藤さんが出演する映画「ひみつのなっちゃん。」が現在、絶賛公開中だ。スクリーンで頻繁に目にするため、意外に感じるが、実は今作が初主演作になる。
「初主演ということにはあまり感じ入ることはなかったですが、この映画が初主演作になったことには、特別な感情を抱いてます。この役を演じるのは不安でしたが、監督やプロデューサーの話を伺い、安心してチャレンジすることができると思ったのでお受けした次第です。コロナ禍で撮影が1年延期になったことで、準備期間を設けられることになったのも大きかったですね」
本作で滝藤さんは、ドラァグクイーンのバージンという人物を演じている。当初はどんなふうに演じれば良いのか、わからず、迷っていたという。
「LGBTQ+をテーマにした作品をいろいろ観ましたが、しっくりこなかったんです。勿論LGBTQ+の苦しさや葛藤は勉強になりましたが、彼らの真似をしても仕方ない。そんな時、監修のエスムラルダさんに会い、お話を伺いました。彼らは普段、スーツを着てサラリーマンとして生き、男性であることを楽しんでいる。そして、夜になると女性になる。しかも、生き方はひとつではなく、いろいろな方がいる。それを知って、演じ方も多様でいいんだと、楽になったんです。それからエスムラルダさんは、“大河ドラマで打掛を羽織って歩く女性を見て、自分も真似するようになった”と仰っていて。衝撃を受けました。真似すべきは、オードリー・ヘップバーンやマリリン・モンローなどの女性だったんだぁーって」
そして、自分がやるべきことが明確になり、道が開けたと語る。また、撮影に向けてメイクアップしていくなかで、女装に目覚めたという。
「自分で言うのもなんですが、ドラァグクイーンになるために、何時間もかけてメイクをすると、めっちゃくちゃ綺麗になっていくんです。僕もファッションが好きだから、ドラァグクイーンの文化やファッションには触発されました。第4番目の趣味として、女装もありかもしれないって。メイクやファッションがその気にさせてくれるし、僕が持っている力以上のものを引き出してくれると感じましたね」
最後に映画の見どころについて触れ、インタビューを締め括ってくれた。
「ドラァグクイーンが主人公ですが、ロードムービーでもあり、友情物語でもある。恋愛や親子の愛情も描かれます。ハートフルで愛くるしいキャラクターばかりで、嫌なやつが一人も出てこないんです。だから、昨今のような苦しい時代に観るには、心が穏やかになる最高に優しい映画だと思います」