舞台公演を終えた翌朝。前夜の打ち上げの余韻が残るまま、海外へ飛ぶ。以前は、そんな風に休みをすべて旅に費やすこともあったという佐々木蔵之介さん。40カ国以上を旅してきた中には、島の思い出もある。
「“島旅”という響きを聞くだけでワクワクしますよね。小さな島なら電車や車ではなく、船で上陸しますから、それだけで特別な体験になります。国内では沖縄の本島だけでなく石垣島や宮古島といった離島にも行ったことがあります。また、島と聞いて真っ先に思い出すのは、映画のロケで滞在した渡名喜島です。訪れた島のなかではダントツに小さく、信号機もひとつしかないんです。信号機って交差点に2つあるのが普通ですが、島から出たときに“信号を知らないと困るから”とひとつだけ設置されているとか。そんなのどかな渡名喜島のフェリー乗り場で飲むオリオンビールが最高に美味しかったな」
訪れた土地で地元の酒を飲む。それも旅の楽しみだという。ビールの思い出は同じく“島”であるアイルランドにもあると語る。
「イギリスを旅していたとき、ふと隣のアイルランドには行ったことがなかったと衝動的に海を渡って訪れました。ダブリンでU2のボノらが経営するホテルに泊まって、ギネスビールの醸造所に行きましたが、屋上のバーで試飲できるんです。街を一望しながらのギネスビールもまた美味しかったですね」
ほかにも島旅の思い出を尋ねると、次から次へと旅先の記憶が出てくる。
「番組でロケでしたが、奄美大島も良かったですね。沖縄と鹿児島の文化が混じり合っているようなところで、食べ物も美味しかったし、カヤックは気持ちよかったな。旅先では名所を訪ねたり、食事をしたりと、アクティビティにはあまり参加しないんです。でも知人や番組などで提案されると、“じゃあ、やってみるか”と断わらないので、こう見えて、アクティブなんです(笑)。水上バイクやフライボードなど、いろんな経験をさせてもらっています」
また、ハワイにも特別な思い出があるという。
「ハワイにはあまり興味がなかったのですが、“大人の”ハワイ旅はどうですか?と誘われて、行ったことがあります。隠れ家のようなバーで飲んだり、北極星と南十字星の両方が見られると聞き、夜にハワイ島の山にも登りました。星空と朝日を見たら、帰りは自転車で街まで一気に下っていく。そんな爽快なツアーでこれはおすすめです。空を飛ぶように風を切りながら、山を駆け降りていくんです」
島では海のアクティビティが気軽に体験できるが、火山帯にあり、山へもすぐにアクセスできるところも多い。海とトレッキングの両方が簡単に楽しめるのが、島の魅力でもある。
「あとは、ハワイ島ではセスナの操縦体験もしました。あれは、ほんまに怖かった。10分程度の講習だけですぐに離陸するのですが、メインパイロットは僕。“あげて、あげて!”と言われ、操縦桿を力一杯、引き上げると、上昇していきますが、怖くて、ずっと足を踏ん張っていました。“ちょうどいま真下がパールハーバーだよ”って、同乗している先生に言われても、余裕がなくて、まともに見られません。しばらくフライトしたら戻るのですが、着陸の方法は聞いてない……。もちろん先生がサポートしてくれるので安全なのですが、旅客機も行き交う空港に着陸するので、すごく緊張感があって、無事に戻ったときにはしばらく立てませんでした」
経験したことがないことをし、見たことがない景色を眺めたい。佐々木蔵之介さんを旅に駆り立てるのは、飽くなき好奇心だ。
「チャレンジャー精神というか、日本人がいない土地や、行ったことがないワンダーワールドを常に求めて旅しています。ロシアのウクライナ侵攻で遠のきましたが、いつかはキルギスとか中央アジアも巡ってみたいですね。島ならアイスランドもいいな」
もちろん海外では苦労や失敗の経験も多いが、日本の良さを再認識し、日頃、撮影現場でサポートしてくれる周囲のスタッフへの感謝の気持ちも芽生えてくる。
「レストランに入っても、メニューが読めないから、予想とは違う料理が出てきたり、ひとりなのに大皿料理を頼んでしまったり。自分の思う通りにはならないことばかり。日本だと何かと手伝っていただく機会も多いので、感謝の思いも強くなります」
そんな旅を満喫するため、休みのギリギリまで旅先に滞在するのが佐々木蔵之介流。スーツケースを抱え、空港から現場に直行することも珍しくない。だから旅の手荷物に台本は欠かせないのだ。
「事務所の人たちは不安でしょうが、機内で一泊して帰ってきたほうが効率いいじゃないですか。朝5時とか6時に着けば、しっかり寝て帰ってきているし、体調も問題ない。旅先や機内でセリフも頭に入れていますから。台本を集中して読むのもいいけれど、旅先で何気なく読むと、思わぬ発見をすることもあるんですよ」
そういって笑った。
そんな旅を愛する佐々木蔵之介さんだが、この日は、地元・京都でのドラマ撮影を終えたばかり。2021年1月〜2月にABCテレビとテレビ神奈川で放送されていたテレビドラマ「ミヤコが京都にやって来た!」の続編が9月30日からスタートするのだ。これまで数々の撮影を経験してきたが、生まれ育った京都でのロケは感慨深いという。
「僕の実家の酒蔵は京都の椹木町通りにあるのですが、同じ通りにある豆腐屋さんを撮影で使わせてもらっています。現場に行って、“通るたびに豆乳を買っていた豆腐屋さんじゃないか”と、びっくりしました。いつもバレないように買っていたので、“実は……”と、はじめてご挨拶しました。前回の撮影のときも、そうでしたが、“中学校で一緒でした!”とか、地元のみなさんに声をかけていただいて、やっぱり京都はいいなと思いました」
ストーリーを追いながら、京都の名所や知られざるおすすめスポットが写り、まるで観光しているような気分に浸れる。それが「ミヤコが京都にやって来た!」の魅力でもあるのだ。
「前回は秋から冬の京都が見どころでしたが、今回は夏が舞台。夏の京都は、祇園祭もあるし、五山の送り火もあります。他にも川床で鮎を食べたりと、京都の夏を観光した気分になれます」
また、レギュラー陣に加え、毎話登場するゲストも見どころだ。今回はサラリーマン時代に同僚だった、ますだおかだの増田英彦さんも出演している。
「ますだおかだの増田さんの役名は“オカダ”っていうんです。ややこしいですよね。掛け合いをするようなシーンがあって、今回、一番稽古したかもしれません」
テレビドラマのあとには、舞台公演も控えており、旅はしばらくお預けかもしれない。
「11月23日から東京芸術劇場で『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』という舞台公演がはじまります。まったく共感できないようなドケチなオヤジを演じるのですが、プルさん(演出家のプルカレーテ)とは5年ぶりに組みます。彼の舞台は稽古から刺激的なので、いまから楽しみで仕方がありません」
仕事でもプライベートでも、立ち止まることを良しとせず、新たな刺激を求める佐々木蔵之介さん。人生の先輩として、その背中から学ぶところは多いだろう。