2018年に仕事をすべて休み、演劇を学ぶため、ロンドンへと旅立ったウエンツ瑛士さん。現在は帰国。精力的に舞台に立ち、テレビ番組では相変わらず人懐っこい笑顔で視聴者を楽しませてくれる。プライベートの旅でも、そのキャラクターは変わらないようだ。
「旅先では何も調べず、現地の方に尋ねて行き先を決めることが多いですね。職業柄、声をかけていただく機会も多いので、美味しいお店や名所を聞いて、そこを訪れます。そんな田舎の人たちとの一期一会の出会いが好きなんです。帰りはお店の方にホテルまで車で送ってもらうこともよくあります。だから東京に帰ってきてからも交流が続くケースも多くて、毎年、季節の果物などを届けてくれる人もいます。お返しに悩むこともありますが、旅に行くたびにそのようなつながりができるのは、ありがたいですね」
芸能人らしからぬ姿勢は、海外でも変わらないという。
「スマホがあると調べ物をしたり、友達にメッセージを送ったり、手元ばかり見てしまいます。これだと東京にいるときと変わらないじゃないかと、あるとき気づいて、ホテルの部屋にスマホを置いて出かけるようになりました。通信用のSimカードも買わず、スマホを使うのはWi-Fiがつながるホテルだけ。行き方がわからなければ、現地の人に聞いて、目指します。結局、たどり着けなくて行けなかった観光名所もあるのですが、そうやって旅したほうが思い出も残ります」
もちろん、寄ってくるのは良い人ばかりではない。旅行者は犯罪のターゲットになりやすいのだ。
「そうですね。以前、一人でドイツに行ったときは毎日、現地で出会った人と食事をしていましたが、スマホを言葉巧みに盗もうとしたやつもいました。かわいい女の子に言い寄られて、ホテルの部屋までついて行ったら、怖いお兄さんたちに囲まれてしまったこともあります。持っていたお金を全部渡して、なんとか逃げました。欲望が先走ると、ろくなことが起きないと学びましたね。いや、学んでいないかな。それも含めて旅だと思っている自分がいるので(笑)」
年齢を重ねたことで、古くからの知人は結婚し、家庭を持つようになった。以前は複数人で旅行に行くのも珍しくなかったが、徐々に難しくなってきたと語る。
「高校の同級生とよく旅をしていたのですが……、みんな結婚して、子どももいるので、誘いづらくなって、最近は一人旅に行くことが増えました。ただ、1年に1回、奥さんたちの許しをもらって旅することもあります。日程が近づいてくると、ソワソワしてくるほど楽しみな旅です。思いがけず、前日に早く仕事が終わったときには、寝台列車で行けば翌朝にはもう旅先に着いているじゃん!と、急遽みんなを呼び出してチケットを取るために並んだこともあります。プライベートでハワイに行ったことがないので、いつか彼らと旅行するのが夢ですね」
みっちり楽しみたいので、休みをフル活用できる行き先を考えるという。
「一人旅よりも無茶をしがちで、船に乗ったり、片道12時間かかるような場所に行ったこともあります。あとは天気がすごく大事。旅先で雨に降られるのがとにかく苦手で、晴れの予報が出ている土地のなかから、行き先を決めます。だから旅といえば、まずは天気予報です。そうやって天気から決めると、自分からは率先して選ばないような行き先も候補にあがってくるので、旅先も広がります。事前にあれこれ計画するわりに、乗る電車を間違えて、目的地と違う方向に行くこともあります」
それもまた旅の醍醐味だと語る。また芸能界では爆笑問題の田中裕二さんが旅仲間だという。
「田中さんが結婚されてからは、なかなか旅に誘えないのですが、以前は宮古島を二人で旅したこともあります。あとは地方にプロ野球を見に行くことがありました。仙台とか福岡とか、野球観戦をして、ついでにご当地グルメを食べてくる。ナイターなら夕方の出発でも間に合うこともありますし、オススメですよ」
現在、舞台「てなもんや三文オペラ」に出演中のウエンツ瑛士さん。本作は、差別や資本主義社会を風刺したベルトルト・ブレヒトの名作・音楽劇「三文オペラ」を、演出家の鄭義信さんが大胆にアレンジ。舞台をロンドンから1950年代の大阪に変え、戦後の混乱期をたくましく生きる日本のアウトローたちを描いている。主演の生田斗真さんとウエンツさんは子役時代からの長い付き合いでもある。
「彼がどれほどプロフェッショナルかは近くで見てきた僕が一番わかっていますし、主役としてこの舞台に立っていることが、彼が第一線の演者である何よりの証明です。友人である以前に、そんなプロと仕事ができることが楽しくて、頼もしいですね。その上で、友人に戻る瞬間もあって、それがさらに嬉しいんです」
生田斗真さんはアパッチ族という怪盗団のリーダー、マックを演じ、ウエンツさんはその伴侶となるポールを演じる。
「ポールにとってマックは、はじめて自分を認めてくれた大切な存在。初恋で感じるようなもどかしさや、可憐さを表現したいと思っています。パワフルなキャラクターが多いので、抑えた感情表現を心がけて、キャラ立ちさせたいですね」
と意気込みを語る。また、舞台に立つ喜びをこう表現してくれた。
「舞台はお客さんの体温を感じられるのが楽しいですね。テレビやYouTubeなどカメラの前での演技とは違い、どういう風に見ているか、肌で感じられるし、こちらも熱量を伝えることができます。同じ泣くシーンでもカメラの前と、1000人いる観客の一番後ろまで届く泣き方では感情の大きさが変わります。感情を爆発させる必要があって、演者にも筋力のようなものが必要になります。そういう舞台ならではの感情表現は、日常の生活でもすごく自分のためになっていると感じます」
東京や福岡での公演が終わり、今後は大阪、新潟、長野と地方公演が続いていく。
「近くに住んでいる人に観劇してもらいたいのはもちろんですが、大阪や新潟、長野に遊びに行くついでに演劇を見るのもオススメです。僕も東京の公演ではなく、あえて地方公演を見に行くことがあります。劇場が違えば、音の反響も変わるし、泊まって温泉を楽しんだりもできます。演劇をきっかけに、その土地の良さもあわせて知ってもらえるんじゃないかな」
イギリス留学を経て、演者として成長したウエンツ瑛士さんを間近で見る貴重な機会になるはずだ。