10年後も生きていたら
“いいバンドマン”でいたい
2020年10月、結成25周年のBRAHMAN初の「ONLINE LIVE “In Your【 】」は、「ライブハウスに客を呼び戻したい」という願いから、全国のライブハウスからも配信。GOODA編集部でも東京・渋谷の会場に赴き、プロジェクターを観ながらビールで乾杯し、BRAHMANを待ち望む人たちと空間を共にした。あれから1年、収容人数の制限、アルコール類の販売停止……、ライブハウスを取り巻く状況はコロナ以前には戻ってはいない。TOSHI-LOWさんは、今の状況をどう思っているのか。
「『1年前はまだよかった』という思いは全然ない。目の前で起きている“今”以外のことを深く考えすぎたり、恐怖におののいていても仕方ないし、今できることを全力で進んでいく、その瞬間の連続が生きていることだし、未来につながっていくことだと思っている。この10年、やってきたことはこれだけ。10年前の2011年、東日本大震災があって、自分たちの死生観は大きく変わったね」
過去は過去として捉え「あのときはよかった」という思いは一切持たないという。では、これからの10年について思い描くことはあるのだろうか。
「さっき言った“今できることを全力でやりきること”をしながら、同時に“10年後にどうありたいか?”という、ぼんやりとしたイメージのふたつを常にもっている。10年後に何かになりたい、とか何かを成し遂げていたい、ということではなく、10年経ったら人間的な厚みや深みは欲しいと思っている。
バンドも同じ。今日終わってもいいようなライブを今やりきること、10年後にもやりたいと思う曲を作り、ライブをやっていても恥ずかしくない自分たちでいること。10年後も生きていたら、“いいバンドマンでいたい”ということしかない」
TOSHI-LOWさんの考える
“いいバンドマン”とは?
「“人間が鳴っている”ということ。同じ歌を聴いていても、響いてくるものとそうではないものがある。楽器でも、同じ曲が演奏されていてもグッとくるものもあれば、こないものがある。人の心を動かすものは、人と人との間で共鳴する“何か”。演っているこっちが鳴ってないのに、聴く人を鳴らせるわけはない。俺はボーカルだけど、自分がそういう楽器でありたいなら、日々自分が感動して、動いていなくてはいけない。そうして発するものは、時にテクニカルな部分を大きく超える。これはこれまで揺るがなかった、自分の“ボーカル&バンド理論”かな」
“静”や“Slow”にも
“動”と同じ熱量が入っていることもある
2021年6月、約3年ぶりとなるBRAHMANのライブハウスツアー「Tour 2021-Slow Dance-」を開催。そのタイトルソングとなった「Slow Dance」が9月22日シングルとしてリリースされる。ライブはBRAHMANの中の“静と動”の“静”にスポットをあてたものだった。改めて「Slow」という単語の意味を調べると、「ゆっくり」「のんびり」という誰もが思い浮かべるものから、「時間がかかる」「不景気な」などと言うものまである。
「確かに“Slow”にはネガティブな意味もある。でも逆に“Fast”はファストフードやファストファッションみたいに、その全てがいいかと言ったらそうでもない。全てにおいていいことも悪いこともあるし、必要に応じて選んでいいわけだよね。
コロナ禍では規制があって、早さだったり、密度だったり、今までと同じようにできないことはある。でも考え方を変えればできることはある。今までと違う環境で踊れる踊り、制限された窮屈な中でできる音楽は何だろう? 今のところひとりで公園で踊ることは禁止されていない。そうやって考えることが現実と向き合うことだし、逆に言えば今しか生み出せない何かを生み出すヒントになるんじゃないかなと思う」
「Slow Dance」は、タイトルから連想されるようなバラードではなく、激しく心を揺すぶられるハードなナンバーだ。
「『この曲がなんでSlowなんだろう?』と思うだろうね。“静”や“Slow”にも、“動”と同じ熱量が入っていることだってある、というのがタイトルに込めた皮肉」
TOSHI-LOWさんのもうひとつのバンド、OAUはアコースティックなサウンドをベースに持つ“静”の部分を感じさせる。TOSHI-LOWさんはOAUなどで、音楽と飲食を楽しめるビルボードライブでライブを行っている。
「食べられて飲めて、座って観るって楽しいね(笑)。今まではそういうライブを否定してきたわけだけど、大人になると、こういうたしなみも必要だなと思った。例えば、ガード下の居酒屋で300円で飲めるビールが場所が変われば1200円するとする。『こんな小さい瓶が1200円なんて、高い!』じゃなくて、この小さい瓶の値段が変わる価値を買って楽しめるのが大人だし、どちらかに偏っていないことは豊かだと思ったね。どっちかを否定していたら、味わえない感覚もある」
一方で、ライブハウスに出続けたいという思いはあるという。
「だって、俺たちは海のものでもなく、山のものでもなく、ライブハウスのものだから。1990年代初頭にバンドブームが去って、ライブハウスに人が来なくなった。その空いたライブハウスに、ストリートとかスケーターとか、新しい考え方をもった俺たちが入ってきた。もしあのままバンドブームが続いて、ライブハウスが一般的になりすぎていたら、俺たちが入る余地はなかったかもしれない。
もしかしたら『コロナが終わってライブハウスからおっさんたちがどいたら、新しいことやろうぜ』っていう、若い奴らがいるかもしれない(笑)。今まであったものでもう一度埋める必要はないし、今までいた人を戻せばいいという考えも違うと思う。俺たちは、生き残れて、ライブハウスでやれる状況であれば永遠にやっていると思う」
楽しみも苦しみもストレスもその解消も
音楽にあると気づいた
21世紀になり、徐々にバンドを目指す若者たちも変わってきた。1980年代のライブハウスといえば、狭くて、汚くて、危険。現代とは異なる雰囲気の当時のライブハウスの話になると、盛り上がりつつも思いもあふれる。
「俺の中学の時、地元にはライブハウスはなくて、特設の会場しかなかった。その頃行ったライブはザ・ブルーハーツの『TOUR’88 PRETTY PINEAPPLE』とか、メジャーの少し前の『Please Please Please』(1988年)の頃のTHE POGOとか。その後、mito LIGHT HOUSEができたときはめちゃくちゃうれしかったね。あの頃のライブハウスって、めちゃくちゃ恐そうだったじゃない?(笑) 今は密とか飛沫とか、違う意味で怖がられてるけど。
ライブハウスに行く人、ロックを聴く人、は煙たがられてたところもあるし、“バンドマンになる!”なんて言ったら、全力で止める親がほとんどだったでしょ。ちょっと今の世の中、バンドマンに求められる部分も変わってきていると思う。個人的には、昔みたいに世間にはちょっと社会の敵みたいに思われて、バンドマンのほうも後ろめたく生きている感じのほうが居心地いい(笑)」
解散や活動休止を挟みながらの“周年”を掲げるバンドも多いなか、休むことなく、結成26年目を駆け抜けているBRAHMAN。休みたいという気持ちをもったことはあるのだろうか?
「“何年休んでたんだよ?”ってバンドが何十周年って言ってるのもあるよね(笑)。休みたいという思いは俺たちも過去にはあったかもしれないけど、今はない。楽しみも苦しみも、同じところにあるってわかったからね。音楽は仕事でもあるし趣味でもあるし、息抜きでもある。リラックスするために南の島に行ったとしても、ギター置いてあったら多分弾く(笑)。ストレスもストレス解消も同じところにあるよ」
前回のインタビューで、「物にはこだわらない」と断言したTOSHI-LOWさん。改めてこの1年で購入したお気に入りのモノはないかと聞くと……。
「物欲は、相変わらずゼロ。でもつい2か月くらい前に、最新の一番高い洗濯機を買った。自動で洗剤入るし、よく汚れ落ちるし、シワにならないし、もう最高!(笑) やっぱり家電はいいものに買い替えたほうがいいね。環境がいいっていいよね。そういうものを適度に取り入れつつ、流されつつ、流されない(笑)。いい家電は本当にオススメ!」
走り続けるTOSHI-LOWさんに
最後にもう一度「10年後成し遂げたいこと」を聞いた
「今日成し遂げられるものは今日成し遂げたいから、先のことは考えていない。でも1個終われば、また果てしない階段が見えてきちゃうし、多分ゴールはどこにもなくて、終わる時はなんとなく突然終わるんだろうね。ここまでやったらちゃんとやりきった、明日から音楽をやらなくてもいい、そんなふうに思える日があるなら、巡り逢ってみたい気もするね」