「断捨離」が大事なものだけを
残していくきっかけになる
新型コロナウィルスの拡大により、激変した人々の生活環境。これを機に、手料理に目覚めたという男性も少なくない。2019年には長男の小学校6年間の弁当作りを写真とエピソードで綴った著書『鬼弁 強面パンクロッカーの弁当奮闘記』を出版したTOSI-LOWさんは、このコロナ禍も普段通り、ふたりの息子に食事をつくっていたそう。
「たまにしか食事をつくらないお父さんだとカッコつけて、めちゃ煮込んだカレーとか手の込んだ料理をつくったりするけど、“一緒にいる”、ということはそういうことじゃない。毎日つくる昼食とか、そういうちょっとしたものが大事な気がしていて。塩ラーメン焼いて適当なジャンクフードつくり出しちゃうとか、料理ってそういうのでいいと思う。
コロナになって、子どもたちにも何もしなくていい日ができたわけだけど、むしろ1日中ゲームやって遊んだっていいんじゃないかな。子どもたちは小さい時にこういう経験をしたということを明確に覚えてるだろうし、それだけで勉強になってると思う。それを自分の未来の経験に生かして、生き抜いてくれればいいなと」
家で過ごす時間が増えたとともに、料理以上に人々が興味をもったことが「断捨離」。TOSHI-LOWさんは、元来「モノ」に対するこだわりはないという。
「もともとないんだけど、さらに年々物欲はなくなってるかな。物欲がなさすぎて、大事なものまで失くしてしまうタイプなので。通帳や印鑑も捨てちゃったり(笑)。友達からもらったものは大事だけど、いくら高価なものでも好きじゃないものはいらない。大事なものをひとつひとつ確認して手元に残していくには、断捨離はいい機会じゃないかな。
でもこだわりって変なところにでるから、100円ショップで買った栓抜きとか、なんだか愛着があって捨てられないものもあるし。そういうのが知らない間に捨てられてたときは悲しいですよ、人並みに。何も言わずにしょぼんとしてたり(笑)。だいたい、家に自分の好みのものなんて1個もないの。『自分だったらこうしたい』というのはもちろんあるけど、家の中に持ち込まなくてもいい。車の中とかカバンの中とか、小さなスペースでも好きなものが揃っていればそれでいいかな」
「あのときが最後だった」が
今年来ても、納得はしてる
さまざまな音楽性、ファッションのバンドが登場し、1980年代中盤から90年代の初頭を彩った「バンドブーム」。その後、バンドブームは終息し、ライブハウスシーンは低迷していく。ライブハウスで育ってきたパンクバンドたちが、仲間たちとともに再びシーンを盛り上げつつある1995年に、BRAHMANは結成された。
「誰もがオリジナルになりたくて、ルールがないなかで右往左往して、自分たちでシーンをつくり上げていった1990年代前半の文化が好きで。今でも体感的に、あの初動を求めていますね。否定はしないけど『今の音楽シーンに、それがあるか?』といったら、ない。でも、パンクがあらわれたときのように、いびつで破壊的、でも新しい何かを生み出すのはもう俺たちではない。俺たちがやっても焼き直しになっちゃうし、おじさんがはじけてるだけになっちゃうから(笑)。今ランドセルをしょってるような子たちが、つまらねぇ音楽シーンに風穴を空けるのを期待して、俺たちはそっと種を蒔いてる」
音楽シーンの未来に対する期待をもちつつも、結成から25年間、BRAHMANについての未来のビジョンを描いたことは一度もないという。
「人間っていつでも『あぁ、あれが最後だったんだ』って後になってわかるようになる。世の中がこういう状態になって、『BRAHMANのステージを観たのはあのときが最後だったんだ』と思われる日が今年きたとして、“後悔はない”と言ったら嘘になるけど、それはそれで納得はできる。人間は生まれて生きて、いずれ死ぬもの。コロナ禍だからといって、特別な音楽活動をしようというのはない。でも改めて、人間と人間のつながりって大事なんだなと再認識してる」
ライブハウスからの配信ライブで
今できるベストを尽くしたい
2017年BRAHMANのシングル『不倶戴天-フグダイテン-』に収められたナンバー『ラストダンス』でコラボレートした、THA BLUE HERBのILL-BOSSTINOさんをフィーチャーしたシングル『CLUSTER BLASTER / BACK TO LIFE』を9月30日にリリース。世界がコロナにあえぐなか、盟友であるILL-BOSSTINOさんの呼びかけで制作がスタートした。
「ボス(ILL-BOSSTINO)からは、こういうときにしか連絡はこなくて。『音楽って楽しい‼︎』みたいなときに連絡は来ない(笑)。それは決して世界が悪い状態になってることを喜んでるわけではなく、こういうふうにみんなが沈んでるときにこそ自分たちが普段から言ってること、考えてることが浮きあがってくるから。『俺たちがずっと言ってたことって、間違ってなかったよね? じゃあやろう』と。できあがるのは早かった」
ライブでの共演や楽曲制作において、数々のアーティストとコラボレートをしてきたTOSHI-LOWさんにとって、ILL-BOSSTINOさんという存在は?
「音楽の主義主張が合わなくても音として合わせることはできるし、25年間やってきてそれを楽しむことはできるようになってる。そういう風にBRAHMANのなかで柔軟になってきた部分がある反面、まだコアな部分もある。その核となる部分を一緒にぶつける相手となると限られてきて。誰とでもはできないし、自分と同じ熱量がある人でなくては思う。ILL-BOSSTINOはむしろ俺たちより熱い部分がある人間。こういう楽曲をやるときはBRAHMANがILL-BOSSTINOを支える神輿になる。土台が弱かったら、ILL-BOSSTINOのリリックを支えられないから」
このシングルの購入者向けに、10月9日には、初のオンラインライブ『BRAHMAN ONLINE LIVE“IN YOUR 【 】HOUSE』を開催。札幌KLUB COUNTER ACTIONでのライブ配信となる。
「オンラインライブ開催にあたっては、今の段階の俺たちのできるベストを尽くしたいということと、ライブハウスに客を呼び戻したい、というのがある。だから今、ライブハウスのプロジェクターとスピーカーを使って、ライブを観に来てもらう仕掛けも考えてるの。ライブは無料で見られるようにしたくて、ドリンク代のみで」
TOSHI-LOWさんのライブハウスでのステージは、客席に身をまかせるようにして歌うパフォーマンスが印象的。ステージ上で洋服を引っ張られることはしばしば。
「BRAHMANのステージで着る服は、破けないことだけがこだわり。でも、オンラインライブなら薄手の洋服でもいけるかな(笑)。熱い音楽をやってる人が薄手の洋服じゃない気がするし、軽い音楽をやってる人がゴツゴツのものを着る必要もない。やってることに合わせていけば、ライフスタイルって見えてくるから。状況に合わせられることが本当のおしゃれだよね。だから、熱い日は帽子脱げばいいじゃん、大木! 風が強い日は帽子飛ばされるぞ、大木! って思うね(笑)」
(※編集部注:前号のACIDMAN大木さんのインタビューページを見ながら)
≫ACIDMAN大木さんインタビューはこちら
BRAHMANのライブパフォーマンスを観て衝撃を受けたアーティストや、TOSHI-LOWさんの信念と生き方に憧れるファンは多い。
「自分たちは誰かに憧れられたり、見本になるようなことはないと思ってるし、マイノリティな存在だと思ってる。それでもカッコよくいたい。カッコよくいるためにはカッコつけるのではなくて、自分のいいところ、ダメなところを見つめること。そのためには一緒に笑ったり、背中を押してくれる仲間とコミュニティをつくったりしたほうが、どんなものを買うかより大事だと思う。物は入れ変えられるし代用もできるけど、人はそういうわけにいかない。『おまえじゃなくちゃダメなんだ』、そう思われる人間でありたい」