ACIDMAN・大木さんインタビュー 宇宙と帽子にハンモック その試みの先にあるもの

Interview大木伸夫
Photos:TATSUYA YAMANAKA(stanford)
Text:HIROMI YAMANISHI(HISTOREAL)
2020.6.15
「生命」「宇宙」をテーマにした壮大な詩の世界、ドラマティックでエモーショナルなサウンドを奏でる3ピースロックバンド、ACIDMANのフロントマン、大木伸夫さん。約3年ぶりに発売された、29枚目のシングルは「灰色の街」。今の世界情勢を言いあてたかのようなタイトルのこの曲がもつ意味、今この状況だからこそ改めて感じる音楽への思い、トレードマークの帽子やプライベートのファッションなどについて語ってもらった。
大木伸夫

覚えてもらうための戦略だった「帽子」
今は自分のアイデンティティに

結成から23年となるロックバンドACIDMAN。毎年3月11日に福島県で行っているライブを始め、ライブやイベントの自粛を余儀なくされている(5月29日現在)ものの、ボーカリスト&ギタリスト・大木伸夫さんは音楽活動を止めることはなかった。

「僕は薬剤師国家資格をもっているので、人一倍、感染症やウイルスの怖さを知っているはずだったんですが、今回、世界がここまでになるとは想像できなかった。この期間は自分の気持ちをどうやってポジティブに切り替えていくかに重点を置いて、脳みそを柔らかくして過ごしていました。音楽の制作はもちろんしていましたが、今後のことについてのオンラインでミーティングも多かったですね」

自身のスタジオと自宅で過ごすことが多かった、ここ数か月。自宅でくつろぐ時間に大活躍したというのが、なんと「ハンモック」。

「のんびりしたいときは、ハンモックを吊って寝転がって、揺らして、何時間も(笑)。音楽を聴いたり、本を読んだり……。7年くらい前に、世田谷にある『ハンモック2000』という専門店で買いましたが、本当にリラックスできますよ。一度寝てみるとわかると思いますが、めちゃくちゃリラックスできるので、オススメです。僕はこれとキャンプ用のハンモック、ブランコみたいになっている座る用のハンモックの合計3つを持っています(笑)」

大木伸夫

そんなときの部屋着はラクなスエット。プライベートで外出するときは、この撮影で着ているのような気心地のいいシャツが多いそう。

「ちょっとチンピラ風な(笑)紫のシャツは『WACKO MARIA』で、ストライプのシャツが『ANACHRONORM』。どちらも友だちがいるブランドで、展示会などに行って勧められるままに買っています(笑)。靴は『N.HOOLYWOOD』。これも友だちがやっているブランドです。どれもデザインも着心地も自分にしっくりくるので、ほかは『COOTIE』や『F/CE.』など決まったブランドに落ち着いています」

大木伸夫

ステージでは、Tシャツやシャツなど、さらに通気性のいいシンプルなものに代わる。

「僕はギターと歌、両方やっているので、ステージ上では1秒の余裕もないんです。まずはギターの弾きやすさを考えて、その次は汗だくになることを考えて通気性の良いものを選びます。ステージ上でエモーショナルになるためには、やっぱりシンプルな洋服が一番いい。いつも同じような格好になるのは、それなりの理由があるんですよ(笑)」

大木さんといえば、帽子がトレードマーク。

「メジャーデビュー直前、『プレデビューディスク』としてシングルを3枚リリースしたのですが、ミュージックビデオをニット帽、ハット、何もかぶってないものと変えてみました。どれがよかったか? という話し合いで“ハットが一番いい”という結論になって。当初は『帽子のバンドだと、覚えてもらいやすい』という戦略でもあったのですが、今では自分のアイデンティティになりましたね。今日かぶっているのはフェルト素材ですが、夏は麦わら素材に変わります。入れ替わりはありますが、常に20個くらいは帽子を持っています」

大木伸夫

花の種をつけたシングルに
3,500円のライブ配信

6月3日にリリースされた、29枚目のシングル「灰色の街」は、2019年に行われた「ACIDMAN LIVE TOUR “創、再現”」で披露され、ライブを観たファンからの投稿で、「#灰色の街」がSNSでトレンド入りしたというナンバーだ。

「僕の中で“新曲を出してからライブをする”から、“ライブで演って評判がよかったら新曲として出す”という流れに変えてみようと思っていたんです。最初にライブで披露した時はレコーディングもしてないし、リリースも決まってない状態。『気に入ったらハッシュタグをつけてつぶやいてください』といってから演奏をしたら、たくさんの人がつぶやいてくれたんです。しかも、すごく評判がよくて。その評判を見て、“この曲をレコーディングしよう”と決めたんです」

大木伸夫

つくったのは、3年前。そこからあたためていたナンバーで、歌詞もどんどん変化していったのだそう。

「ただ激しいだけでもなく、バラードというものでもなく、気持ちのいいテンポで、自分でも気に入っていたナンバーだったんです。文明の発展は、人間が目指した未来。都会のビルディングの中で、その先にある宇宙や星空を想像して強く生きていかなければならない、ということを書いた曲です。今このタイミングでこのメッセージを伝えられるのは、僕にとって、ただいい曲というだけではなく、大きな意味がある曲になったと思っています。

このシングルには、昨年の東京・新木場STUDIO COASTで行われた『ACIDMAN LIVE TOUR “創、再現”』ファイナル公演のライブ音源も全曲入っているし、初回盤には『手に取ってくれたひとり一人が世界を色づけてくれますように』という思いを込めて、デージーの花の種もつけています。

僕は最近アナログレコードで音楽を聴くんですが、盤のホコリを取って針を落として、アンプをあっためて、手間をかけて聴く音は格別なんですよ。サブスクリプションで気軽に音楽を聴けるということも大事ですが、盤を手に取って、音楽の意味を再確認してもらうためにもシングルのリリースは必要だと思っています」

大木伸夫

ジャケットは、キングコングの西野亮廣氏が原作を手がける絵本「えんとつ町のプぺル」の新たなイラストレーションとのコラボレーション。大木さんのリクエストでの実現になった。

「西野さんをよく知るプロデューサーの方に、『大木くんと西野くんは考え方が似ている。
今度セッティングするので一緒にご飯に行きましょう』と言われたんです。それは実現しませんでしたが、それ以来気になって、西野さんの絵本をいろいろ読みました。そうしたら本当に僕の好きな世界観で。今回『灰色の街』のジャケットをどうしようかと考えているときに、スタッフから『西野さんにお願いしてみては?』という意見が出たんです。ダメもとでお願いしたら、西野さんがACIDMANの世界観に運命的なものを感じてくれたようで、快諾してくれました」

ACIDMANのサウンドは、“生命”や“宇宙”をテーマにした壮大な詩世界、さまざまはジャンルの音楽を取り込んだ、“静”と“動”を行き来するサウンドが特徴だ。

「静かな展開から急に激しくなったり、大きな音から静かになったり……、そういうサウンドが好きなんです。人間も“死”という裏側があるからこそ、生きている。そういう曲を歌っていきたいという思いがあるんです。つくりたい世界観は一貫していて、僕の武器はそれひとつしかない。そして『ACIDMANの音楽で救われた』と言ってくれる人がいる。それを聞いて僕もポジティブになれる。人の心を動かすことがどれだけ世界を豊かにするか、ということを日々感じています」

大木伸夫

7月11日には、「灰色の街」リリース記念プレミアムワンマンライブとして、有料(3,500円)での無観客の生配信ライブが行われる。

「毎年3月11日に行なっている、福島でのライブはサプライズ的にYouTubeで公開しました。無料が意味をもつことももちろんあるけど、何でもかんでも無料にすればいいものではないと思っています。自分たちのSHOWに価値をつける意味でも、7.11の配信に関しては値段を設定しました。これが若いアーティストたちの、何かのきっかけにもなればいいなと。このライブは、ただのお客さんがいないライブではなく、みんなで生でつくっていくものにしたいと思っています。アーカイブを残すことは今のところ考えていないので、その日、その時間にしか得られない体験にしたいですね」

先にライブで披露した曲に花の種をつけてシングルとしてリリース、そして自宅にいながら体感できる有料ライブの配信など、次々に新しい試みを行うACIDMAN。そんな彼らが今このタイミングで世界に届けるメッセージを、ぜひ受け止めてみてほしい。きっと心を揺さぶられるものがあるはずだ。

Profile
大木伸夫

1977年8月3日生まれ。ボーカル、ギター担当。埼玉の高校の同級生で、1997年に結成。1999年に、佐藤雅俊(ベース)、浦山一悟(ドラムス)の現在のメンバーに。2002年1stアルバム「創」でメジャーデビュー。2017年には結成20周年の集大成として故郷埼玉県、さいたまスーパーアリーナにて初の主催ロックフェスである「SAITAMA ROCK FESTIVAL “SAI”」を開催し、チケットは即日ソールドアウト。現在までに11枚のオリジナルアルバムを発表し、6度の日本武道館ライブを開催し成功を収めている。ACIDMAN 『灰色の街』リリース記念 プレミアムワンマンライブ “ THE STREAM ”を、7月11日(土)19時〜チケット料金3,500円で開催。

Information
ACIDMAN『灰色の街』

「灰色の街」

2,200円+税(初回生産限定盤 2CD+花の種)
2,000円+税(通常盤 CD)

ユニバーサル ミュージック Virgin Music

フジテレビ系音楽番組「Love Music」オープニングテーマとなる2年11か月ぶり、29枚目のシングル。カップリングには、2019年12月12日に、東京・新木場STUDIO COASTで行われた「ACIDMAN LIVE TOUR “創、再現”」ファイナル公演のライブ音源を全曲収録。