
ファッション
気づけば夕方。刺繍boyが自宅の半径1mで創り出す、シュールでハッピーな没頭時間
2026.07.15
コロナ禍をきっかけに、何か一人でできることはないかと探し始めた刺繍boyさん。そこで出会ったのが、それまで完全未経験だった「刺繍」の世界だった。「一人の時間が大好きな超インドア人間」と語る彼が、なぜ見よう見まねで始めた刺繍で多くの人を虜にしたのか。小学生時代の漫画家の夢や、描き溜めたオリジナルイラスト、手刺繍へのこだわりなど、全ての根底には「人を楽しませたい」というピュアな想いがあった。
今年も、外に出るのも躊躇うような酷暑の夏がやってきた。今号のGOODAでは、独自のインドアライフを謳歌する4人の達人が登場。大好きなものやこだわりに熱中する彼らの姿をヒントに、室内で楽しく夏を乗り切ろう。
Photo:Tatsuya Irie/Text:Kazuyuki Nomura
「刺繍にルールはない」。全くの未経験から刺繍の世界へ
——本当に机と椅子だけのコンパクトなスペースで作品を生み出しているのですね。刺繍を始めたきっかけは何だったんですか?
刺繍boyさんがこれまでに手がけた作品の数々。作品はピンバッチやブローチとして販売されており、コアなファンも多数。「¥ジェル」シリーズや、「喉ちんこあり」シリーズをはじめ、「そういう食べ方、やめて。」シリーズなどシュールな作品も人気。もちろん全て手刺繍による1点もの
本業は全く別の仕事をしていますが、対面での仕事ということもありコロナ禍の時に仕事がゼロになってしまったんです。時間があるので、自宅で何かできることはないかと、趣味で描いていたイラストをSNSに投稿しはじめました。でも、全く鳴かず飛ばずでフォロワーも増えません。そんな時に出合ったのが、ある刺繍作家さんの作品でした。「こんなに可愛くて素敵な世界があるんだ」と感動し、そこから自分でもやってみたいと思ったのがきっかけです。
——全くの未経験から始めたんですね。
最初は手芸屋さんで針と糸を買ってきて、見よう見まねで始めました。それで自分の描いたイラストを刺繍にしてSNSにアップし始めたら、少しずつ良い反応をもらえるようになってきたんです。フォロワーも少しずつ増えていき、次第に販売してほしいという声を頂くようになっていきました。
——家でずっとひとりで作業するのは苦じゃないですか?
それが全然。僕は昔から超絶インドア人間なので(笑)。ひとりの時間が好きで、小学生の頃もずっとひとりで漫画を描いていました。刺繍に関しては、集中してやり始めると時間も忘れて没頭してしまうので、朝からやり始めて気づいたらお昼ご飯も食べず、いつの間にか夕方になっているなんてこともしょっちゅう。だから、ほんと向いているのかなと思います。アトリエのようなものもなく、リビングに机と椅子を置いてやっていますがそれで充分。隣で家族がテレビを見ていても全く気になりません(笑)。半径1m程度ですが、完全に自分の世界です。
——ずっと集中していられるものですか?
続かない時もありますよ。そんな時はなるべく刺繍から離れるようにしています。そうすると、自然とやりたくなってきますね。集中できないままだらだらやってもしょうがないので、メリハリはつけています。
「言葉遊び」がデザインの源泉
——刺繍boyさんの作品はとてもユーモアがあって可愛いものばかりですが、アイデアはどんな時に湧いてくるのですか?
スケッチブックはMARUMANを愛用。程よい滑り感でとても描きやすいそう
言葉遊びから入って、そこからイラストに発想を広げていくことが多いですね。例えば歩いていて「チョココロネ」という文字が気になったら、「千代子コロネ」にして、チョコの部分が顔、パンの部分が寝袋になった女の子はどうだろうとか考えて。モチーフをストレートに描くというよりは、遊び心を入れながらひと捻り加えていくことが多いです。思い浮かんだものをとりとめもなくスケッチブックに描いて、そこからデザインに落とし込んでいくことが多いですね。
一色でつくられているように見えて、僅かに糸の色味を変えていたり、とても手が込んでいる。細かな表現は手刺繍ならでは
イラストが決まったら、次は糸の配色を考えていきます。使う糸の色を決めて、あとはひたすら刺繍していきます。カラフルにするようにしていますが、一見、同じ色に見えるところでも微妙にトーンを変えたりもしています。
——機械は使わず、全て手作業なのもすごいなと。色も多いから、とても時間かかりそうですね。
作品にもよりますが、1日4〜5時間やって、4日くらいかかってようやく1つ完成することも普通にありますよ。複雑なイラストだと、なんでこんなの描いたんだろうと後悔することも多々あります(笑)。
一番人気「¥ジェル」シリーズは販売するとすぐに完売してしまうそう。頭にはチェーンの飾りがつけられ、円マークの部分には金の糸が使われるなど細かいこだわりが満載
SNSでもバズった作品「カタカナでビールと書いてあるビール」。よく見ると、確かに黒糸で「ビール」と書かれている。刺繍boyさんらしい遊び心たっぷりな作品
よく機械で沢山つくったら!?と友人にも言われるのですが、どうしても手刺繍にこだわりたくて。手刺繍ならではのちょっとした歪みとかブレも、作品の可愛さとか温度感に繋がっていると思うんです。やっぱり手刺繍でしか表現できないものがあると思うので、一針一針、丁寧にやっています。
中島みゆきを聴きながら
——刺繍をしている時、何か聞いたりしています?
実は中島みゆきさんの大ファンで、ファンクラブに入って今年で28年目なんです。なので、中島みゆきさんの曲をかけながらやるとことが多いですね。いろいろな音楽を聴きながらやることもあるのですが、結局最後は中島みゆきさんに戻ってきます。
——筋金入りのファンですね! 中島みゆきさんのどういうところが好きなんですか?
曲、歌詞、声、トータルで好きです。信じられないかもしれませんが、聴いているとめちゃくちゃテンションあがるんですよ(笑)。チケットがとれればコンサートにも必ず行っています。
——刺繍boyさんほど本格的ではないにしても、自宅で気軽に楽しむ趣味として刺繍ってとても良いのではないかと思うようになってきました。
刺繍boyさんの愛用品。針は京都の「みすや針」、刺繍糸は主にDMCを使用。その他は手芸用品店で購入したもの
本当に楽しくて奥が深いし、おすすめですよ。スペースもほとんど必要ないし、道具も針と糸と布、あとは丸枠があればできちゃうので。全部100均で揃うので、最初はお試しでそれから始めてもいいと思います。針と布は結構相性があるので、本格的にやるならいろいろ試してみるのが良いと思います。他のことを何も考えずに作業に没頭すると時間があっという間に経ちますし、良い作品ができると純粋に嬉しいですから。女性はもちろん、男性にもおすすめです。僕は刺繍にルールはないと思っているので、自由にまずはやってみるのが良いと思います。
——最後に、今後の目標を教えてください。
まずはSNSのフォロワー1万人を目標に、もっともっと沢山の人に僕の作品を知ってもらえたらなと思います。あとは、中島みゆきさんのオフィシャル刺繍とかできたら凄く嬉しいです(笑)。実現できるよう、これからも目の前の作品に向き合っていきます。





