インテリア
たくさんいれば怖くない。オカルトコレクター・田中俊行に学ぶ「呪物」集めとシェアハウスの極意
2026.07.15
薄暗い部屋の中に何やら不穏な空気を纏う人形や置物、仮面などがズラリとひしめいている。田中俊行さんが熱心に集めているのは、フィギュアでも、スニーカーや時計などでもなく「呪物(じゅぶつ)」だ。怪談師としてさまざまなトークイベントなども行っている田中さんだが、いわくつきの人形「チャーミー」を譲り受けたことをきっかけに、何かしらの「いわく」がつき、「念」が込められていそうなモノの蒐集をするように。肝試しにお化け屋敷。オカルトやホラーは、日本における夏の季節行事に近い文化のひとつ。お清めの塩をバッグに忍ばせ、恐る恐る田中さんが呪物と暮らす築60年の木造アパートを訪ねてみた。
今年も、外に出るのも躊躇うような酷暑の夏がやってきた。今号のGOODAでは、独自のインドアライフを謳歌する4人の達人が登場。大好きなものやこだわりに熱中する彼らの姿をヒントに、室内で楽しく夏を乗り切ろう。
Photo:Yuto Kuroyanagi/Text:Kazuyuki Nomura
全ては1体のいわくつき人形から始まった
——こんにちは。昭和にタイムスリップしたような古い木造アパートですね、田中さん以外にも誰か住んでいるんですか?
ええ、もちろんアパートなんでいろいろな人が住んでいましたが、数カ月前からこの部屋に近い順からいなくなり、今は僕だけになってしまいました。
——え!?
狭いですけど、中にお入りください。
——す、すごいですね。どこから触れていいのか全く分かりませんが、そもそも「呪物」って何なのですか?
さまざまな考えがあるので定義づけするのはとても難しいんですけど、僕が思う呪物は「人の願いや念が入り込んで、超自然的なパワーが宿ったとされるもの」ですね。呪物って呪われた物と書くので、怖いとか、人に災いをもたらすとかネガティブなイメージをもつ人がほとんどだと思います。でも、必ずしもそうではなくて、例えばタイなんかでは呪術師と呼ばれる特殊な能力をもつ人が、物に精霊を入れたりすることもある。「呪う」は「のろう」だけでなく「まじなう」とも読むので。
勝手に髪が伸びる日本人形。実際は髪の毛の左右がずれているだけで、伸びているように見えることがほとんどだというが、この人形はそうではなく、手に持った獅子の兜の毛が実際に伸びていると田中さんは言う。
人に呪いをかけて悪い影響をもたらすものもあれば、逆にお守り的な役割をするものもありますし、民間信仰において守り神として祀られているものもあります。使い方によって、良いものにも悪いものにもなってしまう。アフリカとかヨーロッパでは特定の物に霊的な力が宿ると信じることをフェティッシュと言いますが、世界中に呪物は存在し、それを集めている人も世界中にたくさんいます。
——田中さん的には「怖い」という感覚はないんですか?
僕、霊感とか全然ないので特にないですね。僕のなかでは呪物をコレクションとして蒐集しているという感覚はなくて、どちらかというと「一緒に住んでいる」という感覚。シェアハウスに近いですかね。でも、対等ではなくて、僕のほうがちょっと下というイメージ。呪物がメインで、僕が管理人みたいな(笑)。この中の何かがポツンと一つあると怖いかもしれませんが、これだけあると逆に怖くないというのもあるかも。
——そもそも、なぜ呪物を集めだしたんですか?
僕は怪談師として怪談のトークイベントとかライブを各地でやるのですが、お客さんが何かいわくつきのものを持ってくることがあるんですよ。怪談のネタになるかもしれないし、エピソード含めてだったら引き取りますよってことで受け取っていたのですが、今から7年前くらいかな。和歌山でライブをやった時に、お客さんが誕生日プレゼントとして、可愛いリボンがついた大きな袋をくれたんです。特に中身も確認せず家に持って帰ったら、部屋に入った瞬間に部屋の蛍光灯が激しく点滅しだしたんです。
右から二番目が、田中さんが呪物を集めるきっかけになった「チャーミー」と名付けられた人形。可愛がった人が立て続けに5人亡くなったという特級呪物
——ポルターガイストみたいな感じですか!?
そうですね。スイッチいじっても直らないから、まぁええわと思ってパソコン立ち上げたら、今度は音声認識ソフトが勝手にずっと立ち上がったり、エアコンから変な音がしたりと家電が暴れだしたんですよ。で、なんか嫌な予感して袋をパッとあけたら、この人形が出てきたんです。そしたら、パッと全部正常に戻ったんですよ。なんやろと思ってよく見ると、人形と一緒に手紙が入っていました。
——何て書いてあったんですか!?
この人形を僕にくれた男性は介護施設で働いていて、いつからあったか誰も分からないまま、ずっとこの人形がその介護施設に飾ってあったらしいんです。で、その介護施設の利用者が可愛がると、その3日後くらいに亡くなるということが5人連続で続いたらしいんです。それで、どうしていいか分からないから、田中さんに預けますと。
——そんな怖いもの預けると言われても……ですよね。
そうなんですよ。でも、しょうがないから部屋に置いておいたんですが、その時からキッチンに毎晩、米がバラバラと落ちているんです。その時実家に住んでいたのですが、誰も身に覚えがない。それである時、この人形の口のなかに何か詰まっているなと思って調べたら米が出て来たんです。で、それ取ったら1粒刺さって取れなくて、歯が生えたみたいになり、今も残っているんですけどね。
——こわっ! なんでチャーミーなんですか?
その時ちょうど大型台風のチャーミーが関西に上陸していたので、チャーミーと名付けました。この体験がきっかけで、物に念が宿ることがあるのだなといろいろ調べだして、呪物に興味を持っていったんです。
——では、全ての始まりはチャーミーなんですね。
そうですね。実は僕が東京に来たのもチャーミーがいたからなんですよ。元々神戸の実家に住んでいたのですが、こんな話を怪談イベントとかライブでしていたら、東京のテレビ局の心霊番組などで貸し出しくれっていう依頼が頻繁にくるようになり、チャーミーが僕より売れっ子になっちゃって。それで、僕もチャーミーを追いかける形で上京しました。チャーミーは僕にとってのビジネスパートナーでもあるんです(笑)。
お笑いコンビ「マユリカ」の中谷さんから引き取ったというラブドール。家に置いていたところさまざまな怪奇現象が起こり、霊能者を呼んで見てもらったところ「さゆり」という女性の霊が入っていると言われ、田中さんが連絡して引き取ったそう
——それから、どうやってこれだけの「いわくつきの物」が集まっていったんですか!?
自分で購入したものや、呪術師に頼んで念を入れてもらったものなどもありますが、多くはいろいろな人から引き取ったものですね。どうしていいか分からない、手元に置いておきたくないから引き取ってほしいみたいな相談をされて、引き取ったものです。ただ、引き取る時も、ちゃんと背景まで全部聞いて“想い”ごと引き取るようにしています。
いきなり始まった怖い話
——さっきから気になっていたんですが、呪物だらけのところに服とかも無造作に置いてあるんですね。
これ僕のではなくて、ある男性から引き取った“いわくつき”のものですよ。少し前ですが、30代後半位の男性から「元彼女の私物を引き取ってほしい」と連絡があったんです。流石にそんなものは引き取れないと断ろうと思っていたら、もう別れて彼女はいないのに、時折トレーナーと帽子から彼女の匂いが強烈にして、ぬいぐるみに至っては勝手に移動していると。じゃ、話だけ聞きますと、横浜のほうにその方のマンションを訪ねたら、まず鍵穴が焼けてドロドロになり、ドアが閉まらない状態になっていました。驚きながらも部屋に入れてもらい、どんな時に匂いがして、動くのか聞くと、彼女と付き合った日とか、誕生日とか記念日、あとは命日やと言うんですよ。あ、それで彼女は亡くなっているんやなと分かったんです。
——ちょっと、なんですか!? 怖いんですけど。
話を聞くと、2人は元々東北の出身で、彼が彼女を無理やり誘って上京して同棲していたらしいんですけど、ある時彼女が突然実家に帰った後、豹変して「東京なんか行くんじゃなかった」「あなたのせいで、こんなことになった」と散々文句を言って、次の日この世を去ってしまったと。で、そっかららしいんですよ。記念日になると、その服から彼女の匂いがしたり、ぬいぐるみが動くようになったのは。
——それは本当にあった話ですよね!?
それで引き取ってしばらく家に置いておいたんですが、ある日、彼から一言だけ「ぬいぐるみが動きました」とLINEがきたんです。ぬいぐるみは僕が持っているからそんなはずないなと思ってパッと見たら、長い艶々の髪の毛が1本、ぬいぐるみの上に添えられるように置いてあったんです。なんか怖いなと思いながら「ぬいぐるみは僕が持っていますよ」と返信しても、一向に既読がつかない。それで僕、なんか嫌な予感して、家に行ってみたんです。
——まだこの話続きます? 帰りたくなってきました。
家について、インターホン押しても誰も出ない。でも、鍵穴がドロドロで鍵がかかってないから中に入ることはできるので、心配だから入ってみたんです。そしたら電気や暖房もついていて、靴もあるのに誰もいない。ユニットバスかなと思ってドアを開けても、誰もいない。でも、確かに直前までそこにいた形跡があるんです。それ以来、その人とは一切連絡がとれなくなり、今はどうしているのか全く分かりません。
——いきなり怖い話が始まってびっくりしました。
すみません、驚かせようとしたわけではなく、本当にあったことで怪談ではないですよ。でも、先ほども言ったように“想い”ごと引き取っているので、こういったエピソードとか、背景が全ての物にあるんです。
田中さん的オカルトの楽しみ方
——呪物のコレクションはとても特殊な趣味だと思いますが、何がそんなに田中さんを惹きつけるんですか?
完全に自己満足の世界で、自分のなかで全て完結する世界だから面白いのかもしれませんね。呪物を集めているからといって誰かから羨ましいと思われたり、欲しいと言われることもない。他人の評価とは全く切り離されたところで、自分だけで楽しめるものだからかもしれません。
あと、呪物は世界中に存在するのですが、宗教とか民間信仰、土着文化、その土地の風習や風土なんかも色々絡んでいて、調べていると知的好奇心を刺激されて面白いというのはあります。例えばこの本は韓国のシャーマンの儀式のやり方などを紹介している民俗写真集。あとはタイのオカルトについて詳しく書かれている本とか。呪物を通じて興味がでてきたことは、本を読んだりして調べています。すごくディープで特殊な世界なので、人に勧めようとは思いませんが。
