「この恋はハラスメントなのか、純愛なのか……」 名バイプレイヤー斉藤陽一郎と主演映画『蒲団』が描く人間観
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    「この恋はハラスメントなのか、純愛なのか……」
    名バイプレイヤー斉藤陽一郎と主演映画『蒲団』が描く人間観

    2024.05.08

    数々の映画やTVドラマに出演し、名バイプレイヤーとして知られる俳優・斉藤陽一郎(さいとう よういちろう)氏。今回、約20年ぶりとなる単独主演作『蒲団(ふとん)』が、東京都新宿区のK's cinemaにて5月11日から公開される。本作の魅力と、俳優・斉藤陽一郎の“人間観”に迫った。

    取材/TAKANORI ITO
    スタイリング/中村もやし

    演じるのは深みのある“人間らしさ”

    日本の自然主義文学を代表する作家である田山花袋(たやま かたい)が1907年(明治40年)に発表し、日本文学史における私小説の出発点と言われている不朽の名作『蒲団』を原案にした長編映画が5月11日に公開される。

    妻子のある小説家・竹中時雄が、懇願されて弟子にした女学院の学生・横山芳子に恋をするというストーリーだが、彼女に恋人ができたことで嫉妬に狂い、破門にしたにもかかわらず強い未練が残り、蒲団に残った芳子の残り香を嗅ぐ「心のゆくばかりなつかしい女の匂いを嗅いだ」という一節は有名だ。

    本作では舞台を明治から令和に移し、小説家から脚本家に設定を変えているが、主人公の時雄を演じるのは、『Helpless』や『EUREKA』、『サッド ヴァケイション』など、数々の映画・ドラマに出演してきたバイプレイヤーの斉藤陽一郎氏。『軒下のならずものみたいに』(青山真治監督)以来、約20年ぶりの単独主演作となる。そして、秋谷百音氏をはじめとする実力派キャスト陣が、日本文学史上における”不朽の名作”に挑む。

    監督は『テイクオーバーゾーン』、『YEN(DIVOC-12)』、『なん・なんだ』で現代社会の難しいテーマを独自の目線で切り取り、エンタメ作品に昇華してきた気鋭・山嵜晋平氏。

    脚本は『戦争と一人の女』や『さよなら歌舞伎町』、『花腐し』など、人間のリアルな心情を描くことに定評のある中野太氏が担当。

    制作陣が、小説の持つ“普遍性”を活かしつつ、どのように“現代性”を入れているかは必見だ。

    おじさんの恋愛の哀愁と滑稽さ

    ――「蒲団」の撮影を終えて感じたことはありますか?

    「おじさんだって恋をしていいじゃないかという思いもありつつ、昨今のさまざまなハラスメントの問題や、明らかに昔とは違う空気感のなか、おじさんへの啓蒙映画でもあるなというのはクランクインしてすぐに感じました。

    おじさんの屈折した恋愛のダメさとピュアさが“哀愁と滑稽さ”みたいな形で表現できたらいいなと思って撮影に臨みました。

    原作にもある『心のゆくばかりなつかしい女の匂いを嗅いだ』という有名なシーンのあとにもう一度前向きになる主人公の心境にも注目して観てもらえたらと思います」

    俳優・斉藤陽一郎の軸
    「物語の世界に生きている人になる」

    ――役者の道に入るきっかけはなんだったのでしょうか

    「子供の頃から映画好きで、映画館を回ってはチラシを集めたり、昔あった貸しレコード屋さんで映画のサントラ盤を借りて聴いたり、そういう少年時代でした。そのときは自分が出る側の仕事に就くなんていうことは考えてもいなかったです。芝居に興味をもち始めたのは高校の頃、演劇を観ることにハマって下北沢の劇場を回りはじめて『こんなに面白い世界があるんだ』と、感激したことがきっかけですね。

    その後、篠原哲雄監督作品『YOUNG & FINE(ヤング アンド ファイン)』のオーディションに合格してこの世界に入ることになったのですが、作品を観てくれた青山真治監督が『教科書にない!』という作品で声をかけてくださり、青山監督のさまざまな作品に参加させてもらうようになっていきました。そして、人と人のご縁をいただきながら、今でもこの仕事を続けさせてもらっている感じですね」

    ――ドラマ「DOCTORS~最強の名医~」シリーズや、「監察医 朝顔」などのテレビドラマや映画など、これまで数々の作品で刑事役や医者役など、さまざまな役を演じてこられたと思うのですが、どのように役づくりをされていますか?

    「役をつくり込んでいくというよりは、台本を読んで“作品の空気感を漂わす”ように意識をしているかもしれません。若い頃からそういう考え方だったわけではないのですが、青山監督の『ユリイカ』という作品に参加したときに、同じスタッフや出演者みんな撮影地に泊まり込みで作品を撮っていて、みんなでずっと一緒にいるとそこに生きているように、そこで暮らしているかのような空気になってきて。そうすると“その物語の世界に生きている人”になるんです。この感覚は、今でも大切にしています」

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    映画『蒲団』。明治時代の小説が令和に置き換わり時代は変わったが、100年経っても人の心の揺らぎは変わらないように感じる。おじさん世代はもちろん、SNSが発達した現代において情報コミュニケーションが軽くなりがちな若い世代にこそ、リアルな心情を描く今作や、俳優・斉藤陽一郎氏の深みのある表現に触れてみてほしい。

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    • 斉藤陽一郎
    • 斉藤陽一郎

    • 1970年生まれ。1994年篠原哲雄監督作品「YOUNG & FINE」のオーディションにて主役に抜擢され役者の道へ進む。青山真治監督作品「教科書にない!」(1995)に出演以降、青山監督のほとんどの作品に出演。 同監督作品『Helpless』(1996)にてスクリーンデビューを果たし、『EUREKA』(2000)『サッド ヴァケイション』(2007)と北九州三部作に出演。『軒下のならずものみたいに』(2003)では主役を演じる。97年よりテレビ朝日ドラマ「君の手がささやいている」シリーズ、2001年より日本テレビドラマ「取調室」シリーズ、2011年よりテレビ朝日ドラマ「DOCTORS~最強の名医~」シリーズ、2019年よりフジテレビドラマ「監察医朝顔」シリーズなどにレギュラー出演する。映画では『弟切草』(2001/下山天監督)『殯の森』(2007/河瀬直美監督)『ディアーディアー』(2015/菊地健雄監督)など、数多くの作品に出演している

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    • 伊藤孝法
    • ファッションライター

      伊藤孝法

    • ファッション、メンズビューティーのジャンルでさまざまな媒体で執筆中。中目黒の老舗セレクトショップOUTPUTオーナーでもあり、ブランドのセールスやPRを手がける。WWDファッショニスタ100人がリコメンド!にも参加。故郷北海道でFM番組のパーソナリティーも担当している。

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