ファッション
目指すのはインドア界の最高峰!
mocTのスウェットとTシャツが選ばれる理由
2023.02.17
Made in Japanの優れた技術で快適な着心地を実現し、ほかにはない素材で良品をつくるブランド「mocT(モクティ)」。130年以上の歴史を誇る新内外綿(しんないがいめん)株式会社が2017年にスタートさせたオリジナルブランドだ。老舗の歴史と技術にデザインの新しさをプラスしたmocTの魅力について、ブランドを手がける長谷川進さんにお話を伺った。
取材/TAKANORI ITO
130年以上の歴史を誇る紡績会社が手がけるスウェットとTシャツ
──ブランドが始まったきっかけを教えていただく前に、会社の歴史から教えてください。
「糸を紡ぎ織物をつくる紡績会社で、『内外綿(ないがいめん)』という社名で明治時代にスタートしました。130年以上前の話になりますが、当時は糸にする前の綿(わた)を扱っていまして、事業が徐々に大きくなり、紡績の機械を入れるなどして更に拡大していきました。130年という年月の中で、戦争もあり、戦後仕切り直しのタイミングで新しいという漢字をつけて『新内外綿』という社名になり、今日に至ります。
事業部は、機屋(はたや)やニッター(編み立て業者)に糸を売ったり、繊維商社に糸を売ったりする『紡績部』と、生地問屋やアパレルメーカーに生地を卸したりする『テキスタイル部』、OEM(Original Equipment Manufacturing)といって他社ブランドの洋服を製造する『製品部』の3つに分かれています。
コレクションブランドやセレクトショップなど、色々な会社と仕事をさせていただき、生地や製品の提案をさせてもらうなかで、新しく開発した糸や生地で時間をかけて大切に売っていきたいものや、作り手側じゃないと生まれてこないような思いなどがあり、オリジナルブランドをつくるという事業計画書を会社に提出しました。今まで会社に無かったものをつくるプロジェクトだったので、9年ほど時間がかかりましたが、2017年からスタートすることができました。ブランドスタート時、ファッション業界で活躍されていた馬場賢吾さんというデザイナーを外部からお招きしました。馬場さんは、ブランドが始まる前の段階から色々と相談に乗ってもらい、力になってもらっていた存在です」
「杢グレー」という言葉をつくったのは新内外綿が最初
──mocTのブランド名の由来やコンセプトについてお聞きしたいのですが、スウェットやTシャツ、カットソーを中心に展開するというコンセプトは最初からあったのでしょうか?
「私たちがつくっている紡績の糸の見本帳の名前が『MOKUTY』と言いまして、この見本帳は日本国内のニッターやアパレルブランドに配布されています。アパレル業界の中では、MOKUTYの糸といえば新内外綿の糸と、ピンと来る方が多いため、これがブランド名のきっかけになりました。ただし見本帳の名前そのままではなく、同じ発音でmocTにしようとなり、更に意味合いをつけました。
M ミックス
O オリジナル
C コンフォータブル
T テクニカル
『M』には、私たちは混ぜる糸が得意なので、『ミックス』。『O』には、オリジナルの糸をつくり続けている『オリジナル』。『C』には、生地の風合いや着心地の良さを表して『コンフォータブル』。『T』には、メーカーとして、常に新しい技術を提案する意味を込めて『テクニカル』。
このようにコンセプトを決めたのですが、最初からカットソー中心とは決めていませんでした。ただ、私たちは紡績会社のなかでも特殊な糸ばかりつくっていましたので、自社の糸を使ってつくるということは大前提としてありました。世界基準の大手ブランドから依頼がくるような、さまざまな種類の特殊な糸をつくっていますが、そのひとつが、『杢グレー』です。Tシャツやスウェットで見られる杢グレーという言葉は、新内外綿がつくった言葉で、私たちがつくった杢グレーの糸が、今では世界的な基準になっている部分もあります。そういった本家本元がつくるアイテムだったら、手に取った皆さんもワクワクしてくれるのかなと思い、ものづくりをしています」
裏テーマはインドア界の最高峰
──他のブランドではあまり見ない生地のアイテムを積極的にラインナップされていますが、そのあたりのお話を教えていただけますか?
「先ほどもお話しした杢グレーの糸は、他の会社ももちろんつくることはできると思うのですが、基本的に難易度が高い糸のつくり方。私たちはそれを専業としてやっているため、混ぜるという技術に重きをおいています。私たちの生地品番で『GR7』と呼ばれるものがあるのですが、アパレル業界のなかではこのGR7が杢グレーの基準となっています。杢グレーの色は、真っ白な綿(わた)と真っ黒な綿(わた)の配合だけでつくっていて、グレーに染めた糸を使っているわけではありません。黒糸のパーセンテージでグレーの濃さが変わるようにしてつくるのですが、これが私たちの得意としている“混ぜる”ということなのです」
「更に、色を変えるだけじゃなく、異素材を混ぜることもできます。スラブの糸や、ネップの糸、変形した糸などバリエーションは多岐に渡ります。例えば杢グレーの中に、ポリエステル糸を混ぜてブラックライトで光る生地をつくったり、そういう技術がこのブランドには詰まっています。生地づくりの技術のストックはまだまだたくさんあるのですが、10年後、50年後も見据えているので小出しにしていってる感じです。杢グレーの生地というのは、80数パーセントの原綿の白い綿(わた)で、風合いも手触りもすごく良いのですが、カラーの生地は白い綿(わた)を 染めているのでどうしても若干硬くなってしまいます。杢グレーは柔らかいため着心地が良いです。着心地が良いから皆さん知らず知らずのうちに部屋着で杢グレーを使うようになったと思うんです。アウトドア界の最高峰って呼ばれている某ブランドがありますが、私たちは『インドア界の最高峰‼』という裏テーマを持っています。家に帰ってきてからは、やっぱり綿100%の心地良いものを着たいって思う人が多いと思います。先ほどコンセプトであげたコンフォータブルにつながる部分なのですが、mocTは、着心地をとても意識しているので、ぜひそれを感じてもらいたいと思います」
mocTの定番アイテムでハイクオリティーを着る
──mocTの定番アイテムを中心にいくつかご紹介してください。
「こちらは30/10番という編み地(生地)で、吊り編み機で編んでいる定番の裏パイル、スウェットなのですが、昔はこの機械しかなかったので、それで生地をつくっていました。1980年代に高速で編める機械が開発されてからは、すべてその機械に入れ替えてしまったので、今、吊り編み機は限られた数しか残っていないんです。なので、吊り編み機でしか出せない、古い風合いが失われつつあります。そんな希少性の高い生地でつくった、スタンダードフィットと呼ばれる定番アイテムです」
「もうひとつはTシャツなのですが、30/1天竺という生地で、天竺の中でも、真正面の定番中の定番という生地です。こういう大定番の商品というのは素材の良し悪しで着心地が決まるので、着心地と素材の良さをぜひ感じてほしいと思います」
「更に、先ほどお話しした杢グレーの中に、ポリエステル糸を混ぜてブラックライトで光る生地でつくったTシャツがあります。ネオンシリーズと呼んでいるのですが、こちらも定番アイテムです。例えば5m離れていたら普通の杢グレーのTシャツですが、近くで見ると違いが分かるという細部にこだわった生地です」
mocTは、つくり手が直接ブランドを手がける、いわゆるファクトリーブランドだが、お客さんにはそう見てほしくないそうだ。どこかで手に取ったアイテムを調べてみたら、たまたまファクトリーブランドだったというのが好ましいという。このハイクオリティーと着心地の良さは、知らずに買ってもきっと調べてしまうはずだ。今後は海外展開も考えているとのこと。mocTこだわりの杢グレーが世界で買える日が来るのも、そう遠くない未来だろう。
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伊藤孝法
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北海道生まれ。中目黒の老舗セレクトショップOUTPUTオーナーで、さまざまなブランドのセールスやPRを手がける。
2014年、WWDファッショニスタ100人がリコメンド!に参加。
テキスタイルデザインや自身のYOUTUBEチャンネル、北海道でFM番組のパーソナリティーも担当している。