ファッション
“着る眼鏡”「EYEVAN」(アイヴァン)が
維持し続ける、世界基準の“クオリティ”
2022.10.19
1972年、“着る眼鏡” というコンセプトのもと、日本初のファッションアイウェアブランドとして誕生した「EYEVAN」(アイヴァン)。世界基準のものづくりと、現在に至るまでのブランドヒストリーを株式会社アイヴァン マーケティング室 課長 川崎浩司さんと、企画部 販売促進課 PRマネージャー 八十岡宏美さんに聞いた。
取材:TAKANORI ITO 協力:嶋田哲也(muroffice)
優れた職人のネットワークにより、世界基準のクオリティを実現
――本日はよろしくお願いします。早速ですが、ブランド「EYEVAN」誕生のいきさつを教えていただけますか?
川崎「1972年に設立されて2022年で50周年になる、ファッションという切り口でメガネづくりを始めた日本で最初のブランドになります。『VAN JACKET』(ヴァンヂャケット )創業者の石津謙介さんに懇意にしていただいていたこともあり、目に特化した『VAN』ということで、ブランド名を『EYEVAN』に、“着る眼鏡”というコンセプトで始めさせていただきました。1985年にアメリカの合同展示会でロサンゼルスのメガネ店『Oliver Peoples』(オリバーピープルズ)の目にとまり、そこからアメリカでの展開が始まるのですが、その後、本格的にオリバーピープルズ社とメガネの製造、販売ライセンス契約を締結。日本でも『Oliver Peoples』の販売を『EYEVAN』と並行してスタートさせました」
――1990年代に、マドンナが「EYEVAN」のサングラスを愛用していましたね。
八十岡「ニューヨーク・タイムズやその他のメディアで、マドンナが『EYEVAN』のサングラスを着用している当時の写真は残っているのですが、その当時を知るものがいなくて、肌感でどうだったっていうのはわからないんです。でも光栄なことですね」
川崎「その後アメリカ、そして日本での『Oliver Peoples』が順調に成長していく一方『EYEVAN』の展開は少なくなり、一旦ブランド展開を休止することになったんです。その後、2013年に『EYEVAN 7285』(アイヴァン 7285)というレーベルで、再開していくのですが、2017年には『Eyevol』(アイヴォル)というレーベルをローンチ、2018年にメインレーベルの『EYEVAN』を復活させたんです」
――ここからは、「EYEVAN」とメガネの世界的産地である福井県鯖江市のものづくりについてお伺いします。まずは、鯖江市が世界的に有名になったきっかけは何だったんでしょうか?
八十岡「日本のメガネづくりの技術は非常に高くて、特に福井県鯖江市のメガネは良質でかけ心地がいい。今では海外ブランドの多くが鯖江の生産になっています」
――どんなところが、世界基準を満たしていたのでしょうか?
川崎「メガネづくりは手作業が多いため非常に難しく、緻密で工芸品としての側面をもっています。熟練された職人でないとできない、高度な技術が必要なアイテムなんです。日本製のメガネのほとんどは鯖江でつくられているのですが、それは優れた職人が鯖江に揃っているということ。また、“鯖江でメガネをつくる”といっても、パーツによって工場や職人が変わることもあります。『EYEVAN』ではいくつか提携している鯖江の工場があるので、例えば『磨きの作業はこの工場』など、それぞれの工場に得意分野をお願いしてつくっています。優れた職人のネットワークにより、現在まで世界基準のクオリティを実現しています」
各レーベルの代表アイテムは不動の人気、展開するショップも続々登場
――では、代表的なプロダクツの紹介をお願いできますか?
川崎「クラシックなモデルである『EYEVAN』E-0505は、レーベルを代表するモデルで、金具はチタンにアップデートされていますが、デザインは初期から変わっていません。メガネのフレームは大きく『メタル』と『プラスチック』の2つに分けられるのですが、その2つの素材では生産過程が全然違うんです。これはそんな2つが組み合わさった、“良いとこ取り”のモデル。プラスチックのカジュアル感にメタルの重厚感が合わさった、当時はとても斬新なデザインでした。世界を見てもメタルとプラスチックのコンビはなく、1985年のアメリカでの展示会でもかなり評判の良かったアイテムです。優れた技術をもつ日本だから生まれたデザインだと思います」
――プラスチックとメタルのコンビのフレームは、今でこそ見慣れた感じがしますが、パイオニアは「EYEVAN」だったんですね!
川崎「こちらの『EYEVAN 7285』は『EYEVAN』より値段が高く、ハイラインにあたります。メガネを作ることにおいて、コスト面や製造の効率化を考えていかなくてはならないのですが、“もっと自由に、とにかく良いものを作る“という信念のもとにつくられたレーベルなんです。そのため、必然的に値段は高くなってしまいます。例えば”蝶番“といわれるフレームとテンプルをつなぐ金具があるのですが、普通ならもともとある規格のなかから選ぶわけですが、『EYEVAN 7285』は、これをオリジナルでつくっている。蝶番だけではなく全てのパーツをオリジナルでつくることもあります。『EYEVAN』のデザインは基本的にクラシックなものなので際立った部分があるわけではないんですが、細部にわたるまで徹底してつくりこまれているのが特長です」
川崎「『10 eyevan』(10 アイヴァン)には、“美しい道具”というはっきりしたコンセプトがあります。メガネはだいたい10個のパーツからできているのですが、その一つひとつ一番良いものを集めてできたメガネが『10 eyevan』。デザインはシンプルなのですが、例えばノーズパッドが“シェル”(貝)になっていることも。これは奈良の貝ボタンを加工する会社につくってもらい、鯖江でアッセンブル(組み立て)しているためです。更にテンプルエンドに“シルバー925”(一般的にシルバーといわれるアクセサリーで使われている素材)などを使っています。あとは、“トルクスねじ”(六角星型のねじ)もチタンでオリジナルをつくっています。これはiPhoneなどの精密機械にも付いていることが多く、少ない力で締めやすく緩みにくいのが特長。フレームもチタンなのですが、ネジもチタンでつくるのは珍しいことなんです」
川崎「これは『10 eyevan』の『No.6 BR』というモデルで、フレームはセルロイドなんです。プラスチックフレームというと、今はアセテートが多いのですが、デッドストックのセルロイド素材を使っています。70年代、80年代にはセルロイドがよく使われていたのですが、今はなかなか手に入りづらい素材になっています。また、このモデルの金具は“シルバー925”。なるべく天然のものを使いたいと思っていまして、ノーズパッドもシェルでできています。使いこなした感じになっても、楽しんでいただけるモデルです。『10 eyevan』は人気のレーベルですが、1本目として買われる人はあまりいないんです。“玄人向け”というわけではありませんが、メガネが好きでこだわりがある方が愛用しています」
川崎「「E5 eyevan」(E5 アイヴァン)は一番最近できたレーベルで、まだ2シーズンめです。機能性に特化したレーベルで、かけ心地が良くて曲げてもOK、肌にあたる部分はシリコンを使っているので滑りにくかったり、軽さと快適さを感じられるレーベルです。あと、ひとつ変わった特長がありまして、ネジが下から入っていて緩まないようにできているんです。特殊構造になっていてネジが万が一外れてもテンプルが外れなかったりなど、細かいところにもこだわりが詰まっています」
ライフスタイルを楽しむためのレーベル「Eyevol」
川崎「『Eyevol』は2017年にスタートしたライフスタイルを楽しむためのレーベルです。スポーツテイストのサングラスにはあまりないようなクラシックなデザインを取り入れながら、スポーツサングラスの機能性をもたせています。レーベル名は『EYEVAN』と『Evolution』をかけ合わせました。『EYEVAN』のほかのレーベルとの一番の違いは素材です。フレームはセルロイドでもアセテートでもなく、樹脂。型に樹脂を流しこんでつくっていくモデルで、軽いというメリットがあります。内側には滑り止めにラバーがついていて、スポーツ全般で使えるデザインになっています。ゴルフでは、かなりたくさんの方々に愛用していただいている実績があります。スポーツ以外では、釣りに出かけるときに使われる方も多いようです。クラシカルなデザインで、レンズもほかのレーベルと変わらないようなクオリティのものを使っているので、普段使いもできます。ボーダーレスに使ってほしいアイテムですね」
ロンドンにある靴屋通りのような“メガネ通り”を
――EYEVANの店舗についてお聞きしたいのですが、東京・青山の骨董通りにレーベルごとにテイストの異なるショップを複数つくられていますよね。経緯を教えてください。
八十岡「今、骨董通りには『EYEVAN』『Eyevol』『EYEVAN 7285』『THE SALON by EYEVAN(ザ・サロン・バイ・アイヴァン)の4店舗があります。『Oliver Peoples』の1号店や『EYEVAN』の本社が骨董通りにあったこともあり、弊社の会長がロンドンにあるサビルロウの靴屋通りのような、“メガネ通り”をつくりたいと思っていたようです。そこで骨董通りを選んで、次々に出店していったという経緯があります」
EYEVAN 7285 TOKYO
八十岡「続いて2017年に『EYEVAN 7285』の旗艦店をオープンしました。この店舗は『EYEVAN 7285』の美意識に基づき、空間の機能を最大限に生かすようにデザインし、旗艦店ならではの幅広い商品構成とサービスで、より『EYEVAN 7285』の世界観を体感していただけるショップになっています」
Eyevol Tokyo Store
八十岡「2017年にはもう1軒、『Eyevol Tokyo Store』(アイヴォル トウキョウ ストア)をオープンしました。『Eyevol Tokyo Store』では、白とグレーを基調としたシンプルでクリーンな空間、レーベルのシグネチャーであるミモザイエローのネオンサインがシーンレスでアクティブなレーベルの世界観を表しています。店舗中央につるされた三角柱型のユニークなディスプレイは、すべての商品を最小限のスペースで見比べることができるように工夫されたもので、快適な空間でショッピングを楽しむことを可能にしたデザインになっています」
EYEVAN Tokyo Gallery
八十岡「そして、EYEVANの旗艦店『EYEVAN Tokyo Gallery』(アイヴァン トウキョウ ギャラリー)を2021年にオープンしました。『EYEVAN』というブランドの未来を感じさせるようなデザインを試みています。商品よりむしろディスプレイするプロップのためのスペースが多く取れるようにデザインされています。店内にはフレームデザインが生まれた背景や、カルチャーに基づいたものを展示。そのメガネのスタイルに合う洋服を見せることで、実際に着用するときのイメージがよりもちやすいギャラリーとしての機能を具現化しています」
THE SALON by EYEVAN
八十岡「そして2022年に生まれた最新店舗 『THE SALON by EYEVAN』は、全レーベルを取り扱うアイヴァングループ初の予約制サロンです。お客様の要望に合わせたアイウェア選びが可能となる、アイヴァンの考える“おもてなしの場”です。パーソナルな空間で、お客様のリクエストに合わせたアイウェアを、経験豊富な専任スタッフがご案内するスペースになっています」
世界基準のものづくりや、こだわりのショップ展開など、老舗ならではの技術でクオリティの高さを維持し続ける「EYEVAN」。今後の展開が楽しみだ。
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▼話を聞いた人
伊藤孝法
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1973年北海道生まれ。中目黒の老舗セレクトショップOUTPUTオーナーで、さまざまなブランドのPRなども手がける。2014年、WWD日本のファッショニスタ100人にも選ばれ、自身のYOUTUBEチャンネル「ファッションとカルチャーとme」も更新中。