ファッション
「POST O’ALLS」デザイナーに聞く、30年変わらずに進化を続けるスタイルとは
2022.01.19
2023年に設立30周年を迎えるメンズブランド「POST O’ALLS(ポストオーバーオールズ)」。その生い立ちは、日本人デザイナー大淵毅さんがニューヨークに移り住み立ち上げたブランド。設立時から一貫して“アメリカンワークウェア”のテイストを取り入れたスタイルは、約30年経った今なお多くのファンに愛され続けています。
今回は、デザイナー・代表である大淵さんに、「POST O’ALLS」30年の歴史や、時が経っても変わらないテーマ、服づくりにかける思いについて伺いました。定番アイテムと最新アイテムを用いたおすすめのスタイリングも教えていただいたので、ぜひご参考に!
取材:TAKANORI ITO
「POST O’ALLS(ポストオーバーオールズ)」30年の歴史
―大淵さん、本日はよろしくお願いします。ブランド設立のきっかけと、これまでの経緯を聞かせてください。ニューヨークで立ち上げたんですよね?
「はい、25歳で渡米して、ブランド設立前はNYでFIT(Fashion Institute of Technology)という服飾の州立大学に通いながら、古着のディーラーとして日本に商品を発送していました。いざ就職先を探すという時になって、自分でブランドを始めた方がいいのではないか? とアドバイスされたのが設立のきっかけですね」
「NYで会社登記したのが1992年。アトリエはマンハッタンにあって、サンプルから縫製までお願いしていた工場はニュージャージーにありました。翌93年1月の『マジック』というラスベガスの展示会に初めて『POST O’ALLS』として出展したのが、オフィシャルなデビューになります。ここに93~95年位のカタログなどが残っているので、お見せしましょうか?」
―(貴重な1993年の展示会資料を見せて頂きました)すごい! この当時からポケットとか、現在の雰囲気にかなり近いですね。その後デザインをブラッシュアップして、全米で展開していったのでしょうか?
「ロゴなど今のものとは少し違うものの、原型になっていますね。はい。アメリカのブランドとして展開してきました。たまたま僕が日本人というだけで、海外からNYに来てブランドを始めるスタンダードな形をとったというか……」
―なるほど。日本で「POST O’ALLS」のアイテム買えるようになったのはいつ頃でしたか? 僕の記憶では『A BATHING APE®』とのコラボレーションあたりが最初かと思うんですが……。
「ダブルネームのスタートは、その少し前の『Labrador Retriever』とかですね。NIGOさんとのコラボは、94、95年あたりからだったと思います」
「それと、その頃はまだ日本に代理店がなかったので、アメリカの展示会に日本のバイヤーや商社が来て買いつけて行くというスタイルでしたね。日本で代理店がついて、本格的にシーズンで展示会をやるようになったのは、90年代の終わり頃です。ちなみに、現在の直営店がオープンしたのは、日本に拠点を移した2019年になります」
―日本のお店がスタートしたのは、本当に最近なんですね。
デザインのベースは1920、30年代のアメリカ
―約30年続く「POST O’ALLS」には、揺るぎない一貫したテーマみたいなものを感じます。これは譲れない! という部分はどこですか?
「ワークウェア、ビンテージ……いろいろありますが、ブランドを始める際、戦前の1920年、30年代のデザインを参考にしていました。当時はワークウェアをメインテーマとして、オリジナルデザインをやっていたブランドってなかったと思うんですが、僕がやりたいのはそれだった」
―1920年、30年代というのが、この独特な雰囲気のベースになっているんですね。
「そうですね。アメリカのいろんなモノのデザインは、1920年代位から“よりアメリカっぽくなる”イメージが僕の中にあって。インダストリアルとかアメリカンアールデコとか、ストリームラインぽいものや、マシーンエイジなんかが盛りあがっていた頃ですね。ワークウェアもそのあたりが、一番アメリカらしい雰囲気だったと思います」
―でも、「POST O’ALLS」を始められた頃って、デザインソースとして使えるような1930年代とかのビンテージは出てこない状態だったのでは?
「もちろん、当時からあまり出ては来ません……ただ、僕以外に誰もアメリカでその時代のビンテージを探していなかったのがラッキーでした。フランス人とかが、ビンテージのカバーオールにスカーフを巻いたりして、作業着ではなくお洒落着として着こなしているのは稀に見ても、ハリウッドスタイルとか50’sとかが主流で。LEVIS501XXなんかは日本の一部では流行ってましたけど、ワークウェアといえばあってもカバーオールぐらいで、古着屋さんもほとんど買いつけしていなかったんです」
―ソースになるアイテムがない中で、試行錯誤していった感じなんですね。ちなみに、近年とブランドを始めた当初のアイテムで、シルエットとかサイズとか、変わった部分はありますか?
「始めた当初の約30年前は、どこのブランドにも負けないくらい、本当にサイズが大きかった。あと、カバーオールに、当時登場したばかりのポーラフリースという素材を採用してみたり。大きいサイズに、この生地を組み合わせたい! と、ドレスシャツの生地でワークウェアをつくったり、ツイード、ウールも使っていました」
「2000年代中頃からサイズがだんだん小さくなって、一番小さかったのは、イタリアの『ピッティ』という、エンジニアードガーメンツ(同じく日本人デザイナーのNYブランド)とかも一緒に出ていた展示会に出展していた頃ですね。それ以降、また、じわりじわりと大きくなってきています」
「『POST O’ALLS』が2023年に30周年を迎えるにあたって、まだ内容をつめるのはこれからなんですが、一番最初のコレクションと同じことをやってみようかなと思ってはいます。それこそ、今のサイズ感が、その頃と近い感じになってきているので」
定番×最新アイテムのオススメの着こなしを教えて!
―昔からつくり続けている定番アイテムと、これからを担う新しいデザインのアイテムを紹介がてら、オススメのコーディネートを組んでもらうことなんてできますか?
「はい。うちの定番といえばやはりプルオーバーのシャツですね。最初、シャツはプルオーバーしかつくっていなかったほどで。それと、意外かもしれませんが、実は初期の頃から、ワークウェアのほかに軍ものもラインナップに入っていて。ネイビーパーカーとか、第二次世界大戦時の2ポケットのカバーオールとかもつくり続けていますね」
―そうなんですね。1920~30年代って、プルオーバーが圧倒的に多かったんですか?
「はい。あと、カバーオールですね。うちにも定番ラインのカバーオールがあったんですが、最近は出していなくて。これは90年代に出したものを、少し変えてリリースしたものになります」
「2000年代に入って少し経った頃から増やし始めたのが、ロガー(木こり)のワークジャケットです。うちのロガー系で見てほしいのはこれですね」
―これは、変わってますね。すごくかっこいい!どういう構造になっているんですか?
「ありがとうございます。これは1910年~20年代に実際に着られていた形で。木を担ぐから生地が二重になっていたり、ポケットとかも引っかからないようにヒヨク仕立てになっています。森林警備隊が着ていたりもするので、これもワークウェアという位置づけですね。ロガーは今も、色々なバージョンをつくっています」
「あと、うちは基本ハンティングはやらないんですけど、ハンティングベスト的なアイテムもワークウェアとして出しています。『トラベラー』という名前で、ポケットがたくさんあるタイプですね」
―このベスト、「トラベラー」という名前どおり、旅行に着ていくと本当に便利さを痛感するし、ほかでは見ない感じがすごくいいんですよね。ちなみに、新作だとオススメはどのあたりですか?
「アメリカにいた時からずっとやりたいと思っていた、カットソー生地でつくったこのトップスとパンツですね。アメリカでは良い生地がなかなか見つからなくて、日本に帰ってきてからやっと取り組めました」
―「POST O’ALLS」初心者にも着やすい、定番的なアイテムを取り入れたコーディネートも良いですね。
―定番に革新的なアイテムを織り交ぜながら、より進化している感じが伝わってきました。30周年を迎えて以降の展開も楽しみにしています。本日はありがとうございました!
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POST O'ALLS STORE
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TEL : 03-5942-1545
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公式サイト
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▼話を聞いた人
伊藤孝法
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1973年北海道生まれ。中目黒の老舗セレクトショップOUTPUTオーナーで、さまざまなブランドのPRなども手掛ける。2014年、WWD日本のファッショニスタ100人にも選ばれ、自身のYOUTUBEチャンネル「ファッションとカルチャーとme」も更新中。