2025年にインプットすべき アート展・美術展

インプットすべきエンタメ作品たち

東京には多くの美術館があるし、ギャラリーや小規模なアートスポットを含めると、さらに膨大な数になる。また常設展に加え、期間限定の企画展もあり、すべての情報を頭に入れるのは骨が折れるだろう。そこで、日々美術館を巡っているプロたちに、今年注目すべきアート展・美術展をセレクトしてもらった。

Text:SHINSUKE UMENAKA(verb)

2025.1.15

アートテラー・とに〜が選ぶ 2025年の注目アート展は?

とに〜

1983年3月生まれ。千葉県出身。元お笑い芸人。芸人活動の傍ら、趣味で書いていたアートブログが人気となり、美術の世界をわかりやすく&楽しく紹介する「アートテラー」に転向した。現在は、美術館での講演やアートツアーの企画運営をはじめ、雑誌連載、ラジオやテレビへの出演など幅広く活動している。著書に『名画たちのホンネ』(三笠書房)、『東京のレトロ美術館』(エクスナレッジ)などがある。https://ameblo.jp/artony/

大規模展が目白押し 2025年はゴッホイヤー

大規模展が目白押し 2025年はゴッホイヤー

「阪神・淡路大震災30年 大ゴッホ展 夜のカフェテラス」は、神戸市立博物館を皮切りに、福島県立美術館、上野の森美術館で開催されるフィンセント・ファン・ゴッホの大規模な巡回展だ。みどころは、日本で約20年ぶりに公開される作品を含むクレラー=ミュラー美術館所蔵の名品の数々。第1期では《夜のカフェテラス》(1888年)、《自画像》(1887年)をはじめとするゴッホ作品約60点や、同館が所蔵するクロード・モネ、オーギュスト・ルノワールら印象派の巨匠の名作が展示される。

【大ゴッホ展】
第1期
神戸会場:神戸市立博物館 2025年9月20日(土)~2026年2月1日(日)
福島会場:福島県立美術館 2026年2月21日(土)~5月10日(日)
東京会場:上野の森美術館 2026年5月29日(金)~8月12日(水)

とに〜

2025年は何と言ってもゴッホイヤー。《夜のカフェテラス》が20年ぶりに来日する神戸市立博物館ほかで開催される『大ゴッホ展』を筆頭に、東京都美術館での『ゴッホ展』、ポーラ美術館では『ゴッホ・インパクト(仮)』が予定されています。毎年のようにゴッホの展覧会は開催されていますが、ここまで重なるのは異例なことです。

独特の技法でパリの人々を魅了した 藤田嗣治

東京ステーションギャラリーで開催される「藤田嗣治 絵画と写真」は、国際的に活躍した画家・藤田嗣治の絵画制作を「写真」を通じて再考する展覧会。藤田の写真活用のプロセスを検証しつつ、日本とフランスに現存する彼の写真を数多く展示する。また、写真と絵画によって重層的かつ巧妙に演出された藤田自身のイメージにも注目し、描くこと、そして撮ることを行き来した「眼の軌跡」を追いかける展示となっている。

【藤田嗣治 絵画と写真】
会場:東京ステーションギャラリー
会期:2025年7月5日(土)〜8月31日(日)

とに〜

ゴッホと並んで、展覧会が多いのが藤田嗣治です。生誕140周年ということで、東京ステーションギャラリーやSOMPO美術館では個展が、そして兵庫県立美術館では国吉康雄との2人展が開催されます。世界初の藤田嗣治の作品だけを展示する美術館である軽井沢安東美術館も3周年を迎えるのでそちらにも注目したいですね。

美術ライター、浦島茂世が選ぶ 2025年の注目アート展は?

浦島茂世

美術館訪問が日課の美術ライター。主な著書に『改訂新版 東京のちいさな美術館めぐり』『企画展だけじゃもったいない 日本の美術館めぐり』(ともにジービー刊)や『パブリックアート入門』 (イースト・プレス刊)などがある。AllAbout 美術館 オフィシャルガイドも務めている。

抽象画の先駆者として評価が高まる アフ・クリントの大回顧展

抽象画の先駆者として評価が高まる アフ・クリントの大回顧展
抽象画の先駆者として評価が高まる アフ・クリントの大回顧展

ヒルマ・アフ・クリントはスウェーデン出身の女性画家。従来、抽象画の先駆者は、ワシリー・カンディンスキーや、ピート・モンドリアンだと言われていたが、彼女がそれより前に、抽象画を描いていたとして、近年注目が集まっている。本展では、高さ3mを超える10点組の絵画〈10の最大物〉(1907年)をはじめ、すべて初来日となる作品約140点が出品される。

【ヒルマ・アフ・クリント展】
会場:東京国立近代美術館
会期:2025年3月4日(火)〜6月15日(日)

浦島茂世

ヒルマ・アフ・クリント(1862〜1944)は、スウェーデン出身で女性の画家。彼女は、抽象画の先駆者とされるワシリー・カンディンスキーや、ピート・モンドリアンよりも早く、抽象絵画を描きはじめた画家として、21世紀に入り、俄然注目されるようになってきています。ニューヨークのグッゲンハイム美術館やロンドンのテート・モダンなどでも展覧会が開催されています。東京国立近代美術館で開催される「ヒルマ・アフ・クリント展」は、そんな彼女のアジア初となる大回顧展です。すべて日本初公開となる140点の作品が展示される予定だとか。彼女がスピリチュアリズムに傾倒したという部分も含めて気になっています。

初期から晩年まで 90歳になってもアートを追求した ミロの大回顧展

初期から晩年まで 90歳になってもアートを追求した ミロの大回顧展
初期から晩年まで 90歳になってもアートを追求した ミロの大回顧展

1893年にスペインのカタルーニャ州に生まれたジュアン・ミロは、同郷のピカソと並んで20世紀を代表する巨匠に数えられている。太陽や星、月など自然の中にある形を象徴的な記号に変えて描いた、詩情あふれる独特な画風は日本でも高い人気を誇る。本展は、〈星座〉シリーズをはじめ、初期から晩年までの各時代を彩る絵画や陶芸、彫刻により90歳まで新しい表現へ挑戦し続けたミロの芸術を包括的に紹介。世界中から集った選りすぐりの傑作の数々により、ミロの芸術の真髄を体感できる空前の大回顧展になっている。

【ミロ展】
会場:東京都美術館
会期:2025年3月1日(土)〜7月6日(日)

浦島茂世

ピカソやダリと並んで、20世紀のスペインを代表する画家として知られるジュアン・ミロ(1893〜1983)は日本でも大人気です。1970年の大阪万博のガス・パビリオンでは陶板壁画も発表しています。そんなミロの没後40年を記念する回顧展。彼の初期の作品から晩年までの作品を包括的に紹介し、鮮やかな色彩や、自由な線などが特徴のミロの表現を辿っていきます。とくに気になるのが第2次世界大戦中に描かれた〈星座〉シリーズ。かわいらしくて、でもスキのない絵がたまらなくよいのです。

美術ライター、杉原環樹が選ぶ 2025年の注目アート展は?

杉原環樹

ライター。1984年東京都生まれ。武蔵野美術大学大学院美術専攻造形理論・美術史コース修了。出版社勤務を経て、現在は美術系雑誌や書籍を中心に、記事構成・インタビュー・執筆を行う。主な執筆媒体は、美術手帖、Tokyo Art Beat、アーツカウンシル東京など。また、artscapeで連載「もしもし、キュレーター?」の聞き手を担当中。構成を担当した主な書籍に『水曜日のアニメが待ち遠しい:フランス人から見た日本サブカルチャーの魅力を解き明かす』(著・トリスタン・ブルネ/誠文堂新光社)がある。

アート界を飛び越え 社会を横断的に活躍する 日比野克彦に迫る

アート界を飛び越え 社会を横断的に活躍する 日比野克彦に迫る

1958年生まれの日比野克彦は、東京芸術大学在学中に「段ボール」を用いた作品で注目を集めた。その後、国内外で個展やグループ展を開催する傍ら、舞台美術やパブリックアートにも積極的に関わるようになる。そして、2022年には東京藝術大学学長に就任。そんな日比野の黎明期から、子どもを含む他者との協働、地域社会における芸術実践、館長/学長としての変革的プロジェクトまでの、多岐にわたる活動を「手つき」をキーワードに検証する。

【日比野克彦展(仮称)】
会場:水戸芸術館 現代美術ギャラリー
会期:2025年7月19日(土)~10月5日(日)※予定

杉原環樹

日比野克彦は、1980年代に段ボールを使った作品で注目され、メディアでも活躍した、現在の「アーティスト」像の先駆け的な存在。他方、とくに2000年代からはそのスター性を相対化し、市民や地域、多様な背景を持つ人と深く関わるアートプロジェクトを多数展開してきた。そんな日比野の2022年の東京藝術大学学長就任は、現在の社会と美術の関係を象徴する出来事でした。今回の個展ではそんな時代性の変化を俯瞰できるのでは、と期待しています。

アート界を飛び越え 社会を横断的に活躍する 日比野克彦に迫る

【ヒルマ・アフ・クリント展】
会場:東京国立近代美術館
会期:2025年3月4日(火)〜6月15日(日)

杉原環樹

抽象画の始祖と言えば、従来はカンディンスキーやモンドリアンらを挙げるのが通例だったが、近年彼らに先立つ先駆性が指摘されているのがスウェーデンのヒルマ・アフ・クリント(1862〜1944)。ニューヨーク開催の2018年の回顧展は記録的な動員に。男性優位の美術界で見落とされていた女性の画家の足跡に世界が目を向けた。アジア初の回顧展には代表作が贅沢に並ぶ。抽象画に至る背景含め、その作品世界を知る絶好の機会です。

Tokyo Art Beat編集長・福島夏子が選ぶ 2025年の注目アート展は?

福島夏子

アートメディア「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。Tokyo Art Beatは年間1万件以上の日本全国の展覧会情報やアートに関するニュース、インタビュー記事を公開している日本屈指のアートメディア。

中東のアートシーンに 触れることができる貴重な機会 愛知で開催される国際芸術祭

中東のアートシーンに 触れることができる貴重な機会 愛知で開催される国際芸術祭
中東のアートシーンに 触れることができる貴重な機会 愛知で開催される国際芸術祭

2010年から3年ごとに開催されていた「あいちトリエンナーレ」がタイトルを改め、国際芸術祭「あいち」となって、今回で2度目の開催。今回はアラブ首長国連邦出身でシャルジャ美術財団理事長兼ディレクター/国際ビエンナーレ協会(IBA)会長を務めるフール・アル・カシミが芸術監督となり、現代美術では、バゼル・アッバス&ルアン・アブ゠ラーメ、マイサ・アブダラ、ジョン・アコムフラ、マリリン・ボロル・ボール、札本彩子、是恒さくら、加藤泉らが参加し、パフォーミングアーツには、AKNプロジェクト、ブラック・グレースらがパフォーマンスを行うなど、世界中からアーティストが参加する。

【国際芸術祭「あいち2025」】
会場:愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、瀬戸市のまちなか
会期:2025年9月13日(土)〜11月30日(日)

福島夏子

愛知県で3年に1度開催される現代アートの祭典で、国内外の先鋭的な作品を体験することができます。今回の芸術監督を務めるフール・アル・カシミはアラブ首長国連邦をはじめ中東や世界のアートをつなぐ支援者として知られ、アート界の影響力ランキング「Power 100」2024年版で第1位に選出されるほどの有力者。そんな彼女が日本でどのような展示を見せてくれるのか。絶えない戦争や環境危機の時代にアートを通してどんな応答がなされるのか、期待しています。

中東のアートシーンに 触れることができる貴重な機会 愛知で開催される国際芸術祭

【ヒルマ・アフ・クリント展】
会場:東京国立近代美術館
会期:2025年3月4日(火)〜6月15日(日)

福島夏子

まさか個展が日本で開催されるなんて!という待望の展覧会。アートの世界では、これまで存在が見過ごされてきた作家たちに光を当てることが国際的なトレンドです。そうした再評価の文脈でもっとも注目を集める画家のひとりが、スウェーデン出身のヒルマ・アフ・クリント。抽象絵画の創始者といえばカンディンスキーやモンドリアンが有名ですが、じつは彼らに先駆けて抽象絵画を創案した画家こそが彼女です。代表作と言える3m超えの10点組絵画の来日は超貴重。神秘主義思想や女性運動との関わりにも注目です。