1960年代のジャマイカを発祥とする、「裏拍」で刻んだリズムが印象的な音楽ジャンル「レゲエ」。軽快なリズムとバイブスは聴く人を開放的な気分にさせてくれ、今や世界中で、特に夏に愛される音楽となっている。そのレゲエというジャンルをJ-POPに浸透させたのが、2003年にデビューした湘南乃風だ。それから20年、今の日本のレゲエは、彼らの目にどう映っているのか。
HAN-KUN 今から15年ぐらい前、ジャマイカ由来のレゲエと日本語がうまく混ざり合って、いろんな人が聴きやすくなった“ジャパニーズレゲエ(ジャパレゲ)”というワードが広まりました。僕らもその渦中にいたわけですが、それから時代を経てジャンルとしては良くも悪くもあまり定着しなかったように思います。僕らのバックホーンには必ずジャマイカのレゲエがあるんですが、湘南乃風のサウンドはどちらかといえば“ジャパ”の部分が強い。だからこそ振り切ってレゲエをやっているときよりも受け入れてくれる人が増えたと思っています。そして、レゲエというジャンルのグループよりも、“湘南乃風”として受け入れてもらって、今がある。レゲエとは、サウンドというよりもジャマイカの人々が持つ反骨精神や仲間を大切にする意識。そういうものを日本語に置き換えて伝える道をまっ直ぐに歩いてきたのが、僕たちですね。
日本におけるレゲエというジャンルを語る上で、またJ-POPシーンにおいて欠かせない存在となった湘南乃風だが、「まさか20年も活動できるとは思っていなかった」と言う。
RED RICE 20年やっている中で何度か「もうダメかな」と思ったことはありました。コロナ禍でツアーができなくなって、次にお客さんが声を出せないライブをやって、「2度と満席の会場で歌えないのか」と思って、グループとしてまとまる術を見失いかけたというか。でもコロナ禍だからこそ自然と出てきたメッセージを1曲1曲に入魂してつくりながら20周年に向かったからこそ、今まとまれている部分もあります。
若旦那 自分は曲づくりの時間もできたし、割とコロナを前向きに捉えていたほうです。湘南乃風を続けることは自分にとって人生の勉強の場だから、これを辞めてしまうのは人生を辞めてしまうのと同じ。逃げ出すのは簡単だし、カッコよく辞めたくもなかった。辞めるときは、ボロボロになって辞めたいんですよ。でも、ファンの方々がなかなかボロボロにさせてくれなかったから、人生の成長の場に向き合ってこれたんだと思います。
“周年”を迎えるグループにはよく「これまで続けてこれた秘訣」を聞くが、どのグループも「確たるものはない」とその回答には首をひねる。それを承知でまたこの質問をぶつけてみた。
SHOCK EYE ただシンプルに、「このメンバーだったから」だと思います。「もうダメかも」と思ったときに続けるための力を発揮したメンバーはその都度違ったし、ひとりが「やめよう」と思った気持ちが回りまわって続ける力になったこともある。いろんな場面が思い出される今、続けられたのは「この4人だったから」としか言えないですね。
彼らの盟友とも言える日本を代表するレゲエグループである、Mighty Crownが活動30周年を経て、この夏で活動休止する。
若旦那 それぞれ事情もあるし、次の展開もあるんだろうけど、仲間が活動休止や解散という話を聞くとやはり淋しいですね。湘南乃風は2023年でデビュー20周年を迎えるけど、たまたま20年で、19年も21年も22年も変わらない。“周年”を目標にするのも違うと思うし、“今”を切り取ったものを1回1回表現していくことが一番大事だと思う。だから、横浜スタジアムにて20周年記念ライブ(湘南乃風 二十周年記念公演「風祭り at 横浜スタジアム〜困ったことがあったらな、風に向かって俺らの名前を呼べ! あんちゃん達がどっからでも飛んできてやるから〜」)は、その前の週にやったライブと気持ちは変わらないと思います。周年ライブの「そこにやる気を出す」って言ったら、1本1本のライブに失礼だし。
SHOCK EYE 周年は“振り返る時間”という感じだね。
HAN-KUN 「ファンの人たちが俺たちの“周年”を祝ってくれている、と勘違いしがちだけど、逆だからね。「俺たちに付き合ってくれてありがとう」という気持ちですね。
メジャーデビュー20周年を記念した3枚組ベストアルバム「湘南乃⾵〜20th Anniversary BEST〜」は、それぞれ異なる3つのテーマで構成。ジャケットは、バスケットボールのユニフォーム姿や、新橋の飲⾷店で「仕事終わりに⼀杯」のイメージ、夜の街の匂いを漂わせる装いで歌舞伎町⼀番街⼊⼝を闊歩する姿など、ビジュアルにもこだわっている。
SHOCK EYE 僕らはCDやDVDを買ってきた世代なので、今この時代にCDとしてリリースするからには盛りだくさんにしたいというのもあるし、そもそも入れたい楽曲がたくさんあるんですよ。だから自分たちが入れたいもの、スタッフが選んだもの、ファンの人気が高いもの、「全部入れ」にしようかと。それを旦那(若旦那)が、3つのディスクにしてそれぞれ名前つけるのはどうかと提案してくれて、それぞれに合う楽曲を入れました。
若旦那 俺たちの曲って、エリートサラリーマンの歌じゃなくて、どこか思うようにいかない悔しさとか増していく孤独感とかを抱えていて、それを引きずりたくなくてガード下で酔っ払うみたいなイメージで、そのイメージの「新橋」。あとは湘南乃風の曲はギラギラしてて長いものに巻かれない強さを歌っているし、お世話になった「龍が如く」シリーズ(セガのアクションアドベンチャーゲーム)のテーマソングが多くあったので、それをイメージする「新宿」。さらに“夏は湘南”というイメージで「湘南」の3枚にした感じですね。
HAN-KUN やっぱりベスト盤ってみんながいいと思うものを入れたかったんですよね。自分たちだけだと偏っちゃうから。テーマに合った楽曲たちがうまく入っていると思っています。
RED RICE 湘南乃風が歌ってきたものは「勝ち負けではない世界の美しさ」。それがこのアルバムの中には詰まっていると思うし、これからもそれをちゃんと歌っていきたいという思い、それだけですね。