三宿・ホープスモアでヴィンテージなアイリッシュセッターを

三宿・ホープスモアでヴィンテージなアイリッシュセッターを

「靴」が汚い人は出世しない。そんな言説がある。真偽のほどは定かではないが、それだけ足元の身だしなみが、第一印象を左右するということなのだろう。「クラシック」なファッションスタイルに合わせる「靴」にも、同じようなことが言える。せっかく全身をクラシカルなアイテムで固めても、靴がスニーカーだったり、深みのない革靴だったりすると、それだけで減点の対象になる。ここはエイジングというブーツの経年変化でコーデを強化する。そんなブーツと出会うため、世田谷区三宿にあるホープスモアを訪ねた。

Photos:TATSUYA YAMANAKA(stanford)
Styling:YONOSUKE KIKUCHI
Hair&Make:KAZUYA MATSUMOTO
Model:LIM
Text:NAGISA ANDO(verb)

海外からバイヤーも訪れるヴィンテージブーツ店の草分け
海外からバイヤーも訪れるヴィンテージブーツ店の草分け

池尻大橋と三軒茶屋の中間地点にある、三宿エリア。最寄りの両駅から距離があるためか、喧騒とは無縁で、都市部にありながら、落ち着いた雰囲気が漂う街だ。カフェや居酒屋もひとクセある、個性的なお店が集まっていることでも知られる。そんな三宿の交差点からすぐのところに目指すホープスモアはある。

表通りからは店内が奥まで見通せず、どんなお店なのか、把握しづらい。しかし、扉を開けると、驚きの光景が広がっている。隙間なく並んだヴィンテージなブーツたち。ストックは3000足以上にのぼる。とくにレッドウィングのブーツの品揃えに定評があるのだ。その評判は海を超え、アジアや欧米からデッドストックやレアな一足を求めて訪れるバイヤーも多いという。

ただ、ここに至るまでには、試行錯誤の連続だったと、オーナーの福嶋紀彦さんは語る。

「中学生の頃から、洋服に興味を持ち出して、気づいた代々木公園のフリマに顔をだすようになりました。大学生になり、カナダに留学したことで、現地で安く仕入れた古着を日本の古着屋さんに卸すビジネスをしはじめたのが、いまの原点です。個人的に古着のなかでも靴に興味があったので、思い切って中古ブーツに照準を定めることにしました。同じものが大量に陳列されている光景に憧れがあったんです。ヤフオクの黎明期でもあったので、どうにかして注目を集められないものかと、最大で20文字まで登録できたタイトルに知恵を絞っていたのが、よい思い出です」(福嶋紀彦さん)

ブーツの小さな変化を見逃さず付加価値として発表
ブーツの小さな変化を見逃さず付加価値として発表
ブーツの小さな変化を見逃さず付加価値として発表

古着の市場で付加価値が認められ、ヴィンテージとして流通していた代表的なアイテムがジーンズだ。ダブルエックス、赤耳など、時代によってディテールが異なり、色落ちも経年変化としてポジティブに受け入れられていた。対するブーツの中古市場は、まだ成熟していなかったという。

「レッドウイングの創業は1905年。100年以上が経過していたものの、知識を持ち、ヴィンテージブーツの価値を評価できる先人がほとんどいませんでした。だから、たくさんのブーツを自分で扱いつつ、この年代は使っているレザーが違う、バックルがある、タグのデザインが変化しているなど、研究していく必要がありました。評価軸を発見したら、ヤフオクのタイトルにそのキーワードを盛り込んで、世に送り出す。かつてのジーンズの蘊蓄のように、自分の研究結果を披露して、みんなに知ってもらう。続けるうちに少しずつ、反響が出るようになりました」(福嶋紀彦さん)

雑誌で記事を見た人が、ブーツにもヴィンテージがあることを知り、下駄箱に眠る自分のブーツでディテールを確認する。そして、価値に気づき、ヴィンテージのブーツというジャンルが誕生する。その場に立ち会っているという実感に震えたのだ。

どうしてもほしかった思い出のエンジニアブーツ
どうしてもほしかった思い出のエンジニアブーツ

そんな福嶋さんの思い出の一足は、レッドウイングのエンジニアブーツだ。高校の修学旅行で訪れたカナダで、とある作戦を実行したという。

「当時は円高だったこともあり、カナダでレッドウイングのエンジニアブーツが破格の値段で売っていました。高校生でお小遣いも少なく、どうしても買って帰りたいと思っていました。でも、団体行動だし、ひとりでお店に行く時間もない。そこで移動のバスをなんとか一時停車させ、ダッシュでショップに走りました。紙袋を持って戻るとバレてしまうので、履いていたローファーは捨て、エンジニアブーツでみんなの元に戻りました。だから修学旅行の集合写真で、僕だけエンジニアブーツを履いているんですよ」(福嶋紀彦さん)

どうしても手に入れたい。その情熱から生まれた大胆な行動が、その後の人生にも大きな影響を与えたのだ。モノへの愛情、熱量がいまでも福嶋さんの胸に刻まれているのかもしれない。

「少しでもブーツに興味がある人には、中古で買ってみるのもありだと教えたいですね。価格もそこまで高騰しているわけではありませんから。これだけ程度の良い中古のブーツがあるということは、サイズ選びに失敗して、買ったもののすぐに手放した人がたくさんいるからじゃないかと思っています。興味があるなら、一度、試着して、とにかく履いてみる。そうやってヴィンテージのブーツを気軽に楽しんでみてもらいたいですね。そのうえで経年変化(エイジング)が味わえると、さらに楽しめるはずです」(福嶋紀彦さん)

クラシックなファッションにあわせたい選ブーツ
ワークテイストなエイジングが楽しめる一足
ワークテイストなエイジングが楽しめる一足

1905年にレッドウィング社を創業したチャールズ・ベックマンにちなんで名付けられた「ベックマンブーツ」。フェザーストーンレザーを使ったベックマンは一度廃盤になり、エクスカリバーという新しいレザーを使って再発されたモデルだ。艶感のあるエイジングが楽しめるフェザーストーンレザーとは異なり、履きこむほどにラフな味わいが出てくる。

レッドウィング「9419 ベックマン ブラックチェリー」50,380円

ブラッククロームを採用したプレーントゥモデル
ブラッククロームを採用したプレーントゥモデル

もともとレッドウィングの「8165」という品番は、茶色のガラスレザーのモデルに当てられていた。それが廃番となり、1995年にスタイルを継承し、レザーを黒に変更した、こちらが誕生した。ブラッククロームを採用したプレーントゥモデルで、クラシックなコーディネイトにも合わせやすい。

レッドウィング「8165」50,380円

長く愛されるワークブーツの代名詞
長く愛されるワークブーツの代名詞

「キング・オブ・ワークブーツ」と評されるレッドウィングのエンジニアブーツ。足首をしっかりとホールドする太いベルトや、衝撃から足先を守ることができる厚いスチールトゥなど、高い耐久性を誇るディテールが愛される秘密。ホープスモアなら豊富なサイズが揃っているので、ジャストフィットの一足がきっとみつかるはず。

レッドウイング「2268 エンジニアブーツ」97,900円

DATA

ホープスモア

東京都世田谷区三宿1-1-19梓ビル1F
TEL: 03-6414-8683
営:11:00〜19:00
定休日:月