井浦新
Life Is Strange

名もなき花や雑草にも色彩があるあらゆることから刺激を受け明日への糧に

日常から解放され、
見たことがない景色やご当地の味覚を楽しむ。
そして新しい出会いもある。
旅の醍醐味をあげれば、キリがない。

ただし、何を感じ、どう楽しむかは
その人に委ねられる。

好奇心の赴くまま、全国各地を訪ね歩く井浦新さんに
旅、そして釣りについて聞いた。

Photos : TATSUYA YAMANAKA(stanford)
Styling : KENTARO UENO
Hair&Make : NEMOTO(HITOME)
Text : SHINSUKE UMENAKA(verb) 2022.11.15
Special Interview ARATA IURA

人に迷惑をかけない範疇で小さな小さな旅を楽しむ日々

本誌への登場は3年ぶり、3度目となる井浦新さん。俳優業の傍ら、ディレクターを務めるアパレルブランド「ELNEST CREATIVE ACTIVITY」では、“旅”を重要なキーワードにしていると以前のインタビューで語っていた。そんな“旅”を絶たれてしまった期間、どう過ごしていたのだろう?

「船や飛行機、電車などを使って、大きく移動することだけが旅じゃない。カメラを持って、いつもは通らない近所の道を歩いたり、急いでいる時には入らない路地を抜けたり、そうやって身近にあるものを目にすることは僕にとって足元を見つめる良い時間でした。人に迷惑をかけない範疇で小さな小さな旅をたくさんしていました。だから、これまでのような旅に行けなくても、ストレスは溜まらなかったです」

こうした小さな小さな旅も洋服づくりにフィードバックされるのだという。

「目の前にある風景を見ても、そこにはさまざまな色彩があり、刺激を受けます。足元に咲いている名もなき花でも、雑草の色でも、十分に僕の心を潤してくれます。その経験を自分のフィルターを通して、クリエーションに変換させていたと思います」

日常が戻りつつある中、今後、行きたい旅先を尋ねると、熟考したあとに屋久島を挙げてくれた。

「旅の思い出だらけなので、選ぶのは難しいのですが、行き足りていないと思うのが、屋久島です。屋久島と聞くと、森や縄文杉の巨木を思い浮かべる人が多いと思います。でも、実際に島に足を踏み入れて感じるのは宇宙なんです。杉苔をひとつとってもふかふかとした生命力があり、倒れた木さえも命に満ちています。『倒木更新』というんですけど、倒れている木も死んでおらず、そこから新しい芽が出てきます。目にしている景色の中すべてに命があり、それがずっと連なっている。だから屋久島では山に入ったのに、宇宙を感じるんです。言葉にすると、スピリチュアルな話をしているみたいで、伝わらないのですが、一度、足を運んでもらえると理解してもらえるはずです」

そう言って、表情を崩した井浦さん。

井浦新

ポケットがたくさんついたユーティリティなベストは旅の定番アイテム

ファッションモデルとしてキャリアをスタートさせ、俳優の道へ。そしてブランドのディレクターも務める井浦さんに都会的なイメージを抱く人もいる。しかし、その素顔はフットワークが軽く、旅や登山に出かけるアウトドア派なのだ。海釣りもよく楽しむという。

「釣りは、自然を遊ぶための手段。堤防、磯、船釣りなど、海で釣ることが多いです。でも今後、挑戦してみたいのは、渓流でのフライフィッシング。山にはよく行くのですが、登山に夢中で、釣りをするために、川に立ち寄る余裕がありません。縦走をして泊まりがけで登山したり、テント泊なんかをすれば、釣りと両立できるかもしれないのですが、今は登って下りるだけで1日が終わってしまいます」

こうした趣味の時間に加え、近年は環境に配慮したヘアケア製品の開発や文化財修復保護のサポートなども行っている。充実した毎日を送る秘訣は、今興味があることを丁寧に楽しむことだという。

「俳優業とのバランスを意識的に取っているわけではありません。旅がしたいときは旅をします。そのなかで出会いがあったり、感動があったり、日常のなかで、好きなことができる時間があるなら、する。もちろん、仕事もある。だから、あまり計画を立てず、その瞬間、瞬間を生きています。その連続ですね」

気になることがあれば日本全国、どこへでも出向き、身を投じる。そこでの経験や出会いが、創作や人生の糧になる。移動の多い井浦さんが旅に欠かせないものと語るのが、ベストだ。

「カメラを片手に歩くので、余計なものを持ちたくないんです。でも、細々とした道具も携帯したいので、ポケットがたくさんついたユーティリティなベストを着るのが実用的です。バッグのなかに忍ばせるという手もあるのですが、使いたい時に、いちいち取り出すのは不便。ベストならすぐに取り出して、用が終われば仕舞えます。だからベストは僕にとって旅の定番ウェアです」

カメラのレンズカバーや、替えのSDカード、予備のバッテリー。それにスマホなど、ちょっとした物を一時的に仕舞うのに、ベストは最適解だ。その思いを込め、今回のファッショングラビアでは、すべての衣装にベストをコーディネートしている。

井浦新

自分の限界に挑戦する苦悩と喜び柴田恭兵さんとの魂の共演は新たな代表作に

そんな井浦さんが、「自分の限界を突破する」現場になったと断言するWOWOW『連続ドラマW 両刃の斧』が、現在、絶賛放送・配信中だ。柴田恭兵さんとのW主演となる本作では、情に厚く、不器用な刑事役を熱演している。誰もが憧れる先輩俳優との共演、しかも刑事ドラマのオファー。考える余地もなく快諾したものの、脚本を読んで自分に演じ切れるのかと、難易度の高い役柄にたじろいだという。

「柴田さんと、この内容でがっちりと芝居をさせてもらえるなんて、ありがたい。でも、その幸福、喜びを手に入れるために、登るべき山は果てしなく高いと感じました。まったく頂上が見えない山で、どのようにアプローチしていけばいいのか、道さえも見えない。そんな役柄でした。魂を削りながら、一歩一歩、登るような日々で、“自分の限界を突破する”と、現場でことあるごとに自分に言い聞かせていました。ただ、これまでにない表現にチャレンジできる作品でもあります。とにかく自分の今、この瞬間のマックスを常に超えていきたい、そんな撮影になりました」

井浦さんが演じる川澄は、柴田さんが演じる先輩刑事・柴崎を人生の師と慕い、家族ぐるみの付き合いをしていたが、ひとつの事件をきっかけにそれが変容していく。怒りや憤り、哀しみ、そして疑念など、複雑な感情が入り乱れながら、二人の関係は怒涛のクライマックスへと突き進む。

「ハイライトのシーンは、本当に大変な二日間で、あまり記憶がないほど壮絶な撮影でした。倒れてもいいやと思いながら演じていましたが、共演者の方々からは勇気をもらいました。とくに目の前にいた柴田恭兵さんは一番がむしゃらで、夢中にやってらっしゃる姿が刺激的でした。その姿勢に励まされ、へばっていられないぞという気持ちになったのを、よく覚えています」

緊張感に満ちた二人の魂の共演は見どころ十分だ。

「見どころはたくさんありますが、見たことがないような柴田さんのお芝居が各話、続いていきます。心を揺さぶられるような本当に素晴らしいシーンばかりです。恭兵さんのお芝居というか、壮絶な生き様にきっと心をわしづかみにされると思います。ほかの俳優さんもすばらしい方が集まっているので、一人ひとりの芝居を見るだけでも見応えがあります。それをぜひ楽しんでもらいたいですね」

柴田さんはもちろん、井浦さんの新たな代表作になるといっても過言ではないだろう。

Information
井浦新 vs 柴田恭兵
愛と憎しみが交差する慟哭のサスペンス

「連続ドラマW 両刃の斧」

捜査一課の刑事・柴崎(柴田恭兵)の娘が刺殺体で見つかった。柴崎を人生の師と仰ぎ、家族ぐるみの付き合いがある後輩刑事の川澄(井浦新)とともに事件の真相を追うが、警察組織を挙げての懸命な捜査も虚しく事件は迷宮入りに。それから15年後、刑事を引退した柴崎は重い病を患う妻・三輪子(風吹ジュン)の看病をしながら静かな余生を過ごしていた。そんなある日、未解決事件の再捜査を専門とする「専従捜査班」が立ち上がったことで事態は動き始める。川澄も再捜査に加わり、事件を洗いなおすなかで、犯人と目される男の存在が浮かび上がってくる。一方、独自に真相を追う柴崎だったが、一本の電話をきっかけに、彼自身に「ある嫌疑」がかけられることに。

原作:大門剛明『両刃の斧』(中公文庫) 監督:森義隆 脚本:鈴木謙一 音楽:大間々昴 出演:井浦新 柴田恭兵/奈緒 坂東龍汰/高岡早紀 風吹ジュン

【放送】毎週日曜 午後10:00[第一話無料放送]【WOWOWプライム】【WOWOW 4K】
【配信】各月の初回放送終了後、同月放送分を一挙配信[無料トライアル実施中]【WOWOWオンデマンド】
番組特設サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/ryojin/

井浦新
プロフィール
井浦 新(いうら あらた)
1974年東京都生まれ。98年に映画『ワンダフルライフ』で初主演。以降、映画を中心にドラマ、ナレーションなど幅広く活動。また、アパレルブランド「ELNEST CREATIVE ACTIVITY」のディレクターを務める。2022年9月「健康にも環境にも良い」を揺るぎないコンセプトに、デザイン・香りにもこだわった、ライフスタイルをアップデートするプロダクトブランド「Kruhi」をローチンした。https://twitter.com/el_arata_nest