ひとつのことを突き詰めるのと
ルーティンで動くのが好き
DEEN結成25周年にあたる2018年7月に放映された「マツコの知らない世界」では“そば愛”を熱く語り、紹介したそば店は大反響、スーパーからそばの乾麺が消える、などの“現象”を引き起こした池森さん。現在も再び同番組に出演したり、そばに特化した自身のYouTubeチャンネルを開設したり、メディアを賑わしている。
しかしDEENがデビュー曲の「このまま君だけを奪い去りたい」から次々にヒットを飛ばした1990年代は、テレビ出演、雑誌のインタビューなどでその姿を見ることは稀だった。
プロデューサーの意向で、当時はほとんどメディアに出なかったですね。未だに「DEENって本当にいたんだ」っていわれるくらい(笑)。でもそのおかげで、デビュー28年目ですがまだ新鮮に思っていただける部分もあるのでよかったと思う。
“そば愛”を語った「マツコの知らない世界」の反響はもうすさまじくて、「あぁ、テレビってこういうことが起こるんだ……」って(笑)。そばの乾麺協会の方に「これで今まで地味だったそばの乾麺業界に“光が差しました”。池森さんは乾麺そば界の“花咲か爺さん”ですよ!」なんていわれて。せめて“おじさん”にして欲しかった(笑)。
そばとの出会いは約15年前、DEENがデビュー15周年を迎えるにあたり、武道館公演、ライブツアーを回るための体力づくりを実践した結果、つきすぎた筋肉を落とすため。そばの話を始めると、1時間以上かかるけど大丈夫? と言いながら、語ってくれた。
専属のトレーナーをつけて体を鍛え始めたんです。6〜7kgビルドアップして、首も太くなっちゃってムキムキになったの。会う人会う人に「すごいな〜」って言われるんだけど、その言葉がだんだん「お前どこに向かってんの?」って言葉に僕の脳内で変換され始めた(笑)。
それで「DEENにそこまで筋肉いらないな」と思い始めた頃に出会ったのが、医学博士・石原結賽先生の著書にあった「朝は野菜ジュース、昼はそば、夜は何を食べてもいい」というプチ断食。体重も元に戻って、体調もよくなって、それをずっと実践し続けて今に至ります。もともとそばの味は好きだったので、ライブツアーで行った全国でチェックしたりし始めて。毎日食べるわけだから、つくり方やレシピにもこだわり始めたんです。
そばに目覚めたタイミングで、ワインにも目覚めたという池森さん。もともとはアルコールを飲めなかったのだが、友人に勧められて初めて飲んだカリフォルニアワインの「オーパス・ワン」に衝撃を受ける。自宅のワインコーナーはどうなっているか聞くと、「いやらしく聞こえたらイヤなんですが…」と笑いながら答えてくれた。
自宅にはワインセラーがあって、常に120本くらい持っているかな。めちゃくちゃワインの勉強して、毎日飲んでたらこれも習慣になった。最近、自分が一個のことをすごく突き詰めるタイプだって気づきました(笑)。興味をもったら長くて、突き詰め始める。音楽は言わずもがなですが、そば、ワイン、洋服、ゴルフ……、いろいろありますね。ファッションはずっとDIESEL、ゴルフは3年前に始めたんだけど、沖縄でやってハマって。今プロアマ級のスコアを目指そうと、プロに習っています。最高スコアは80台。3年目にしては、なかなかうまいと言ってもらえます(笑)。
音楽活動に加えて、趣味の全てをここまでつきつめていると、十分な睡眠時間は取れないのでは?と聞くと、「そうでもないです。」と即否定。
睡眠時間は7〜8時間取れてるし、時間に追われている感じは全然ない。あと最近、突き詰めるタイプなんだというのと同時に、すごく自分が“ルーティン・マン”だってことに気づきました(笑)。DEENはデビュー以来、ずっとスケジューリングがうまくいっているんです。28年間、毎年アルバムをリリースしてライブツアーを行ってを繰り返して、活動休止は一度もない。そしてアルバム制作の期限が遅れたことはないし、必ず発売の2か月前に仕上がっている。山根公路との役割分担も明確。彼が曲を書いてきて、僕が歌詞をつける。近すぎず遠すぎずの僕らのこの関係は、すごく大事だと思っています。
そばでDEENを知った人も大歓迎!
気軽に音楽を楽しんで欲しい
そのルーティンの中、2021年はDEENのアルバムが、すでに2枚リリースされた。いずれも今若者を中心に注目を浴びている、“シティポップ”(都会的に洗練された洋楽志向のポップス)をテーマにしたものだ。
もともと僕たちは、ボビー・コールドウェル、ボズ・スキャッグス、TOTOといった“AOR”(Adult-Oriented-Rock:ジャズやソウルの要素を取り入れた洗練されたロック)が大好き。1970年代にその音楽が日本に入ってきて、それをJ-POPに変換した先人たちがいる。それがシティポップになっていったわけですしね。2000年代もDEENはAORの3部作をつくって、ビルボードライブでライブをやったんです。そのとき、その空間と音楽とファンの方々の聴きたいサウンドが、ぴったりあった感じがあった。今回もビルボードライブでのライブの予定があったので、これもちょうどいいタイミングだなと。
まずは2021年1月に「POP IN CITY ~for covers only~」をリリース。山下達郎、大滝詠一、松任谷由実といったシティポップの“先人”たちへのリスペクトを込めて、彼らの名曲たちをDEEN流にカバーした。
実はこのカバーアルバムを出す前に、今回のオリジナルアルバム「TWILIGHT IN CITY 〜for lovers only〜」もほぼでき上がっていたんです。でもこの時シティポップの名曲たちが世界的にもブームになっている事もあり、まずはカバーをリリースしたからオリジナルを発表した方がよりコンセプトを皆さんにわかっていただけると思いまして。すでに95パーセントでき上がっていたんですが、寝かせたわけですよ、ワインのように(笑)。その後、残りの5%を仕上げて、かなり熟成されたアルバムになりました。
アルバム全体としての完成度を重視するスタイルをとるAOR。「TWILIGHT IN CITY 〜for lovers only〜」も1枚通して聴くと、ひとつのストーリーを感じさせる。
都会から発進する10(曲)のラブストーリーは全部聴くと、「もしかして全部つながってるんじゃないか?」と思っていただけると思います。東京オリンピックは前々から予定されていたわけだから“東京”を舞台にはしたかった。新宿の高層ビル、東京から横浜に向かう車からの景色や、自分もそうだったんだけど地方から東京にきて都会に押しつぶされそうになった思いとか、そういうものも歌詞に書きました。
続くコロナ禍で、音楽フェスやライブは中止になり、それについての声をあげるミュージシャンも増えてきた。DEENは、このコロナ禍において、音楽について改めて考えることはあったのか。
「今こういう状態になっているから、発信しよう」というのは、僕たちにはないですね。「今はコロナだから頑張ろう!」と、みんなが思っているはずだから。僕たちはその気持ちに添えられるような音楽をつくっていくのが一番いいと思っている。
そしてこの2021年夏、ニューアルバムを引っさげて、ビルボードライブでライブが行われる。ビルボードライブは、食事と飲み物とともにライブを楽しめる大人な空間。「(緊急事態宣言下につき)アルコールの提供はないけど、DEENオリジナルワインは販売します!(笑)」とのこと。
今回は「このまま君だけを奪い去りたい」「瞳そらさないで」といった90年代のヒット曲は演奏しません。『TWILIGHT IN CITY 〜for lovers only〜』も、もしかしたら「あれ? その手の曲は入ってないの?」って思う人もいるかもしれない。でも今は90年代とは時代も変わって、音楽の聴き方もさまざまになっている。BGMで流しても成立する音楽だと思うので、気軽に楽しんでいただければ。そばで僕を知ってくれた方々も大歓迎! 僕らの音楽を楽しんでいただけるならきっかけは何だっていい。こういうことが起こるから、長くやっていてよかったなと思います。