90年代は数々のトレンディドラマに出演。トレードマークだったロン毛は、当時の若者に絶大な影響を与えた。その後、年を重ねるごとに演技に円熟味が加わり、日本を代表する俳優へ。そして、作詞作曲を自ら手がけるシンガーソングライターとしての顔ももつ。30年を超えて、第一線で活躍を続ける江口洋介さんは、“自分に飽きないようにする”ことが大切だと語る。
「色々な役をやらせていただくので、自分自身に変化を求めるのはもちろんですが、大事なのは気分良くやること。無理をしてもしょうがないし、楽しめないと良い表現なんてできないんじゃないかな。だから、人生を楽しむためには、洋服でテンションをあげたり、食事や音楽も、好きなものや気に入ったものをどんどん取り入れる、つまり“自分に飽きないように変化し続ける”必要がある。自分の手がとどく日々の暮らしが整えば、その先にある仕事もテンポ良く進んでいくと思っています。気持ち良くやれたら、結果もついてきますから」
また、常に刺激を探していると語る。ステージに立ち続ける海外のアーティストたちの姿も刺激を与えてくれるという。
「先日、ロンドンまで行って、ブルース・スプリングスティーンのライブを観てきたのですが、74歳だというのに、3時間歌いっぱなし。オールスタンディングだったのですが、お客さんからパワーをもらっているみたいで、ぜんぜん疲れた様子が見えないんですよ。公演は2デイズだったし、超人的です。あんなパワフルな歳の取り方を見せられると、こっちも負けてられないなって励みになります。それに彼はずっと応援歌を歌っていますが、それを照れずに続けています。背負っているものがあるからこそ、できることなのかもしれません。孤独な人間に対する優しさが根底にあって、それを何十年も続けるとあんな人間になれるのかもしれません」
また、長く活動するうちに、大半の撮影現場では年長者になった。共演者やスタッフの多くが年下だ。そのため江口さんは自身の振る舞いに気を配っているという。
「撮影現場では、気難しい人だと思われないよう、“軽い人”でいることを心がけています。共演者が深刻そうだと関わりにくい。“軽さ”ってコミュニケーションを取るうえで、武器になると思うんです。だから、軽く、明るく、が僕のポリシー。現場に着いたら、新しいものを仕入れたいっていう気持ちもあるし、座っていることはほとんどありません。考え込んで、撮影を止めてしまうなんてもってのほか。俺みたい年長者がそれをやってしまうと、空気も悪くなって、マイナスなことしかありません。ベテランは、いじられるくらいのほうがバランスがいいんです。難しい顔をしないためにも、気分良く現場に行くようにしています。もちろん若い頃は自我を出して、意見がぶつかることもあったんですけど、今はそんなことをしても意味がない。だから、軽やかに、気持ち良く。これでいいんですよ」
大御所や重鎮といった立ち位置や印象を良しとせず、現場の空気をつくるために気さくな人であることを心がける。経験からくる大人の余裕が、江口さんの魅力でもあるのだろう。
そんな江口さんだが、近年は俳優業と並行して、アーティスト活動に力を入れている。今月には楽曲「Ride On〜新しい日々」がデジタル配信され、10月23日には26年ぶりとなるCDアルバム「RIDE ON!」のリリースが決定。さらに11月にはビルボードライブ大阪と、ビルボードライブ東京でのライブも決定している。俳優業に加え、自分で作詞作曲をし、シンガーソングライターとしてライブもこなす。二足の草鞋を履く理由を尋ねると、江口さんはこう答える。
「音楽をはじめたときも、俳優をやめるの?って言われていました。俳優をしているのなら、音楽をやる必要ないじゃんって揶揄されることもあります。でも、自分でクリエイトしたいし、やりはじめたら、そんな外野の声は気にならないですよ。音楽は何もないところから自分でつくるのに対して、俳優はスタッフが準備を整えた現場に最後に入って、仕上げをする。全然違う作業だけど、つくり上げるクリエイティブな仕事という意味では同じで、両方をやっていると、それぞれが良い影響を及ぼします」
一時、休止していた音楽活動に再び取り組みはじめたのは8年ほど前だという。しかし、コロナ禍を経て、歌いたい気持ちが増したそうだ。
「歌うことで自分を鼓舞したいという気持ちがあるのですが、一番は聴いてくれる人を勇気づけたいから。その思いはコロナ禍を経て強くなりました。僕らは、当たり前のことが当たり前でなくなってしまう経験をしましたし、自分に何かできることはないかと考えたときに、ギターが一本あれば表現できるんだと再認識しました。ふつふつと歌でみんなを勇気づけたい気持ちが湧いてきて、どんどん曲が出来上がっていきました」
日比谷野外音楽堂でライブをするのが、いまの野望のひとつだと語る。
「いままでやったライブのなかでも、野音には強い思い入れがあります。東京の空を見ながら歌う。いろんなホールでライブをやってきましたが、あの体験は特別ですから」