大人数で外食をしたり、飲み会を開くのはまだまだ躊躇しますが、親しい友人や親類を自宅に招いて小規模な会食をしたり、ちょっと気合を入れたディナーをつくって家族で楽しみたいですよね。そんな特別な日にうってつけの料理がローストビーフです。
食卓が豪華になり、かといって難しすぎないので、料理に不慣れな男子でも挑戦できます。そこで荒井康成氏がローストビーフ作りに欠かせないツールや、より美味しく味わうために持っておきたいオススメの逸品を紹介します。
Styling&movie&photo:YASUNARI ARAI/Edit&Text:SHINSUKE UMENAKA(verb)
2020.11.16
熟成肉ブームや健康志向の高まりから派生して、ちょっとしたブームになっているのが低温調理器です。肉や魚に含まれるタンパク質は62度から凝固がはじまり、68度を超えると水分が分離するといわれています。
同時に食材内の空気が膨張することで、組織が破壊され、食材が硬くなる原因となります。逆にいえば、コンロを使わずに、温度をコントロールしながら、低温でゆっくりと熱を加えていけば、水分を保ったままジューシーな料理に仕上げることができるというわけです。
そこで登場したのが、設定した温度と時間で、お湯をじっくりと循環させながら加熱する低温調理器です。料理というよりは科学実験のような手順も男心をくすぐりますが、これがローストビーフの調理に打ってつけです。
使い方は簡単。水を張った鍋に低温調理器を設置し、温度と時間をセット。ローストビーフなら58度で1時間の加熱です。スイッチを入れ、余熱がはじまったら、その間に塩胡椒でブロック肉に下味をつけていきます。
あとは、鍋の水が設定温度まで上がったら、肉や香りづけのローズマリーやニンニクを入れたフリーザーバックを鍋に投入するだけですが、このときスタッシャーがおすすめ。通常のフリーザーバックより耐久性が高く、何度も使用できます。
1時間の加熱が終わったら、仕上げにフライパンで焼き目をつけるだけ。手間をかけることなく、しっとり柔らかい高級レストランのローストビーフが再現できます。低温調理器には、さまざまなメーカーが参入していますが、性能に大きな差がないので、コスパで選んで問題ありません。
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グリーンハウス
「低温調理器 Sous-Vide Cooker GH-SVMA」筒状のスリムでコンパクトなデザインの低温調理器は、収納するときにも邪魔にならない。温度は0度〜90度、時間は1分から99時間59分まで設定可能。さまざまな料理のアイディアが載ったレシピブックが付属されているのもうれしい。
参考価格14,000円
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スタッシャー
「シリコーンバッグ」100%天然素材からつくられたシリコーンを使っており、ジップロックよりも耐久性が高く、何度も使える。耐熱温度も-18~250度までなので、オーブンで加熱する料理に使ったり、食品保存袋として冷蔵庫や冷凍庫に入れても問題ない。また中身が見えるので、ステーショナリーを入れたり、旅行時の小物入れなどにも応用もできる。
参考価格1,650円(Mサイズ)
もし、低温調理は時間がかかって面倒というなら、ローストビーフは圧力鍋を使った調理法もあります。低温調理器と同様にブロック肉に塩胡椒で下味を付けたら、圧力鍋にバターを溶かし、一度、お肉を焼きます。
表面に焼き色が付いたら、水を加えて、加圧。加圧は3〜4分(圧力切替があるタイプなら高圧3分&低圧4分)の短時間でOKです。そのまま蓋を開けずに20分ほど蒸らしたら完成です。
圧力鍋の素材には主にアルミ、ステンレス、そして多層構造の3つのタイプがありますが、多層構造がおすすめです。熱伝導に優れているため、圧力のかかりが速く、余熱力もあり、しっかりと食材に熱が伝わります。また、多層構造の圧力鍋は、ステンレス製と比べ、軽量という特徴もあります。
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クリステル
「圧力鍋 アルト」片手で蓋の開け閉めができるクリステルの圧力鍋。アルミをステンレスでサンドイッチした三層構造で、蓄熱性に優れ、沸騰時間も短い。蓋を変えると普通の鍋として利用できて点も魅力的だ。蒸し物に使うバスケットがセットになった商品も。
参考価格 29,700円(4L)
下味をつけたり、あるいはローストビーフを食べるときに、欠かせないのがソルトミルとペッパーミル。目の前でガリガリと塩胡椒を振るのも、腕の見せどころのひとつです。キッチンに置いてあるだけで映えるようなデザイン性の高さはもちろん、味を細かくコントロールできる粗さの調節な可能なタイプを選びたいところです。
胡椒や塩をスムーズに砕く切れ味を重視するならステンレス刃やセラミック刃を採用している製品がオススメです。
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カールメルテンス
「ソルト&ペッパーミル」1919年に創立されたドイツのカールメルテンス社製。ステンレスとオーク材を組み合わせ、都会的かつ温かみを感じさせるデザインに。腐食と摩擦に強い頑丈なセラミックグラインダーを採用。粉砕する細かさの調整も可能。
参考価格 16,500円
できあがったローストビーフの塊を取り出したら、薄くカットする工程に。こちらも見せ場のひとつです。包丁やトングではなく、プロも愛用するカービングナイフとフォークを取り出しましょう。
見た目の本格感も特別なディナーを演出しますが、専用のフォークは鋭く肉に刺さり、なおかつ、しっかりとホールドできるため、ナイフの軌道を邪魔せず非常に実用的です。
カービングナイフの切れ味の鋭さはいわずもがな。切れ味の悪い包丁で何度も切り返してしまうと、せっかく低温で閉じ込めた肉汁が漏れてしまいます。できるだけ薄切りを目指しながら、カットしていきましょう。
なおカービングナイフを持っていると、ローストビーフだけではなく、ステーキ肉を裏返すときや、バーベキューなどでも重宝します。
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ビクトリノックス
「グランメートル・カービングセット」プロも愛用するスイスのメーカー・ビクトリノックスのカービングセット。人間工学に基づいたハンドルを採用していて、手に馴染み、持ちやすい。切れ味鋭いナイフと、しっかりと肉をホールドできる鋭さを持ったフォークは、セットで購入してこそ、互いの使い勝手の良さに気づく。
参考価格 27,500円
ローストビーフはソースと絡めていただくのも良いのですが、ワサビを載せた和風なテイストとの相性も抜群です。せっかくなら、サメ皮のおろし板を使いましょう。おろす前の生わさびをかじっても、実は辛味を感じません。
生わさびの細胞をおろすことで破壊し、さらに空気に触れることで辛み、香り、さらに抗菌成分も高まるといわれています。
ザラザラと表面が粗い鮫皮ですが、人間の歯と同じ固いエナメル質でできており、“の”の字を描くように、ゆっくりとおろしていくと、たっぷりと空気を含んでいきます。ほんのりとした甘みも帯びた独特の辛みは、ローストビーフの最後の仕上げです。
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兼正「サメ皮おろし板」
プロの調理人が使用している鮫皮を使ったわさびおろし。おろす部分に本鮫皮を使用し、白くなめすことで、衛生面も担保。わさびだけではなく、生姜なども美味しくおろせるため、一台は持っていると重宝するはず。
参考価格 2,077円(大)
荒井 康成 YASUNARI ARAI
料理道具コンサルタント/Kitchenware Stylist
洋菓子店店長、和陶器店主を経て、フランス陶器エミール・アンリ社の日本法人設立に携わる。以後、日本初の「料理道具コンサルタント」として独立し、「料理通信」「ELLE gourmet」など、各食情報誌でのコラム執筆やスタイリング撮影、Panasonic「ふだんプレミアム」や魔法びんのパイオニア「サーモス」のInstagramディレクション、「キユーピーサラダクラブ」や「カルビーフルグラ」など食品会社の販促物スタイリング撮影、食の学校「レコール・バンタン」では講師として、多岐に渡り活動中。著書に「ずっと使いたい世界の料理道具」(産業編集センター刊行)。http://www.araitools.com