ラグジュアリースポーツカー、英アストンマーティンのヴァンテージ。スペインで走る[試乗会レポート]
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    ラグジュアリースポーツカー、英アストンマーティンのヴァンテージ。スペインで走る[試乗会レポート]

    2024.05.23

    アストンマーティンと言えば、映画『007』シリーズでジェームズ・ボンドが運転している「ボンドカー」を製作する英の自動車メーカー。2021年にはF1に参戦し、2026年からはホンダ製のパワーユニットを搭載する予定だ。そのアストンマーティンの最新ロードカーが今年2月に発表された「VANTAGE(ヴァンテージ)」だ。「ENGINEERED FOR REAL DRIVERS(真のドライバーのために設計)」されたというこの車。スペイン南部セビージャ近くにあるサーキットと公道で試乗した筆者が、ヴァンテージの魅力を余すところなく紹介する。

    取材・撮影/武田信晃 写真提供/アストンマーティン

    アストンマーティンとは?

    1913年、ロバート・バムフォードとライオネル・マーティンによって「バムフォード・アンド・マーティン」が設立された。マーティンが運転した車でアストン・ヒルという場所で開催されたクライムヒルに参戦したが、成功を収めたことから「アストンマーティン」と名付けた。

    道路を走る黄色いヴァンテージ

    アストンマーティンのエンブレム

    1947年になると実業家デイビッド・ブラウンによる経営となったが、現在の主力商品である「DB」は彼のイニシャルだ。また、ブラウンは同じ1947年に高級車メーカーのラゴンダも支配下に収めている。1959年にル・マン24時間レースで勝ったほか、1964年(日本は1965年)に公開された映画『007/ゴールドフィンガー』では、「DB5」がボンドカーとして採用され、同社の知名度が一気に上がった。

    その後、フォード傘下などになったが、2020年にカナダの投資家でトミーヒルフィガーやマイケル・コースへの投資で成功したローレンス・ストロールが筆頭株主となり、現在に至る。ファッションの世界で成功したストロールはブランドビジネスを知り尽くしており、アストンマーティンをラグジュアリーなカーメーカーとしてどうするべきか理解している。それが、2021年からのF1参戦であり、2024年第2四半期以降から納車開始するヴァンテージ、初のSUVのDBXと初のPHVのヴァルハラなどの明確なコンセプトを持った車種の販売だ。

    665馬力、0-100キロ/hの加速は3.5秒

    今回試乗した改良型のヴァンテージは2690万円から。スペックは、車重が1605kg、エンジンは4.0リッターツインターボV8を搭載し、665PS / 800Nmのパワーを発揮する。後輪駆動で50:50という完璧な前後重量バランスを実現した。最高速度は時速325km、0-100km/h加速は3.5 秒と驚異的。ダイナミックな走りを支えるのは、アストンマーティン専用21インチのミシュランPilot Sport S5タイヤ、エレクトリック・リア・ディファレンシャル(E-Diff)、ビルシュタイン製のDTXアダプティブ・ダンパー、8速ZF オートマチック・トランスミッション、アジャスタブル・トラクション・コントロール(ATC)など。これらを備えることで驚異的な加速力やコーナリング性能を実現させている。

    走行モードは「TRACK」「SPORT+」「SPORT」「INDIVIDUAL」「WET」の5種類。Individualとは、オーナーの好みにあわせてセッティングできるモードだ。

    ヴァンテージ内部のモニター

    斜めから見た青緑色のヴァンテージ

    精悍さが増したフロントのデザイン

    “暴れ馬”だが自由自在!

    試乗はまずセビージャ郊外にある「Circuito Monteblanco(シルクイート・モンテブランコ)」という1周3.357kmというFIA(国際自動車連盟)の公認サーキットで行った。メインストレートは1km、12のコーナーで構成される。3種類のヘアピン、クランク状に連続するコーナー、高速コーナーなどがあり、ヴァンテージの車体性能をフルに堪能できるレイアウトといえる。

    サーキットに集まったヴァンテージ

    サーキットに集まったヴァンテージ。これだけ集まると壮観

    サーキットに入ったヴァンテージ

    ヘルメットをかぶり、着座。シートポジションとステアリングの高さを調整する。着座位置が低いにも関わらず計器類に囲まれた感じもあまりなく、前方の視界は全く問題ない。気持ちよく走れそうな感じだ。その後、担当者との無線が通じているのを確認した後、スタッフの指示にしたがってコースインする。

    ヴァンテージの運転席

    サーキット走行前。スタッフの指示を待つ

    ヴァンテージの内部

    車においては物理的なボタンのほうが感覚的に操作できる。しかもセンターコンソールに集中しているので運転しやすい

    まずは数台がペースカー先導で比較的ゆっくりコースを走り、サーキットのコースを覚えることから始め、その後はペースカーなしで自由に走行できるようになる。
     
    フリー走行1周目はIndividualモードだったが、2周目にはSports+モードで走行すると(切り替えはセンターコンソール中央部にある、円柱状のセレクターを回すだけで簡単に変更できる)、走りがシャープになった。クランク状のコーナーを素早く走り抜けることができ、リズムよく走れる。

    レース中のヴァンテージ

    翌周、Trackモードに合わせると、良い意味で「暴れ馬」的な車に変身する。3つ目のヘアピンコーナーの出口は、徐々にコーナーの角度が緩くなっていくので、アクセルをどんどん踏みたくなる。ここで同車の本領が発揮される。次のコーナーに向かってどんどん加速するのだが、筆者がアクセルを踏みすぎたこともありヘアピンの立ち上がりで一瞬、車のリアの挙動がぶれる。しかし、E-DiffやESPなどが効くので、カウンターステアをあてる間もなくピシッとブレが収まるのだ。偶然かと思ったので、次の周でも同じように攻めると、またリアの挙動の乱れはすぐ収まった。暴れ馬なのにコントロールしやすい。
     
    1kmの直線は、素早いシフトチェンジとターボが効いてあっという間に260キロぐらいまで到達する。1コーナーのヘアピンは70キロぐらいに急減速する必要があるが、ブレーキが想像以上によく効く。自分では遅めにコーナーに突っ込んだつもりだが、余裕でコーナーを曲がれたのだ。

    サーキットを走行するヴァンテージ

    サーキット走行でのヴァンテージは、性能を引き出せば引き出すほど、一人ジェットコースター状態を走り終わるまで続けることができる。

    街中では、誰もが振り返る

    サーキット走行が終わった後は一般道での走行となる。筆者はひと際目立つ「コスモスオレンジ」カラーに配車され、同じ色にのった外国人ジャーナリストと、途中から縦走する形になった。道路は、高速道路、何気ない一般道、ワインディングロード、街中を走る、所要時間は約2時間のルートだ。アストンマーティン側がナビのルート設定をしてくれたが、もちろん筆者にとっては初めてのルートなので若干の心配が残る。ところが、ナビの視認性、地図の明瞭さ、音声ガイダンスが思いのほか優秀で、ロータリーでも出口を間違うことはなかった。

    赤色のヴァンテージ

    最初はIndividualモードで街中を走行するが、2台のコスモスオレンジのスポーツカーが一緒に走っていたので、歩道を歩く市民からのたくさんの視線も感じたのはなんだか照れくさかったが、それだけ、カッコいい車なのだ。

    高速道路に入りSports+に切り替えた。Individualのときと同じスピードでも、低いギアを選択してエンジンを高回転させることでよりスムーズに加速していった。

    ルートの最後の40分ぐらいは「HU4103」という道を走ったのだが、アストンマーティンのスタッフ曰く「調べに調べて」探し当てたルートだそう。クネクネと曲がる道が連続して走るのが非常に楽しい。前を走る外国人ジャーナリストの車の挙動を見ることもできたが、路面に吸い付くように曲がっていた。

    ヴァンテージから見たスペインの道

    車を軽く止めて、撮影。平原が広がる美しいスペインの道

    ヴァンテージは走りだけにフォーカスを置いた車ではない。音響システムも優れている。390W 11 スピーカー・オーディオ・システムが標準装備されているのだ。今回はアストンマーティン側が音も楽しんでもらいたいということで、事前に彼らが登録した1990年代を中心としたヒット曲が流れてきた。筆者も知っている曲があったが、音に深みを感じることができ、ちょっとしたコンサートホールにいながらドライブをする感じになった。ここに、視界が広がる平地での走行をしたときの爽快感は格別だった。

    横から見た道を走る赤色のヴァンテージ

    峠を走る赤色のヴァンテージ

    普段使いできるスポーツカー

    ゴール地点でもあるサーキットに戻ってきたとき、一緒に走っていた外国人ジャーナリストとの走行後のお互いの感想の第一声はともに「アメージング」。また、サーキットを全速力で走行し、2時間一般道で走ったにも関わらず、再び「HU4103をもう一度、走りたい」と思ったのだ。これだけ走っても疲れていないことに驚きだった。スポーツカーは乗り心地が悪いという一般的なステレオタイプはこの車には関係ないのだろう。

    安価なモデルを大量生産せず、ブランドの希少性を保ってきたという、アストンマーティンの歴史がある。最先端の技術を採用しながらもシートなどは職人によるハンドメイドを基本にしていることで、室内にどこか温かみも感じられるのだ。

    高性能スポーツカーでありながら普段使いもでき、外観も一目でヴァンテージだとわかるスタイリッシュさも兼ね備えている。ヴァンテージの底知れぬポテンシャルを感じた試乗会だった。

    ちなみに、宿泊先は「NOBU HOTEL」。外国人に最も有名な日本人料理人の一人である松久信幸が経営する「NOBU」のホテルバージョンだ。清潔感にあふれ、使いやすいレイアウト。トイレが洗面所、シャワールームと別部屋になっていたのは日本を感じた。日本からホテル到着までは乗り換えを含めると移動時間は20時間位。窓からはセビージャのヨーロッパらしい街並みが、よりリラックスさせてくれる空間となった。

    NOBU HOTELの外観

    NOBU HOTELの外観

    NOBU HOTELの部屋

    部屋はシンプルで落ち着いた雰囲気のデザイン

    部屋から見たサンフランシスコ広場

    眼下には街の中心部にあるサンフランシスコ広場が広がる

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