歌舞伎はもちろん映画やドラマ、舞台への出演、そしてミュージカルや声優もこなすなど、マルチに活躍する尾上松也さん。コロナ禍に観たNetflixのドキュメンタリー作品「マイケル・ジョーダン:ラストダンス」に感化され、新しい趣味ができたと公言している。スニーカー収集だ。30代後半で目覚めたスニーカーへの熱は、日頃のファッションを変えるほど、大きな影響をもたらしたという。
「スニーカーを集めるようになって、服装がガラリと変わりましたね。以前はファッションにあまり興味がなく、靴もいただきものばかり。洋服も白や黒のシャツに、黒いパンツを合わせたような無難なコーデばかりで、お洒落に関心があるとは言えませんでした。サイズにゆとりがあって、ゆったり着られるものというこだわりだけはあったのですが、それさえクリアしていれば、何でも良いと思っていました」
それが、その日、履きたいスニーカーに合わせてコーディネイトを考え、キャップもかぶるなど、お洒落を楽しむように変化したという。
「今季はまだ暖かいので、アウターを購入していませんが、シャツやセーターは買い揃えました。ストリートっぽい空気感の洋服が好きですね。普段はパーカーを着ることも多いのですが、寒い時期にはしっかり防寒できるインナーと組み合わせます。インナーが見えても、かっこよく見えるようなデザインのものを好んで着ていますよ」
今回の撮影では、私物のコレクションの中から特別に「エア ジョーダン1 ロー × トラヴィス スコット“ブラック ファントム”」を持参してくれた。一時期は、月に10足は購入していたと語る、スニーカー愛についても聞いた。
「スニーカーへの興味の原点を振り返ってみると、小学生の時に親にねだって買ってもらったエア・ジョーダン12に行き着きます。汚れないように注意して歩くほど、気に入って履いていたのをよく覚えています。大人になってからはスニーカーを履く機会がなくなってしまったのですが、マイケル・ジョーダンのドキュメンタリーを見たことで、一足くらい持っておきたいという気持ちが湧き上がってきました。それで買ったのがエア ジョーダン11 Jubileeです。そこからスニーカー熱に火がついて、収集するようになっていきました。取材や撮影の合間など、少しでも時間があればスニーカーショップのサイトを覗いて情報収集をするほど、ハマりましたね」
最近、購入したのはコロンビアのアーティスト、J Balvinとナイキとのコラボシューズのエア ジョーダン 3 × J Balvin “Sunset”や、エックスメン60周年を記念したKITHとマーベル エックスメン、そしてアシックスのトリプルコラボスニーカー、KITH × MARVEL X-MEN × Asics Gel-Lyte 3 collectionだという。
「買い出した頃は、ナイキオンリーだったのですが、最近はそれ以外のブランドにも手を伸ばすようになってきました。アメコミも好きなので、エックスメンとのコラボスニーカーとかが出ると買っちゃいますよね。見た瞬間にかっこいいと惚れたもの、デザインや造形美に惹かれたものを好んで買っています」
まだ2〜3年のスニーカー収集歴だが、すでに300足近くコレクトしているという。そしてあくまで履くために買うのが、尾上松也の流儀だ。
「履かないでとっておくようなスニーカーは一足もないですね。数が多いので、ひょっとしたら、まだ履けていないものはあるかもしれませんが、履くために購入しています。今日はこれと決めたら、1日履いて、帰ってきたらキレイにしてから仕舞う。2日続けて履くことはないので、痛みや汚れの心配もありません」
そんな尾上松也さんは新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』の上演を12月に控えている。ご存じ、ルパン三世を題材にした新作歌舞伎だ。ルパン三世を片岡愛之助さんが、石川五ェ門を尾上松也さんが演じる。近年、こうしたアニメや漫画を題材にした新作歌舞伎が多数上演されているが、特別なことではないと語る。
「歌舞伎に『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』という演目がありますが、その昔、忠臣蔵という物語に人気があったことからつくられた当時の新作歌舞伎です。『四谷怪談』も然りです。伝統を守っていくと同時に、その時代に流行している題材を柔軟に取り入れていくのが、歌舞伎です。見得をすることや、歌舞伎らしいセリフ回しが、必ずしも出てくるわけではありません。普通のお芝居のような演目もたくさんあります。明確な定義がなく、柔軟性と多様性を持つのが、歌舞伎という演劇の特徴なのです。一方で歌舞伎にしかできないこともありますから、それをどう演出していくのか、今から楽しみにしています」
と意気込みを語る。また、年始には「新春浅草歌舞伎」への出演も決まっている。若手主体の興行として知られるが、今回が最後の出演になるという。
「10年間、新春浅草歌舞伎に出演させていただきましたが、この10年で自分自身も色々なことに挑戦させていただきました。そして、私も30代後半になり、歌舞伎以外でも責任のあるお仕事をいただくようになるにつれ、先輩方に教えていただいたことを、後輩たちに伝えていかなくてはという思いも年々強くなっています。今の自分があるのは、先輩方の教えがあったからこそ。自分も早く後輩たちに成長の場を譲るべきという思いからバトンを渡すことを決意しました」
最後にそんな「新春浅草歌舞伎」の見どころについて語ってもらった。
「歌舞伎の楽しみ方のひとつとして、同じ演目を繰り返し演じる役者の成長を見守るという見方があります。加えて、新春浅草歌舞伎では全役、全演目を、みんな初めて演じます。そのため、演者が第一歩を踏み出す瞬間を見ていただけます。技術的な面では未熟なところもありますが、それは新鮮に映ると思います。また読者の皆さんと年代が近い役者ばかりですので、見やすいですし、気持ちも入りやすいはずです。劇場を出たあとも浅草の街はお正月ムードですから、ある意味で、公演も浅草というテーマパークのひとつのようです。それは歌舞伎座でもなかなか味わえない感覚で、楽しんでいただけると思います」