未利用の素材を、10年愛せる道具に。川越の四季を編む、オーガニック・モダンな藁と竹の生活プロダクト| #LOCAL GOODA
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    暮らし・住まい

    未利用の素材を、10年愛せる道具に。川越の四季を編む、オーガニック・モダンな藁と竹の生活プロダクト| #LOCAL GOODA

    2026.04.06

    もはや伝統工芸品というポジションにまで駆け上がった感のある藁細工や竹細工。しかし少し前までは生活に欠かせない日用品であった。手間はかかるが素材を無駄なく活かし、モノとしての温かさを感じさせるそんな細工物を作り続ける「伝承人」が川越にいる。その想いはどこにあるのか。

    各地でつくられている「良いモノ」とそのつくり手にフォーカスし、地域を深堀りする本企画。今回は埼玉県川越市の「藁竹茅(わらたけかや)」へ。

    Text:Takahiro Kadono
    Photos:Etsu Moriyama

    藁や竹の細工物には日本人の記憶が息づいている

    川越、藁竹茅

    近代以前、日本は米作を中心にして命を繋ぎ、政治や経済の土台を築いてきた国である。米は秋に収穫され、その実は食用に供され(金銭的価値のあるものとしても利用され)、脱穀を終えた稲藁は乾燥させて生活に必要な品物を製作するための材料として利用されてきた。

    捨てるところがないのである。

    茅はその稲藁のほか、アシやススキなども含めた素材の総称である。文明開化後に日本を訪れたある外国人は、日本は竹の国であると感慨を漏らしたという。なるほど、周りを見回せばいたるところに竹林が盛り上がっている。これらの竹を利用してつくられた竹細工の日用品も生活に密着したモノであったが、それも少し遠い時代の記憶となりつつある。

    川越、藁竹茅のコーヒードリッパー

    旅先で藁細工や竹細工の生活用品に出会うと、懐かしくポカポカした気持ちになるのは何故だろう。我々の体内に日本人の生きてきた記憶が連綿と繋がっているということか。手に触れ、匂いを吸い込むと癒しに似た脱力感を覚える。これは大地のパワーなのか。

    藁や竹で製作されたモノにはとてつもない力が秘められているように思えるのは、そのような背景を我々が有しているからなのかもしれない。だから工業製品に囲まれた現代の生活においては、なおのこと藁や竹細工を求める心が大きくなるのではないか。

    「好きでやっているんです、つくりたいだけなんです」

    そんな藁細工、竹細工に魅せられ、川越で「藁竹茅」を主宰し、工房を設えた高橋圭三さん。四季を感じながら丁寧に細工物を成している。

    川越、藁竹茅の高橋圭三さん

    だがここはそれらの道具をつくって販売する場所ではない。あくまでも高橋さんが作業する場である。しかし、このような貴重な作家を、場を放っておけるはずもない。

    さまざまな方面から講師としての声がかかり、ワークショップ開催をすすめられ、現在では藁細工、竹細工の製作技術を伝え、実践できる場を数多く設けている。

    「これで生計を立てているわけではありません。望まれれば差し上げています。ワークショップや市(いち)などで稀に販売することもあります」

    細工物をつくっていることが大好きで、それを伝承していければという強い気持ちで工房での日々を送っているのだ。

    川越、藁竹茅

    高橋さんが藁細工、竹細工に興味を持ったのは30代の頃。新潟で江戸後期の古民家の修復をはじめたことで、木や竹や石などの素材に惹かれていった。

    サラリーマン生活を続けつつ、たった一人で長年にわたって修復を続けていき、ようやく完成したと思った直後に中越地震が発生、古民家は大きく損壊してしまった。再び修復を進めていき、2010年にようやくすべてを終えることができた。

    もちろん技術を得るために勉強も続けてきた。次第に「自分なりに細工物をつくっていけるのではないか」という気持ちが湧いてきた。

    川越、藁竹茅の高橋圭三さん

    10年ほど前、高橋さんは早期退職し、工房立ち上げのための準備をはじめた。

    「ちょうどその頃、体力の衰えを感じはじめたのです。そこで、自分でできる何かをと考えた時に、やはり藁細工、竹細工がすぐに浮かんできました。つくっている時は楽しくて時間を忘れてしまいます」

    老いても楽しく日々を過ごしていける。これはなかなか難しいことではないか。それを実践できた高橋さんには敬服するし、羨ましい限り。

    城下町と農村地帯が結びついていた川越

    高橋さんが川越で生活をはじめたのは30年ほど前。新潟で古民家修復を続けていた頃だ。

    「木造の町屋が残っているのが印象的でした。私の故郷の東北にも多く残っていて、それと重なりました」

    川越、藁竹茅の高橋圭三さん

    だがこの縁がのちに細工物をつくりはじめてから、実にその作業に見合った土地だということがわかった。

    「川越という土地は、城下町と農村地帯が結びついている土地なんです。自然のリズムに則って生活や行事が営まれている」

    この、自然のリズムに則る、ということがとても大切なことなのだ。

    「藁は稲刈りが終わったあとに素材として残るものです。つまり米づくりという農作業を経て生まれるもの。農業のサイクルを無視することはできない」

    川越、藁竹茅の高橋圭三さん

    藁収穫は、一年のイベントの中では自然と秋に置かれることになる。同じように「竹取り」は春だ。青竹は春の一時期にしか収穫できず、また細工もすばやく行わなければその特徴が失われてしまう。このように四季の営みのサイクルに組み込まれた工芸品、それが藁細工や竹細工なのである。

    川越にはそうしたものを大切にする気風がある、と高橋さんは言う。だからそのリズムに則って細工に利用する材料も季節ごとにきちんと手に入る。図らずも、川越は高橋さんの理想の土地と言ってもいい場所だったのだ。



    川越、藁竹茅の高橋圭三さん

    川越で得られる天然の素材を活かし切って、自分のイメージ通りの細工物が出来上がったときが、最高の瞬間だと髙橋さんは言う。

    「美しくかつ丈夫な細工物です。オーガニックでもある。10年後も同じようにつくりたいものをつくり続け、それを伝えていければいいですね」

    朴訥ではあるが、強い意志で話をし、作業をする高橋さんの姿には、揺らぎはまったく感じられなかった。




    【 DIG IT! 】




    藁細工


    <藁細工> 稲藁やアシ、ススキなどを利用して生活用品をつくる。高橋さんは川越の米農家から藁をもらい、自宅に干してから使用している。藁細工は、藁を水に浸したあとに槌で叩き、素材を柔らかくする。そこから縄をなったり、編み込んでいったりして細工物をつくる。「藁細工は難しくはありません。でも大きなものをつくるには手間がかかります。例えば蓑であれば出来上がるまでに1週間ほどかかります」


    竹細工


    <竹細工> 竹も川越産を使用。切った竹はその場で3〜4メートルに切り揃え、洗ってから節を取る。その後製作物の長さに合わせて切ってから、割る、剝ぐ、削るという工程をたどる。「竹細工の8割は竹ひごづくりです。竹は11〜12月に林から切るのが一番いいんです」竹細工は小さくて薄いものをつくることが多いという。また、かなり長持ちするのも竹製品の特徴だ。素材そのものが持つ強さと、職人の緻密な手業が、日常に馴染む道具へと昇華されていく。



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