ファッション
アメリカン・ワークウェアブランド「PAYDAY(ペイ・デイ)」を貴重なビンテージアイテムと共に紹介
2024.05.17
ビンテージショップを訪れた際に、「PAYDAY(ペイ・デイ)」のカバーオールやオーバーオールを目にした人は多くいるだろう。PAYDAYは「Levi’s」や「Lee」などのジーンズブランドとは異なり、通称“ストアブランド”といわれる、ビンテージ好きにとって代表的なブランドのひとつだ。今回は、日本国内でPAYDAYを展開している、株式会社マルベリー代表の牧野雅史さんから、ブランドの魅力について貴重なビンテージアイテムを交えて紹介してもらった。
取材/TAKANORI ITO
古き良きアメリカを感じさせるワークウェアブランドPAYDAY
――PAYDAYとはどのようなブランドか教えてください。
「1907年のアメリカ合衆国ワイオミング州にて、ジェームズ・キャッシュ・ペニーという人物が、『Golden Rule Store(ゴールデン・ルール・ストア)』というワークウェアショップをオーナーから買い取り、1912年に『J.C.PENNEY(ジェーシーペニー)』へと社名を変更。『PENNEY’S(ペニーズ)』や『BIG MAC(ビッグマック)』といったブランドを展開していました。BIG MACの誕生と同年の1922年にPAYDAYがスタートします。
PAYDAYはワークウェアブランドとして、鉄道や建築の現場で幅広く使われていたことが、古い文献から推測できます。この時代のワークウェアには、労働組合に加盟している証として、ユニオンチケットと呼ばれるタグが縫いつけてあり、PAYDAYのアイテムにもユニオンチケットがついています」
ビンテージのPAYDAYは古着市場でも珍しくなっている
――日本でPAYDAYを始めようと思ったきっかけを教えてください。
「自分でビジネスを始めるにあたり、ワークウェアブランドをやりたいと思っていました。PAYDAY は元々好きで着ていたブランドで、1950年代のPAYDAYを代表するモデルのカバーオールを、2014年に復刻したのがきっかけです。通称“ハンバーガータグ”と呼ばれているPAYDAY のアイテムは、1922年から1950年代までの期間しか生産されておらず、最近では古着市場でも珍しい存在になっています」
再現度の高さに注目してほしいPAYDAYのカバーオール
――リリース中のアイテムは再現度とクオリティの高さが評判ですが、実際のビンテージと比較しながらご紹介いただけますか?
「1940年代の第二次世界大戦時の頃のモデルで、通常『大戦モデル』といわれるアイテムのなかでも、後期モデルと呼ばれているカバーオールをご紹介します。ほかの時代のカバーオールは3本ステッチでつくられていますが、戦時中は物資の節約のためにつくりを簡素化し、2本ステッチでつくられている点が特徴です。
今回このアイテムを再現するにあたり、一番こだわった部分はパターンです。このモデルをはじめ、PAYDAYのカバーオールの多くがラグランスリーブなんです。当時のオリジナルのままだと、今の時代や日本人の体型に合いません。そこで、着心地を良くするためにシルエットにこだわって仕上げました。このラグランスリーブこそがPAYDAYの最大の特徴であり、魅力だと思うんです。
ほかにも、紙タグやユニオンチケットを再現したり、当時の糸に近い綿糸を使ったりしています。青色のブランドタグは納得できるまで何度もつくり直し、サイジングやパターンも極力細部までこだわってつくり込みました」
“少しどんくさい”感じ、こだわりのシャンブレーシャツ
――次にシャンブレーシャツの紹介をお願いします。
「1940年代のチンストラップ(第一ボタンがストラップ状になっている)付きのシャンブレーシャツを入手したのですが、このタイプはなかなか出てこないため復刻しました。パターンメイキングはあまり変えず、オリジナルに近い感じでつくっています。この時代のシャツは丈が長く、パンツにインするのが主流でした。そのため、丈をやや短くして肩の3本ステッチを2本に変更。ボタンや細かい仕様はオリジナルを再現しています。
シャンブレーシャツを個性的にするのは難しいと思うのですが、PAYDAYのアイテムは不思議な雰囲気があります。やや下についたポケットのように、 “少しどんくさい”感じが良いところだと思いますね」
ほかでは見ないような1930年代のペインターパンツ
――名品がたくさんあるといわれる、PAYDAYのボトムからもひとつアイテムを紹介してください。
「1930年代のペインターパンツで、『SUPER PAYDAY(スーパー・ペイ・デイ)』というブランド名でリリースされていたものですが、これがデッドストックの状態で出てくることは、2度と無いと思います。紙パッチも残っていて、この部分を含めて細部まで忠実に再現できました。微妙な色合いの2色ステッチやシンチバック(腰部分ベルト)のリベットを打つ場所がずれているという、大雑把なつくりも再現しています。
ヒップポケットのステッチがLevi’sのものと似ていますが、これはLevi’sが『アーキュエイトステッチ』として特許を取得する前につくられたものだからです。そのため、現在は商標の関係で復刻できない部分になりますが、ブランドを取り巻く当時のエピソードも含めて楽しんでいただければと思います。先ほど紹介したカバーオールと同様に、パターンメイキングは股上などに若干の調整を入れて、今の時代に穿けるようなシルエットに仕上げました」
ハイレベルな再現度が魅力のPAYDAYのアイテムから、オススメの3点を見せてもらった。希少価値の高いアイテムを日本国内で少量生産し、細部まで当時のままを目指してつくられている。デニムアイテムは色落ちにこだわり、岡山製の生地を使っているという。存分にエイジングを楽しんでもらいたいアイテムばかりだ。実際に手にすることで、当時のアメリカの雰囲気を感じ取れるだろう。
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ファッションライター
伊藤孝法
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ファッション、メンズビューティーのジャンルでさまざまな媒体で執筆中。中目黒の老舗セレクトショップOUTPUTオーナーでもあり、ブランドのセールスやPRを手がける。WWDファッショニスタ100人がリコメンド!にも参加。故郷北海道でFM番組のパーソナリティーも担当している。