ファッション
2023A/W「Rakuten Fashion Week TOKYO」に初参加
唯一無二の世界観をもつ「HEoS」の魅力に迫る
2023.04.21
半年に一度のファッションの祭典、2023A/W「Rakuten Fashion Week TOKYO」が先日開催され、好評のうちに終了した。ここ10年ほどのFashion Week TOKYOを見ていると、新しいデザイナーたちが一気に出てきた2010年代初頭のような感覚を覚える。そのなかでも、中国というバックボーンをもつ「HEoS」(へオース)に今回は注目したい。今シーズンよりランウェーに初参加した「HEoS」は、中国出身のデザイナーである暁川翔真(あかつきがわ しょうま)氏が手がけるブランドだ。暁川さんは2002年から活動の場を日本に移し、東京モード学園に入学。卒業後は大手アパレル会社、パリコレブランドでパタンナーとして経験し、2017年からフリーのモデリスト、デザイナーとして活動を始めた。2021AWより「HEoS」を本格的にスタートし、現在に至る。 後日行われた展示会を訪れ、暁川さんに今回のショーを振り返っていただいた。
取材/TAKANORI ITO
ジャガード織りを多用した圧巻のオリジナルテキスタイル
――今回のテーマを教えていただけますか。
「中国語で、『潸何吊/山河水vold』というテーマになります。日本語で発音するのは難しいのですが、『潸何吊=感極まる』というような意味合いで、故郷に対する思いみたいなものが入っています。『山河水=山に河に水』、『vold』は仏教の教えで『空』を意味します。この3つのキーワードは異なりますが、私が伝えたいことは同じテーマで、今回のコレクションをつくりました。『HEoS』は、毎シーズン生地からオリジナルでつくっているものがほとんどで、今回もジャガード織り(デザイン性のある柄を織りで表現した生地)を多用して、さまざまな生地で表現しています」
水墨画の世界観を生地で表現
――今回のショーのルックを見ながら、アイテムの解説をお願いします。
「ファーストルックのテキスタイルはジャガード織りで、水墨画の世界観をイメージしたオリジナル柄のウール生地です。生地を織った後に起毛させてピンクにムラ染めをして、後加工を施してあります。もともとはネイビーの生地なのですが、こうすることで生地の奥行きが出ていると思います。デザイン的なお話をすると、このセットアップのジャケットは裏返したようなデザインで、前見返しという仕様が表面に出ているデザインになります。同素材のパンツはワイドシルエットになっています。大人っぽい雰囲気を出すために、ベルベット素材が効いたルックになっていると思います」
「こちらは、同じ生地を使ったコートになります。これは『KIMONO-SLEEVE COAT』(着物スリーブコート)といって着物の袖付けの仕様を採用しています」
流れる水を表現したファブリック
――続いて印象的だったルックは、白を基調としたコーディネートのジャケットです。こちらは、どのような特長があるのでしょうか。
「『WATER RIPPLE BLOUSON』(ウォーターリップルブルゾン)というアウターになります。こちらの生地もジャガード織りで、凹凸感を出した線が水のイメージを表現しています。中国では、この100年で川が28,000本 無くなったといわれています。1980年代の環境汚染が要因になっているともいわれており、今回のコレクションは自然界に対する哀悼の意も込めたくて製作しました」
ミリタリーアイテムをいかに上品に見せるか
――次は、少しミリタリーを感じさせるルックについてお聞きします。「HEoS」のアイテムは、元ネタになる服をリミックスすることなく、一からデザインを構築するような印象を受けるのですが、「HEoS」的ミリタリーテイストの解釈を教えていただけますか。
「ミリタリーコートの上からダメージニットベストをレイヤーしたルックです。ミリタリーのアイテムは好きですが、基本やぼったいものは嫌いなので、いかにそれを上品に見せるかというのを考えています。素材も軽く、柔らかく、しなやかなミリタリーを表現しています」
「続いてのルックは、人民服をモチーフにしたものです。中国では『中山装』といいます。『ギャバ』というスーツ生地から、オリジナルでつくりました。人民服は、中国ではスーツのような存在です。ボタンの数やディテールにもすべて意味はあるのですが、それをあえて崩しています。袖の裏地自体が袖になっていて、腕に大きなスリットを入れ、独特なシルエットをつくり出しています。あと今回はハンドメイドのニット編みでつくったコサージュやアクセサリーも、複数の異なるコンセプトをつなぐアイテムとして役立っています」
キービジュアルは花籠柄
――今回のコレクションのキービジュアルになる、ルックのお話を聞かせてください。
「花籠柄という生地をジャガード織りでつくった、『LONG DRESS COAT』(ロングドレスコート)をメインにしたルックです。ヴィンテージのイメージというか骨董品のような雰囲気で表現しています。靴の形も骨董品を意識して、昔のお墓から出てきたようなイメージのものになっています。『CHINESE ANTIQUES SHOES』(チャイニーズ アンティーク シューズ)というアイテムで、靴底もひと針ひと針、手縫いでつくっています」
――ショーを終えて、周囲の反響はいかがでしたか。
「今回、多くの人に見てもらえて反響は大きかったですね。日本以外では、中国、アメリカ、ヨーロッパの方からも連絡をいただきました。ショーの準備の後半には、次にやりたいことのアイデアやバイタリティがあふれてきました。アジアでのコレクションは東京でやるのが良いと思っているのですが、いずれはパリコレにも行きたいと思っています」
「HEoS」は、日本のブランドとしての雰囲気もありつつ、そのルーツから欧米のデザイナーには無いセンスを感じることができる。大胆にしてエレガント、唯一無二な彼のデザインワークは、海外でもきっと評価を受け、近い未来に、その名は世界的になることだろう。
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▼話を聞いた人
伊藤孝法
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北海道生まれ。中目黒の老舗セレクトショップOUTPUTオーナーで、さまざまなブランドのセールスやPRを手がける。
2014年、WWDファッショニスタ100人がリコメンド!に参加。
テキスタイルデザインや自身のYOUTUBEチャンネル、北海道でFM番組のパーソナリティーも担当している。