ファッション
「上質なモノにはリラックス感を、ベーシックなモノには緊張感を」 「KIIT」が日常生活に与える“高揚感”
2023.03.28
消費的な流行とは異なる視点で、「都市生活にふさわしく、退屈ではない普遍性のある日常着」をコンセプトに展開するブランド「KIIT」(キート)。近年は、アメリカのアウトドアブランド「WILD THINGS」(ワイルドシングス)とのコラボレーションも話題だ。「KIIT」デザイナーの武田裕二郎さんに、ブランドが掲げるテーマや、繊細でミニマルなラインナップが揃った2023年春夏アイテムなどの話を伺った。
取材/TAKANORI ITO
協力/TAKAHIRO KUDOSE(TEENY RANCH)
「古着も好き」をルーツとした、ジャンルレスな感覚のデザインワーク
――本日はよろしくお願いします。武田さんはいつから「KIIT」を担当されているんですか?
「ブランド自体は2002年からあるのですが、僕がデザイナーになってからは16年目になります。『KIIT』のデザイナーになる前は、中目黒のヴィンテージショップで働いていて、海外買い付けなども行っていました。その後、『代官山リフト』(ハイブランドなどを取り扱うセレクトショップ)で店長兼バイヤーを務めた後、現在の株式会社アトリエ・アッシュに入り『KIIT』のデザイナーになりました」
――洋服づくりに、武田さんのルーツが反映されている感じがします。
「そうですか? ずっとアパレルをやってきたので古着も好きだし、ハイブランドも好き。古着がルーツにはなっているのですが、さまざまな経験を経て、ジャンルレスな感覚でデザインに取り組んでいます」
――デザインに取り組むにあたり、心がけていることはありますか?
「生活に寄り添える快適な着心地で、着る人の日常にとけ込み、高揚感を与えることをテーマにしています。更には、上質なものにはリラックス感を、ベーシックなモノには緊張感をもたせるように心がけています。あとは、基本的には自分が見てきたものを時代感もとらえながらデザインのべースにしています。『KIIT』の服は色目がベーシックなものが多く、デザインも変わったものではなく、『KIIT』として時代を咀嚼したさりげないニュアンスにしているのがこだわりですね。そういうところが、幅広い年齢層の方から支持していただいている理由だと思っています」
――「KIIT」には、長年にわたり展開している定番アイテムはありますか?
「定番で、毎シーズンつくり続けているアイテムはありません。ただ、『KIIT』が世の中に知ってもらうきっかけとなったアイテムでもあるコットンワッフル生地のものは、毎回生地のバリエーションやデザインを変えてリリースしています。フードのついたものや、ショートパンツなど色々とつくってきましたが、今回はクルーネックのロングスリーブをリリースしています。デザインは毎シーズン大幅に変わっていますが、‟ワッフル“という縛りは変えずに続けています」
「WILD THINGS」のテクノロジーを「KIIT」のデザインに落とし込んだ最強コラボ
――話題の「WILD THINGS」とのコラボレーションアイテムについてお聞きしたいのですが、コラボレーションのきっかけはなんだったのでしょうか?
「『WILD THINGS』さんとのコラボレーションは、今回で3回目になります。僕が以前から、『WILD THINGS』が好きだったというのもあるのですが、『KIIT』のブランドPRをお願いしている『TEENY RANCH』さんからの紹介がきっかけでした。長く続いているブランドなので、何か今までとは違うアプローチで『KIIT』のことを知ってもらうきっかけになれば……という思いはあります。今回のアイテムには、“3レイヤーナイロン”(3層構造、透湿防水素材)という生地を使いました。春夏ということもあり、いわゆるアウトドアブランドや、スポーツメーカーがつくる仕様のものではなくて、もう少しデザインアップされた内容になっています」
――「WILD THINGS」の素材や縫製のテクノロジーを使って、「KIIT」のデザインワークをするというのが今回のコラボレーションの目的だと思うのですが、そのキーワードは“シームテープ”でしょうか?
「まず、アウターを2型リリースしています。ひとつはコーチジャケットなのですが、アウトドアのフィールドでコーチジャケットというのはあまり見かけないと思います。もうひとつは、マウンテンパーカになります。『KIIT』のストレートな思いとして、マウンテンパーカをつくるなら、アウトドアブランドである『WILD THINGS』さんに生産をお願いしたほうがよいのではないかというのがあり、リリースに至りました。今回は素材選びから取り組んだのですが、シームテープは通常、生地の縫い目を塞ぐために裏側に貼って防水効果を高めるというものです。このアイテムは両面に貼り、シームテープを表に出し、デザインとして使っています。そういうところが、アウトドアブランドにはなかなかないポイントだと思っています。もともと表に貼るという概念がない素材でしたので、そこは試行錯誤しながら完成に近づけていった感じで、何回もトライして、結構苦労したアイテムです。アウターのほかには、パンツとハットもあります。『WILD THINGS』さんとのコラボレーションは、今後のシーズンも続いていきます」
――コラボ以外で、今季オススメの春夏アイテムはありますか?
「薄くシンサレート(微細な繊維構造により優れた断熱性を実現した、高機能中綿素材)が入ったベストと、それとセットアップになるようにつくられた共生地のショートパンツがあります。“春夏なのに中綿”というような、違和感のある素材や仕様のものが今シーズンはあります」
――春夏のアイテムが発売されても、まだ寒かったりしますよね。これは、使いやすい提案かもしれないですね。
「そうですね、中間期に使えるアイテムとして役立つと思います。この商品はナイロンを染めているのですが、シワ感や若干の色ムラ感を出すことで、アイテムの表情をつくり出しています。セットアップで購入しても、バラバラで自由にコーディネートするのも良いでしょう。僕が今日着ているジップアップのハイネックも、春夏ではあまり見られないアイテムじゃないかと。今の時期は着ていてちょうどいいですよ」
一貫した日常着を意識した服づくりで、より快適なものを提供し続ける「KIIT」。日常のなかにとけこむデザイン、そして上質な素材による着心地の良さは、着る者に高揚感を与えてくれるだろう。
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▼話を聞いた人
伊藤孝法
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北海道生まれ。中目黒の老舗セレクトショップOUTPUTオーナーで、さまざまなブランドのセールスやPRを手がける。
2014年、WWDファッショニスタ100人がリコメンド!に参加。
テキスタイルデザインや自身のYOUTUBEチャンネル、北海道でFM番組のパーソナリティーも担当している。