ファッション
空気をまとうブランド「emulation」が起こすイノベーション
2023.02.21
インナーに空気を入れることで保温性をもつ「AIRUNIT®」(エアユニット)というシステムが備わったアイテムを展開するブランド「emulation」(エミュレーション)。冬はAIRUNIT®に空気を入れて膨らませ防寒着として、春や秋の中間期には空気を抜いて薄手のアウターとして着ることができる画期的なアイテムを展開している。そのアイテムの仕組みと魅力について、株式会社スリーネイションのemulationチームに話を伺った。
取材/TAKANORI ITO
協力/YOJI HIRAYAMA(HEMT PR)
空気をまとう洋服とは
――「emulation」は一般的なアパレルブランドとは一味違うと思うのですが、コンセプトが先にあったのかアイデアが先にあったのか、始まりのきっかけを教えていただけますか?
「『emulation』は2020年からスタートしました。私たちはもともと、高品質なカジュアルアイテムをつくっているメーカーで、その協力会社から『空気が入るシステム』の提案をいただき、それを何かに使えないか、と考えたのが始まりです。
『空気を入れて防寒』というシステム自体は、アウトドアのギアやスポーツの分野で既にあるものでしたが、それをファッションに落とし込むという作業は今までなかったと思います。このシステム自体が斬新というか目新しいものだったので、作業はなかなか難しいものになるとも感じていました。空気を入れて膨らますこのギミックを、どのようにして自分たちが普段から慣れ親しんだファッションに落とし込むか、そういうところから始まりました」
独自で開発したシステムAIRUNIT®をファッションに落とし込む
「空気を入れる機能的な素材を、アウトドアやスポーツではなく、あくまでも普通に着られるアイテムに取り込むために開発し、私たちはそれに『AIRUNIT®』と名付けました。ベストの形状にしてユニット化することで、自分たちが普段つくっているアイテムや色々なものに取り込める仕様にしました。AIRUNIT®の裏面にはフィルム素材が貼ってあり、二重構造の部分に熱圧着することで、その間に空気が入るという仕組みです。気密性が高く、優れた技術がなければ空気が抜けてしまったり、パンクしてしまったりしますが、生産を担う工場では、アウトドアギアなど実際に過酷な状態にも耐えられるものをつくっているため、品質面では申し分のないハイクオリティーなパーツになっています」
「商品には手動のポンプと息で膨らますチューブタイプのものがついており、それを使って空気を入れて好みの厚さにします。そこで気になるのは空気の暖かさだと思います。実は空気自体はものすごく断熱性が高いもので、例えば真冬は、わりとパンパンに空気を入れたいところですが、そこまで思いっきり膨らまさなくても、十分な暖かさがあります。東京の冬なら30%ほど空気が入っていれば十分暖かいと思いますよ。防寒着といえば、綿とかダウンが一般的ですが、結局のところ、ダウンや綿の間に入る空気の層が暖かさをつくっていて、綿とかダウンそのものが暖かいわけではありません。AIRUNIT®は冷たい空気は遮断し、体温で温められた空気が中で滞留するため暖かいのです。逆に、春や秋の中間期は少しだけ空気を入れたり、もしくは空気を全く入れずに着ることもできます。空気の量で洋服のシルエットが変わるという点も、ほかのブランドにはないemulationの特長だと思います」
性能だけではない。
アーバンでファッショナブルなデザインこそがemulationの凄さだ
――機能素材をメインで使うとアウトドアテイストのデザインになりがちだと思うのですが、emulationのラインナップを見ていると、とてもアーバンでスタイリッシュさを感じます。次はデザインワークについて、教えてください。
「最初から、ギアのデザインにはしないというのは考えていました。親和性が高いのは分かるのですが、着ているところを見た時に、あえて機能素材が中に入っているとは分からないような雰囲気でつくることを大切にしています。“ファッショナブルなアイテムと機能性”というミスマッチなところが、面白さだと考えています。あとは、街で着られるデザインという点に重きを置いています。アウトドアシーンでももちろん機能は発揮すると思うのですが、電車に乗っている時に暑くなったら空気を抜く、みたいなこともできるので、シーズンだけでなくシチュエーションに合わせて活用していただきたいと思います」
「ここからは人気が高く、春などの中間期にも重宝するアイテムを3つご紹介します。どれも中にAIRUNIT®が入っていて、それが膨らんで防寒着になるようには見えないと思います。そこがemulationの面白いところ。まずはステンカラーコートです。ビジネスでもカジュアルでも使える雰囲気で、大きなポケットがポイントです」
「Vネックで、カーディガン代わりにして着られるアイテムです。ミドルアウターとして、真冬は空気を入れて防寒のインナーに使っても重宝するアイテムです」
「ミリタリーコートです。これはかなり人気のアイテムで、ファーストシーズンからある定番です。毎回ブラッシュアップしながら展開しています。後ろのゲームポケットがポイントで、今シーズンは全部で9型あります。そのほか重衣料系もあれば、シャツジャケット的な軽いものまで、バリエーションも豊富です」
emulationのこれから
――ブランドデビューから2年ほどで有名セレクトショップのバイヤーから多くの支持を得ていますが、この短期間でこれほどの支持と話題を集めた理由はなんだと思いますか?
「有名セレクトショップさんはアウトドア専門ではないため、ギア的な性能がありながら普段から着られるデザインというのが支持されているのだと思います。更に話題にもしていただいて、ブランドの広がりを感じています。ありがたいことです」
――emulationの今後の展開などもお聞かせいただけますか?
「定番のものをブラッシュアップしていく予定です。新しいアイテムは、テクノロジー系のAIRUNIT®とは対極の、クラシックやビンテージ的な雰囲気をもつアイテムと掛け合わせたものを考えています。またemulationは綿やダウンを使わないところに、サステナブルな側面があると思っています。使っているのは空気なので! 今後は、リサイクルポリエステルなどのサステナブルな素材も使っていきたいと考えています。今は日本での販売のみですが、海外バイヤーからも引き合いは来ているので、海外展開も考えています」
アーバンでスタイリッシュなルックスに、アウトドア的な防寒性を兼ね備えたemulation。ブランドコンセプトの素晴らしさだけでなく、デザイン性の高さや品質の良さにもぜひ注目してほしい。今後も目が離せないブランドだ。
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伊藤孝法
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北海道生まれ。中目黒の老舗セレクトショップOUTPUTオーナーで、さまざまなブランドのセールスやPRを手がける。
2014年、WWDファッショニスタ100人がリコメンド!に参加。
テキスタイルデザインや自身のYOUTUBEチャンネル、北海道でFM番組のパーソナリティーも担当している。