ファッション
選ばれ続けるのには理由がある!「GREGORY」のバッグ進化論
2022.06.10
グローバルバッグブランドとして1970年代から今日に至るまで、揺るぎない人気を誇る「GREGORY(グレゴリー)」。その歴史とアウトドアからカジュアル、ビジネスまで各シーンで支持される秘密を、グレゴリー・ブランドディレクター・中島健次郎さんに聞いた。
取材/TAKANORI ITO
“世界で最も優れたバックパックをつくる”という信念を掲げてスタート
――まずは、「GREGORY」(グレゴリー)がスタートした経緯を教えてください。
「1977年にアメリカのサンディエゴで、ウェイン・グレゴリーというバックパックデザイナーが創業したことが始まりです。当時ウェイン氏は、アウトドアメーカーの手伝いやアウトドア用品のリペアの仕事をしていましたが、アウトドアで本当に使いやすいバッグが見当たらなかった……。そこで、『グレゴリー・マウンテン・プロダクツ』という、“世界で最も優れたバックパックをつくる”という信念を掲げてスタートしたそうです」
――最初からバックパックをつくったのでしょうか?
「はい。当時のアメリカでは『バックパッキング』という、長期間自然の中に入って旅行するアクティビティが流行していました。バックパックの外側につくのが主流だった『エクスターナルフレーム(背負子)』を、いち早く内部に入れ込んだのがグレゴリーです。1977年につくられた『カシン』というモデルが、現代のアウトドア用のバックパックの基礎となりました」
「これは、2006年の登場から現在まで販売されている、山や自然の中へ行く時にぴったりな、グレゴリーの代表的なモデル『バルトロ』です。以前のバックパックは性別や年齢、体型などの差があっても、みんな同じ物を使うしかありませんでした。このモデルは背中にベルクロ(マジックテープ)がついていて、身体に合わせて長さの調節ができます。“サイズフィッティングできるバックパック”という概念を持ち込んだのは、グレゴリーが最初です」
90年代の日本では、アウトドアというよりファッションとして流行
――90年代に日本で大流行したものに「デイパック」というモデルがありますが、これはいつ頃誕生したのでしょうか?
「アウトドアといってもさまざまです。バックパッキングのように、食料や宿泊用のテント、スリーピングバッグなどを持って長期間自然の中に入る物や、ハイキングで森の中を歩くような、一日で完結するアクティビティもあります。
一日で完結する場合、大型のバックパックは必要ない。『デイパック』はそういった用途のためにラインナップされた物で、創業翌年の1978年頃にはすでにありました。日常生活でも使える、アウトドアとして優れた性能のあるバックパックです」
――90年代の日本の流行り方を考えると、アウトドアスタイルの人はもちろん、ストリートや古着ファッション好きなど、さまざまな人がグレゴリーのデイパックを持っていましたよね。
「日本での『デイパック』のブームを受けて、ここから日本とアメリカで大きく方向性が変わっていきます。グレゴリーはアメリカ本国ではアウトドアメーカーであり、アウトドアのフィールドで使うバックパックのクオリティを高める方向に突き進んでいます。クルマや家電のように日々開発・生産が行われ進化し続けています。対する日本では、アウトドアと並行してカジュアルさや日常生活用としての需要も大きいのです」
――日本ではグレゴリーがアウトドアブランドであると理解されていましたが、さまざまなファッションに取り入れられたことがブームのきっかけになったのですね。ファッション雑誌の取り上げ方も、ギアというよりファッションアイテムとしての方向性が強かったように思います。
「当時はみんなのなかに、“アメリカのアウトドアブランドの物を持ちたい”という思いがあったはずです。価格は20,000〜25,000円でした。当時の商品が載っている資料を見ると、バックパックのデザイン自体は変わりませんが、タグのデザインが変わっています」
――タグのデザイン変更は一度だけではなく、数回行われているのですね。
「90年代の日本ではファッションアイテムとして認知されており、ロゴデザインが変わると古いデザインにプレミアがつくこともありました。今ではアウトドアのバックパックのロゴが変わったからといって、古いデザインの物が欲しいという人はあまりいないと思います」
――当時「ロゴデザインが変わる」と話題になったのを覚えています。ビンテージブームや古着ブームがつくった、日本独自のカルチャーではないでしょうか。
「グレゴリーはアウトドアブランドながら、日本ではファッション用としての切り口で知名度が上がっていきました。アメリカでは学生の通学用に100ドル近くする、デイパックを使う習慣はほとんどありませんでしたから。グレゴリーの『デイパック』は良い素材を使い、耐久性に優れたこだわりのアイテムですが、日常で使うにはオーバースペックな面があります。
なぜ流行ったのかというと、90年代は“一番良いものが欲しい”という意識をみんながもっていた時代だからです。このアイテムが一流品だということをみんながわかっていたと思います。ジーンズでは『リーバイス』、靴では『レッドウィング』がそうだったように、バッグではグレゴリーが選ばれたのではないでしょうか」
――「デイパック」が大流行し、同時期に「テールメイト(ウエストポーチ)」も流行したと思うのですが、これはいつ頃発売したアイテムですか?
「『テールメイト』は『デイパック』が出て10年後くらいに登場したと思います 」
――当時、荷物の多い時は「デイパック」、ちょっと出かける時は「テールメイト」と使い分けられるよう、2つ購入したいという人は多くいたのですね。
「日本で“ウエストポーチを斜めがけ”する人が出てきたのもこの頃です。今では当たり前になりましたが、当初はアメリカ本社も日本の独自の使い方に対する戸惑いがあったと思います。自然の中では大きなバックパックを背負って、すぐに取り出せるものは『テールメイト』に入れたり、更に小ぶりのバッグをランニング時に身に着けたりといった、使い分けは考えていなかったのでしょう」
――これも日本スタートのカルチャーといえるのかもしれませんね。
「日本でグレゴリーの認知度が上がっていくなかで、日常で使うライフスタイルバックパックとして、『デイパック』『テールメイト』を中心としたラインナップを充実させていきました」
スーツスタイルにも合う3WAYで便利なビジネスバッグは売れ行き好調
――グレゴリーというブランドを語るうえで、もうひとつ忘れてはいけないのが、ビジネスバッグとしての使い方だと思うのですが。
「90年代にグレゴリーのバッグで通学していた世代が社会人になり、スーツを着るビジネススタイルが中心になってきました。グレゴリーというブランドは支持しているものの、使うシーンが変化した若者たちに向けて、グレゴリークオリティのビジネスバッグをつくったら……。という経緯で生まれた物が『カバートクラシック』というシリーズです。
以前あったビジネスシーンでも使えた3WAYのミッションパックというモデルは現在では販売していませんが、進化版の『カバートミッション』というバッグを展開しています。これは、ブリーフケース、ショルダーバッグ、バックパックにチェンジできる3WAYモデルです。スマートフォンの収納用に必須の表面のポケットがあり、近年はテレワークでノートPCを持ち運ぶ人が多く、好調な売れ行きです」
「この3WAYのシリーズからバックパックに特化したモデルが、『カバートミッションデイ』です。以前はビジネスバッグでバックパック型という選択肢はありませんでしたが、今では普通に使われています」
グレゴリーブームが確信的な人気に変わったのは、本格派のアウトドアバックパックから、ライフスタイル、ビジネスまで、さまざまなシーンで使える利便性によるものだ。時代に合わせて進化を続ける、高いクオリティに裏づけされたものといえるだろう。
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▼話を聞いた人
伊藤孝法
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1973年北海道生まれ。中目黒の老舗セレクトショップOUTPUTオーナーで、さまざまなブランドのPRなども手掛ける。2014年、WWD日本のファッショニスタ100人にも選ばれ、自身のYOUTUBEチャンネル「ファッションとカルチャーとme」も更新中。